前向きに…
ちょっと区切りがいいので、短いですが更新します。
「さて、エレンちゃんお部屋に戻っていいよぉ。そろそろここのメイドが戻ってくる頃だし」
「あ、はい」
さっと時計を見れば夕方4時を過ぎていた。
「一緒にいる先輩メイドにもし怒られたら、あたしに話し相手になれって言われたって言えばいいよ」
「え、でも…」
「大丈夫だよぉ。あたしシリウス殿よりマシだと思うけど、問題児だから」
なぜか胸を張って言い切った。
なんと返せばいいのか困ってしまい、あいまいに微笑んでおく。
「で、では聞かれたらこちらにいた、ということにさせて頂きます」
「いいよぉ」
「では、失礼します」
「うん」
頭を下げ、入り口まで歩いていき、ドアノブを握ろうとして私は1度キラス様を振り返った。
「ん?どうしたの」
私はくるりと体ごと向き直った。
「あの、キラス様、1つよろしいですか?」
「うん、いいよ」
ぎゅっと両手でスカートを握り締め、私は声を絞り出した。
「わ、私、迷惑な存在ですみません!」
じんわりと視界がボケた。
目がどんどん熱くなる。
キラス様は大きく目を見開いた後、足早に近づいてきた。
「何言ってんの?」
やや前かがみになり、大きく首を傾けた。
「だって、私がいると利用されるって……みんなが」
「怒る?」
「いえ、心配してくれるんです。でも、私自分では何もできなくて…」
「当ったり前じゃん、ただの人なんだから」
あっけらかんと言うキラス様は、腰に両手をあて、はぁっと大げさにため息をついた。
「みんなそれぞれ役割があんの。シリウス殿は惚れた弱みってやつ?とにかく自分の女は自分で守れってことだし、あたしは”祝福の大樹”からのお願いに歓喜してるし、やり遂げて褒めてもらいたいしねぇ。しかも御褒美くれるって約束だし、んっ、楽しみ。それにエレンちゃんだけじゃないんだよぉ、保護対象って」
「え?」
うつむいてた顔を上げると、溜まっていた涙がつぅっと頬を伝った。
「世界は広いの。いろんな事情で”祝福の大樹”達が保護してる隠された人たちがいるって話だよ。もちろん、知っているのはほんの一部。それも協会とか種族間とか一切関係ない、すっごい数少ない人達だけ。そんなのに関われるなんて、あたしってすごくない?」
「す、すごいと思います…」
「でしょーっ。気にすることないよ」
ぽんぽんっと私は頭を軽く叩かれ励まされるが、素直にうなずけない。
表情の晴れない私に、キラス様はほぼ無表情のまま更にすいっと顔を近づけた。
「じゃあさ、また魔力枯渇したら補給させてよ。あ、シリウス殿に怒られそうだから内緒でね」
「え、あの……」
「大丈夫ぅ。悪意がなかったら罰もないし、あたしは純粋に魔力回復だけの目的しか持たないし、もし野心をもっても実行する前に”祝福の大樹”から殺されちゃうし」
「ころ!?」
すっかり涙がひいて、くよくよしてた想いも吹き飛んだ。
「そうだよぉ。”緑帝”て大地の力だから、その気になったら大地を枯らせるし、つまり生き物の生命線にぎってるんだよ。だから必ずあたしらは”祝福の大樹”と従属の儀をするんだ。そうすることで、あたしら”緑帝”は野心を押さえ込まれるって話だよ。つまり帝位持ちの中で”緑帝”は最強ってことぉ。すごくない?」
「す、すごいです」
「でしょでしょ?例えば”炎帝”が大地を焼いてもすぐ植物を芽吹かせるし、逆に”水帝”が洪水起こしても大地がその水全部吸っちゃうし。あっ、本当にすごいや、あたし」
自分で言って気づいたらしい。
はっとして、わずかに目を開くと、にんまりと笑った。
「まっ、ようするにあたしに任せてって話だよ。ここの御神木の魔力を吸い取ってでも成功させるから」
「吸い取れるんですか?」
「うん、高位の魔法使いは同じ属性の魔力ならどうにか自分のものにできるよ。でも、正直負担が大きいから普通はしないね。魔力って自分の魔玉で自分に合うように変換して溜めてるから、他人の魔力奪っても、また自分仕様に変換しなおすって倍に時間かかるし。あ、でも大地の属性はさほど負担はなくてね、逆に気性の荒い火や雷の属性なんか相当個性があるから、瀕死の状態で他の人の魔力なんて吸えば体の負担が大きくてそのまま死んだりするらしいよ。だから火や雷の魔法使いはめったに他人の魔力に手を出さないよ」
それを聞いて、ふと瀕死のシリウスに初めてあった時を思い出した。
真っ黒に変色した魔玉はもうほとんど機能してなくて、青い顔をしていた。
あの時、私がいなかったらシリウスは死んでいたのだ。
偶然でも、とにかく私がいたから彼は今生きている。
私は、自分に感謝していいのだろうか。
うつむいた私をじっと見ていたキラス様が、もう1度ぽんぽんっと頭を軽く叩いた。
「あのね、難しく考えても仕方ないよ。自分にある能力は最大限自分で利用しなきゃだめだよ。能力に飲まれたら苦しいばかりだからね」
「キラス様…」
「ついでに言えば、あたしもシリウス殿に貸しが作れるというものだし」
「え?」
「ふふふっ、見返り楽しみだよ。宝石とかじゃシリウス殿悩まないだろうから、1年間毎日のようにお菓子を貢がせるっていうのが、一番精神的に悩んでくれそうだよね。彼といい、兄上のマリウス殿といい、あぁいう顔のいい男が悩んだりする姿って笑えるよねぇ、ぶっ!」
想像ができたのか、最後は噴出して口元を手で覆った。
「あの、キラス様は…」
「あっ、勘違いしないで。恋愛対象なんかじゃないから」
私の言いたいことを察して、ぱっと顔を上げいつもの無表情できっぱりと否定した。
「恋愛って自分より大事な存在見つけることでしょ?あたしはあたしが1番だし、男女関係なく人が困ったり悩んだりする顔見るの好きなだけだから。つまり観察対象として興味があるだけ」
「あ、そうなんですか」
どこかほっとした声を出すと、キラス様はすっと目を細めてにんまり口角を上げた。
「今のエレンちゃんの顔もおもしろいねぇ。困惑したり、ほっとしたり忙しいね」
「え、あのっ」
「あ、そろそろ本当に時間やばくない?」
急に話を切り替え、キラス様は時計を見た。
「あ、では失礼します!」
私も逃げるように部屋を出た。
ドアを閉める時に見えたキラス様は、先程シリウスを見送った後と同じ楽しそうな表情をしていた。
また明日頑張ります。
説明ばかりですみません!




