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おもてなしと協力依頼

 ゆっくり更新してます。

 タイトルセンス皆無…。

 「少し出る」

 ゼヴァローダ様が後ろを振り向き、付き従っていた人たちは「はい」と頭を下げた。

 「さぁ、行こうか」

 近づいてきたゼヴァローダ様の手が、すっと背中に回る。

 「あの」

 「目を閉じて。大丈夫だから」

 言われて思い出したのは、ここに連れてこられた時の奇妙な感覚。

 ぎゅっと目が白く見えるくらい硬く閉じていたら、温かい心地良い風が吹きぬけた。

 「着いたよ」

 確かに足には床の感覚がある。

 そっと目を開けば、そこは大理石の柱と壁に囲まれた神秘的な部屋だった。部屋の中は壁に埋め込まれている水晶が、淡い光を放って優しく輝いていた。

 今立っている部屋の中央は数段高い円形の台になっていて、そこからドアまで赤い絨毯(じゅうたん)が一本道のように敷いてある。

 「私の邸だ。来なさい」

 幼子に呼びかけるように優しくそう言って、背中に回したままの手で促す。

 ゆっくりと、ドアをくぐった後にも続く大理石の豪邸とおもわしき邸の中を、私は緊張した面持ちで歩き続けた。

 廊下の端に、一定感覚で飾られている大きな花瓶の花をいくつ見ただろう。

 途中絵画もあった気がするが、よく覚えていない。

 気がつけば、大きな両開きのドアの前に立たされていた。

 「さぁ、どうぞ」

 自らドアを開いて、先に入るように背中を軽く押された。

 「お待ちしておりました」

 視界に広がる部屋には、1人の若草色のドレスを着た女性と、5人のメイド服を着た女性が並んで頭を下げていた。

 「急にすまない」

 「いいえ」

 ドレスを着た女性がゆっくり頭をあげる。

 金色の混じった茶色の髪をきりっと纏め上げ、目尻に皺があるがそれすら美しいといえるほどの美貌の女性が、にっこりと私に微笑んだ。

 「こちらはロレンヌ夫人。あなたの世話をする」

 「え?」

 困惑してゼヴァローダ様を見れば、彼は頷くだけだった。

 「いろいろ説明したいが、どうにも時間が無くてね。とにかくここで休んでくれ」

 「あ、あの、村へ…」

 「帰してやりたいが、今は出来ない。

 夫人、後は頼む」

 「かしこまりました」

 「では、また」

 すっと軽く私に頭を下げ、ローブを(ひるがえ)して颯爽と出て行かれた。

 「エレン様」

 呆然とする私にロレンヌ夫人が声をかけた。

 びくっとして、おそるおそる顔を向けると、にこにこと微笑む姿があった。

 「いきなりの事で困惑されていると思いますわ。

 でも、どうか安心してお任せ下さい」

 「でも、私、母が…」

 「連絡はついているはずです。旦那様も夜には戻られますので」

 近づいてきた婦人に背中を押されて、少しずつ中に歩き出すと、メイドさん達もさっとそれぞれに散ってにこやかな笑顔で迎えてくれる。

 「まぁ、こんなに冷えて。いけませんわ、すぐにお湯を」

 「はい」と左側の壁にあるドアの向こうへ、2人のメイドさんが消える。

 「準備はしておりましたので、すぐ温まりましょう」

 肩を抱かれるように、終始ロレンヌ夫人のペースで浴室へと連れて行かれた。

 薄着に着替えて待ち構えていたメイドさん2人に服を脱がされ、断ろうにも「大丈夫ですよ」といわれ続け、ふんわりいい匂いのする泡で髪を洗われ、少しピンク色をした泡で体も丹念に洗われて、気がついたら広い湯船に肩までしっかり浸かっていた。

 「何かありましたら、お呼び下さい」

 後片付けをしてメイドさん2人は去った。

 「はぁ~…」

 初めてこんな贅沢なお湯に浸る。

 ほんのりお湯からも花の香りがして、冷えていた体がポカポカと温まってくる。

 しっかりお湯を堪能して上がれば、待ち構えていた2人に体を拭かれ、髪を乾かされて、触った事も無い上質な生地作られた下穿きを用意され、バスローブを羽織って部屋へ戻される。

 「急な事で既製品ですが、御容赦下さいね」

 そう言って見せられたのは十数着のドレス。

 「わ、私の服は!?」

 「仕立て直しますので、お借りしました」

 絶対処分されたと思う。

 「私、ドレスなんて着たこと無いです」

 「まぁ、でしたらこちらの水色のドレスはいかがです?エレン様の綺麗な目に似合いますわ」

 見せられたのはふんわりした水色のドレス。

 首元や袖口にはレースが控えめに付けられ、スカートの部分は足元に近くなると藍色になるようグラデーションになっていた。主張し過ぎない程度のスパンコールも付いていて、ロレンヌ夫人は「少し地味でしょうか」と言っていたが、十分素敵なものだった。

 メイドさん総出で着付け、髪もハーフアップに結上げ、薄い化粧を施してもらった。

 「まぁ!素敵なレディですこと」

 ロレンヌ夫人が褒めれば、メイドさん達も「本当に」とうなずく。

 鏡の中の私は別人のような姿だった。

 目の色が無ければ、自分でも信じられなかっただろう。

 「まだ旦那様がお帰りにならないので、先に御夕食を召し上がって下さいまし」

 「はい」

 お腹がすいているのにようやく気が付いた私は、今度は素直に頷いた。

 少しして部屋に運ばれてきた夕食という名のご馳走は、とても1人分とは思えない品数と量で、やっぱり場違いな所にきてしまったと思い出させるものだった。

 どれもこれも普段食べているものより濃く、味も甘味、塩味がはっきりしていて、少し食べてはこれまたふわっふわの焼きたてパンを口に入れて、味を薄めて食べる方法で乗り切った。

 ロレンヌ夫人と軽く話をして、デザートの氷菓を初めて食べて感動していた時。

 「エレン様は、基本的なお食事作法をご存知ですのね」

 と、感心したように言われた。

 よくよく考えれば、普段はスプーンと手で食べているのだ。銀食器なんて使ったことは無い。

 今出来たのは多分前の記憶。

 膝上のナプキンだってそうだ。食器の順番も無意識に使っていた。

 「あ、あのロレンヌ夫人。私はこれからどうなるんでしょうか?」

 「心配要りませんわ。エレン様は旦那様のお客様として招かれているのですから。(わたくし)も詳しいことは存じませんが、旦那様がお戻りになったら、すぐお話があるでしょう」

 そう言って、更に別の果物デザートを勧められた。

 ごちそうさまでした、と言ったが、皿にはまだ残っている。

 村祭りの時でも食べないくらいの量をしっかり食べたが、もう入らない。もったいないがここらが限界ですと、残った料理に心の中で合掌する。

 お腹の満腹感が落ち着いた頃、下がっていたロレンヌ夫人が戻ってきた。

 「旦那様がお帰りになりました。すぐこちらへいらっしゃるそうです」

 「わ、わかりました」

 座っていたカウチソファから立ち上がり、深呼吸して姿勢を正す。

 「そんなに緊張なさらずとも」

 くすくすロレンヌ夫人に笑われたが、国の有名人に会うのだから緊張しないはずがない。

 やがてノックの音がして、ロレンヌ夫人が私の顔を見て頷いてから、ゆっくりとドアをあけた。

 「遅くなりましたね」

 疲れなんて微塵も感じさせない笑顔で、ゼヴァローダ様が足早に近づいてきた。

 「あの、いろいろとお世話になりました」

 それだけしか言えなかったが、頭を下げて感謝を示す。

 「いいえ、とんでもない。その服もとてもお似合いです」

 見上げれば、見惚れるほどの笑顔があった。

 やや笑みを薄くし、ゼヴァローダ様は首を後ろにひねる。

 「夫人、ありがとう」

 「いえ。では私はこれで失礼致します」

 深々と頭を下げ、サッと部屋を出て行った。

 「いろいろ話すことがあるが、まずは母君のことは心配要らない。あなたがここに滞在することを、やっとのことで許してくれたよ。期限付きだがね」

 苦笑するゼヴァローダ様が「だいぶ怒られたよ」とも言ったので、私は顔から火が出そうだった。

 「期限は1週間。ここに滞在してもらうんだが」

 一度言葉を切って、顔から一切の笑みが消えた。

 「こんな事を言える立場ではないが、あなたにどうしても協力してもらわなくてはならないことがある」

 「協力?」

 仰ぎ見る私に一度頷く。

 「”炎帝”の魔法使いを救って欲しい」

 その名を聞いて目を見開いた。

 「本当は先にシャーリーン達が来るはずだったんだが、彼が駄々をこねているらしくてね」

 「彼?ベルですか?」

 「そう。あなたが保護したのは”炎帝”の魔法使いの『魂』と、彼の精霊シャーリーン。そしてこの邸にいるのは、入れ物と化した『体』だ」

 は?と、一度で理解できなかったのは分かって欲しい。

 読んでいただきありがとうございます。

 誤字などありましたら、すみません。

ベルが間違った名前になってました。訂正しました。

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