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その後の後始末 【2】

本日も眠っているエレンの裏での話。

ちなみにキラス様はぐっすり寝てらっしゃいます。

 御神木は寿命を迎え、自らの意思で消滅した。


 これが公式発表された全てであった。

 御神木が悪であったなどとは言えない。

 人と魔力を持つ存在との間に亀裂を生んではいけない。

 このバランスが崩れることを魔法使いは恐れたし、人の上層部も未知なる力を持つ存在相手に戦おうとは思わない。

 これがこの世界のルールなのだ。

 王命により御神木のあった森の全てが立ち入り禁止とされ、厳重な警戒がしかれることになった。好奇心の強い人というのは、たとえ王命であっても破ろうとする。午後になりすでに2名が捕縛されたと聞き、

コーランは頭を抱えた。

 今夜の王城主催の夜会は、謝恩に加え、新しい”雷帝”の誕生の祝いと、寿命を迎えた御神木を偲ぶ会として、予定通り行われることになった。

 公式発表がされたので、魔法教会といえど大騒ぎするわけにも行かず、まだ納得できていないエラダーナの議長やらからようやく開放されたコーランは、ほっと部屋で一息ついていた。

 「お疲れ様でした」

 手に包帯を巻き、服に隠れている部分にもまだ手当のあとがあるシンシアがお茶を用意した。

 それを黙って見つめ、シンシアを見上げた。

 「とんだ災難だったな。怪我はいいのか?」

 「はい。かすり傷ばかりです。腰を打ちましたので、歩き方が変ですが、お笑いにならないでくださいね」

 ふふっと笑うシンシアに、コーランは笑ってうなずいた。

 「カレン……エレンさんはどうなりましたか?」

 「今はゼヴァローダの邸だ。何かあったらシリウスにつけている使い魔が知らせるだろう」

 「……差し出がましいようですが、エレンさんはどうして巻き込まれたのでしょうか。シリウス様関係、ということでしょうか」

 コーランはちらっとシンシアを見てから、ふうっとため息をついた。

 「だろう、と思う。大体火と大地の属性は相性が一番悪い。だからこそ”祝福の大樹”は、巨大な魔力を持つ魔法使いに自分の眷属を必ず監視としてつけるのだ。あの火山の一件ですら、今回の御神木が厄介な”炎帝”を始末しようと意図的に行ったのだ。運良く生き残ったシリウスを今度こそ始末したかったのだろうな」

 「そんなっ!」

 シンシアは目を見開き、あわてて聞き返した。

 「そのような、公式には発表されていない事をわたくしに言われてよいのですか!?」

 ははっとコーランは笑い、シンシアを穏やかに見た。

 「お前もシリウスに深く関わってきた1人だ。これからもそれはかわらないだろうし、今からはもう1人見守る人間が増える。そのくらい知らんでどうする」

 実はこのことは王へ謁見の際、人払いをして議長と3人になった時に今回の件の発端として話した。

 コーラン自信も”祝福の大樹”から聞かされ驚いた。一緒にひざまずいていたファラムの議長も目を見開いて声を失っていた。

 シリウスに伝える必要はないが、知っておくべき人間には伝える。これが”祝福の大樹”からの条件だった。つまりは教会と王だけの秘密なのだ。

 コーランはそこにシンシアを加えた。

 彼女はコーランのメイドではあるが、シリウスとコーランや教会の橋渡しとしてこれまで動いてきた。こらからも彼女はその立場であり続けるだろうとの考えからだった。

 「過ぎた力を持っているがゆえ、あれは人より尊い存在からも狙われておるが同時に守られてもいる。皮肉なことに、御神木が仕掛けたことでシリウスは大事な人を見つけたのだ。わしは少しだけあの御神木に感謝しておるよ」

 とても人前では言えないがな、と笑ったコーランを、シンシアも困ったように笑顔で見つめた。

 そしてシンシアにも言えなかったことを思い出していた。

 ”祝福の大樹”が自分だけに語ったエレンのことを。

 このことはシリウスが自ら語るまでは、自分は知らないことにしようと決めた。それでもあのシリウスだ。いつかはボロがでそうだ。だからシンシアにもある程度真実を話し、外部からのシリウスへの過剰な接触を避けさせる防波堤となってもらおうと思ったのだ。

 「さて、どんな理由があろうと夜会にはひっぱりださんといかんな」

 「まぁ。それは大変そうですね」

 全くだ、とコーランはどっと疲れが出てきた。

 願わくばエレンには、夜会までに1度目を覚ましてもらいたい。



 ゼヴァローダは自室で、深いため息をついていた。

 目の前にはやっと立てるくらいに回復したジャクスターが、目に見えて恐縮しきった顔で身を硬くして立っていた。

 「ジャクスター、一体いつからあの御神木とつながっていたのですか」

 「エレン様がこちらに滞在されている時からです。突然使いだという精霊が現れました」

 あの頃はファラムにシリウスのことを誤魔化すため、邸のことはジャクスターに任せていた。報告もそのまま受け流すように聞いていた。

 「それで?」

 「はい。シリウス様の様子を聞かれました。不思議には思いましたが、火山の噴火を止められなかったと嘆いておいででした。その時エレン様のことを言われました。すでに滞在していると申したら、それは良かったと言われ、そしてゼヴァローダ様について言われました」

 「御神木はすでにエレン殿のことを知っていたからな。それで私のこととは?」

 ジャクスターは1度頭を下げ、顔を上げ今までよりなぜか嬉しそうに話した。

 「ゼヴァローダ様は”雷帝”になるだけの素質があるが、質の良い魔力しか溜め込めないから認定式でいつも弾かれていると。エレン様から漏れる魔力は不純物を取り除いた魔力の源であるから、彼女から魔力を補給すればいつでも”雷帝”になれると言われたのです」

 ゼヴァローダは片手で頭を抱えた。

 「そんなことのために、あの夜私を御神木の前に呼んだのですか」

 「そんなこととは申しましても、あなた様が”雷帝”に就くのは当然のことと、あなたを知る精霊はみな思っています。人望もあり、精霊も属性関係なくあなたの魔力に惹かれている者が多数いるのは事実です。そんな方を高みに祭り上げたいと思うのは精霊として当然です」

 時に精霊は思い込みが激しいのだ、という話を思い出した。

 ”祝福の大樹”より彼を付けられてすでに20年近く過ごしたが、こんなに彼と話していて頭が痛くなったのは初めてだ。

 「ジャクスター、何度も言うが、私は”雷帝”に執着はない。もう二度と私を担ごうなどしないで欲しい。わかったな」

 「はい。もう二度と致しません」

 自分のせいで、主を御神木討伐という不名誉なことをさせたのだ。

 ジャクスターは心の底から反省し、頭を下げた。

 人にとっては”祝福の大樹”に任命された名誉ある討伐だったのかもしれないが、精霊の間では不名誉なことだった。それは討伐された側も討伐した側にもいえることだ。

 精霊はとにかく同族を大事にする。

 ”祝福の大樹”の怒りをかったばかりか、討伐を下位の存在である人に依頼するなどあんまりだ、ということだ。”祝福の大樹”が直接諌めてくれたらと思う精霊も多いだろう。だが、あえてそれはなされず、シャーリーンとコーランが代理で見届ける討伐という形がとられた。

 御神木は下位存在に消された不名誉な死。

 討伐した側は上位存在を消した不名誉な者。

 そこに”祝福の大樹”の決定があるから表立っての抗議はないが、精霊たちはその認識を少なからず持ち続けるだろう。

 「ではしばらく休養しなさい。生まれた森へ戻るか?」

 「いいえ、もう動けます。力を使う必要もしばらくはありませんので、支障はないかと」

 そうか、とうなずいてゼヴァローダは立ち上がった。

 「話は終わりだ」

 そして机に近づくと、開封されていない大判の封筒を手に取り、中身を確認して笑った。

 「ちょうどいい時に届いたものだ」

 「それは、御当主様からですか?」

 「そうだ。例の件に関しての押印を求めていたのだが、私が決めたのならそれでいいとのことだ。もう少し人を疑うよう言わねばならぬな」

 苦笑するゼヴァローダに、ジャクスターは首を振った。

 「弟君はゼヴァローダ様をご信頼しているのです。それにすでに籍はなくとも御兄弟でいらっしゃるのは、永遠に変わらない事実でございます」

 その言葉は彼女の母からも言われた言葉だった。

 「そうだな。これで何か変わればいいのだがな」

 そう言って、その書類を持ってゼヴァローダは部屋を出て行った。



お盆ですね。

海には近づかないようにします。それではお墓参りに行きます!

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