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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第二百六十一話】男VS老人

 ――荒廃した街の中は何処も変わらず無人だった。

 数年の放置によって生えた草木。野生の動物達の姿。人工物は揃って動きを止め、今更エネルギーがあっても動き出す物は殆ど無いだろう。

 生存の為に見捨てられた街に用のある人間は居ない。仮にあるとすれば戦場としての場としてのみ。

 争えば皆殺されるこれまでの中で廃墟群を戦場とすることはなかったが、たった二人だけが戦場として使うために姿を現した。

 襤褸の浴衣を纏う白髪の老人。黒のジャケットに紺のカーゴパンツ姿の一喜。

 両者の間に言葉は無く、一喜は廃墟に一瞬の視線を向けて歩き出す。

 

「……」


「……」


 ――この勝負には特に命を賭ける理由はない。

 老人が勝負を持ち掛けたのは一喜の秘密を暴く為。疑心を抱かざるをえない要素を極力排除したいが故にこの死合いは組まれ、一喜自身が拒絶したとしても沖縄からの帰還の最中に強制的に勝負が開始されていた。

 一喜としては勘弁願いたい話である。戦うことはそのまま疲労に繋がり、怪我の酷さも何処までいくか解らない。

 老人は女王を下したと語った。あの時に見た女王の戦力を一喜は正確に把握してなどいないが、テレビで放映された際の強さだけでも他とは強さの桁が違う。

 

 女王を倒すには莫大なリソースが求められた。人も物も、果てはカードそのものもだ。

 正面切って戦うとなれば王のカードは必要で、実際に物語の中では色無しの王を使って最後の中間フォームになっていた。

 そこから解ることは、相手の使うであろうカードの種類だ。


「まったく……なんで抜け出すのに苦労させられるんだ」


「ははは、まぁ良いじゃねぇか。 どうせ散々に言われるのは俺なんだからよ」


「当たり前だ。 これでマイナスが更にマイナスになるんだぞ。 せめて命を取るのだけは抑えろよ」


 当然、と老人は実に快活に首肯した。

 一喜達が黒の街から抜け出していることを杏子達は知らない。やらなければならないことに意識を集中してしまい、客人への対応が若干雑になってしまっているのだ。

 彼女達からすれば決めるべきものが決まるまではゆっくりしてほしいと思っている。

 しかしそれが隙を生み、こうして一喜達は誰にも覚られないように抜け出すことに成功した。

 とはいえ確認自体は間違いなく来るので大騒ぎは避けられず、戦いの後で相手が納得する言い訳を用意せねばならない。そんなことまで一喜はしたくないのだが、しておかねば老人が素直に本当のことを言い出しかねない。

 

「互いの実力を把握する為の模擬戦。 今回はこれでごり押すぞ」


「了解了解。 ――――んじゃ」


 協力し合う関係になるとはいえ、両者は正確に相手の実力の底を知らない。

 今回はその事実から理由をでっち上げ、老人はその場で己の戦意をゆっくりと解放していった。

 途端、周囲の人工物から異音が鳴る。

 罅が走る音。金属が歪もうとする音。葉が散り、動物は逃げ、空気を質量を持って眼前の敵を潰さんと攻める。

 姿を変えてはいない。しかして、相手は姿を変えるまでもなく既に並大抵の怪物が逃げ出したくなる程の圧を放っていた。

 唯一の救いは殺意が無いこと。それが乗せられていれば動物は逃げることも出来ずにその場で丸まっていたかもしれない。


「来いよ」


「ああ」


 腰に機械を当てる。

 自動で巻き付いた機械に一喜はジャケットの内ポケットから取り出した一枚を装填した。

 刹那、機械は機械的な音声と共に光を発する。

 バラバラに弾け飛ぶ光が一つの塊となり、一喜の背後で一隻の巨大な軍艦となった。

 雄大さを持つ戦艦を老人は眉一つ動かさずに見守る。この赤光の塊に己を殺す手段が無いことを知っているが故に冷静な姿勢を保ち、待ち望んだ瞬間が訪れることを彼は待った。


「着装」


 短く、既に言い慣れた言葉を紡ぐ。

 光は再度解け、彼の周りに装甲となって覆っていく。

 頑強であること。火力過多であること。その二つを追い求めた姿はやはりマッシブ極まりない。

 鈍色の分厚い装甲を持った赤い一対のカメラアイが老人を見る。

 そこに宿る戦意は決して軟弱な代物ではなく、逆に怪物に近い濃密なものだった。

 老人は目を見開く。

 その瞳は嘗て、遠目で見ていた存在と似ていた。怪物を倒す正義の使者として、必死に抗っていた戦士の相貌に酷似している。

 

 胸中を興奮が駆け巡った。

 視線が釘付けになることを止められず、息が荒くなっていく。

 不味いなと老人は内で呟いた。人間としての何たるかを思い出しても、やはり既に彼の肉体は怪物。

 己の我欲が自然と引き出され、理性が勝手に緩んでしまう。

 まるで誰かに身体が乗っ取られていくかのような感覚。これまでであれば認識することもなかった新たな実感に――――されど老人は不快感を覚えることはない。

 

 身体が自然にスタートを切った。

 開始のゴングなんて物も無く、廃墟しかない場所では何時始まるのかを決めるのは全て自分自身だ。

 摺り足で音も無しに老人はメタルヴァンガードと肉薄する。

 瞬間移動にも等しき高速の歩法を前に戦艦の身では回避を選択することは不可能だ。


「ゼィ!」


 超至近で繰り出されるのは無音の蹴り。

 胴を狙った一撃にメタルヴァンガードのセンサーと己の直感で間に腕を差し込むことで防御を取るが、相手はそんなことなどお構いなしに纏めて蹴り抜いた。

 強烈な衝撃と共にメタルヴァンガードが横に吹っ飛ばされる。

 そのまま真っ直ぐに廃墟の壁に激突し、貫通して反対側へと移動させられた。

 横倒しにされた身体を一喜は持ち上げる。マスクの内側で眉を顰める彼だったが、しかし即座にセンサーは警告を発した。

 咄嗟に真上をクロスする形で防御の姿勢を取れば、次の瞬間には衝撃が上から襲い来る。

 軋む音を聞きながら真上に顔を向ければ、老人は手刀の形で防御を突破せんと力を込めていた。

 

 地面に蜘蛛の素状の亀裂が走る。

 肉体は僅かに地面に沈み、更に力を入れていけば何れクレーターが出来上がるだろう。

 けたたましく鳴る警告音を無視してメタルヴァンガードは腕に力を入れていくも、やはり相手は並の怪物ではない。

 白黒の雑魚であれば簡単に弾ける行動が取れず、単純な力勝負でメタルヴァンガードは負けようとしていた。

 ならばと、一喜は腰の右アンカーを飛ばす。適当な建物に錨を引っ掛け、そのまま全力で巻き取りを開始。

 

 通常であれば相手を引き摺り込む錨を使って老人の意図しない横移動を行い、彼は一時的にその場からの離脱を果たす。

 だがしかし、そんなものは老人には止まって見えている。

 着地した老人は相手の移動地点へ駆け出し、メタルヴァンガードが攻撃姿勢に入ることを許さずに拳を腹部目掛けて放つ。

 その拳に今度は左アンカーを射出してぶつけ、僅かに軌道が逸れたところに今度はメタルヴァンガードが前に出る。

 拳は既に固められ、最初から手加減の文字は頭に無い。模擬戦であることを一切考慮せずに殺す気で頭部へと振るわれた一撃は――何の妨害も無しに老人に命中した。


『…………ッ』


 マスクの内側で一喜は息を呑む。

 命中したのは額。生身の状態であればいくら怪物であっても怪我の一つでも負う筈の一撃は、それでも老人の皮膚を裂くことすら出来ていない。

 完全なるノーダメージ。それは戦艦の力がまったく効いていないことを指し、即座に老人がメタルヴァンガードの腕を掴んだことで内部への障害も無いことが解ってしまった。

 

「こんなもんか?」


 無造作に投げ飛ばされる。老人の腕で成すには非現実的な勢いでメタルヴァンガードは別の建物の壁に叩き付けられ、そのまま建物が崩落した。

 崩れ落ちる瓦礫に下敷きとなったメタルヴァンガードの姿を見やり、相手の次の手を待ちながら言葉を投げ掛ける。

 こんなものではないだろう。先導者の鎧を纏っているのなら、決してこれだけで片付く筈がない。

 

 ――Second Burst !!

 

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