ヴィオラの“異物感”の提示
部屋には、目に見えぬ魔力の流れが満ちていた。
天井から壁へ、壁から床へと、淡い川のように巡っていく――
この家が呼吸しているかのような、静かで均質な流れ。
けれど。
その中で、ヴィオラの立つ場所だけが、ぽっかりと“空白”になっていた。
まるでその一点だけ、風が止まり、
光さえも足をすくわれて佇んでいるかのような、不思議な静けさ。
彼女の足元に影は落ちているのに、
影を取り巻く魔力の粒だけが、そっと避けて流れていく。
本人はただ、いつものように呼吸を整えただけだった。
「……ふむ」
小さく吐息を落とすと、周囲の魔力がその一音にわずか震える。
しかし揺れたのは部屋のほうで、ヴィオラ自身は微動だにしない。
その静けさは、この世界のどこにも属していない。
ひとつの異物が、世界の布の上にそっと置かれている――そんな感触。
リリアは気づかない。
ただ、ほんの一瞬だけ“寒気のようなもの”を感じて身をすくめた。
「……お嬢様?」
ヴィオラは振り返り、相変わらず淡々とした声で言う。
「いや、何でもない」
その言葉だけが、この世界の魔力の流れからそっと浮いていた。




