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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第二百六十話】強引な老人

「いいか、ルネサンスに具体的な計画は無い。 あれは賢しさとは対極に居る人間だ」


 老人は真顔だった。

 鼻で笑いながらでも、一喜を馬鹿にしながらでもない。

 彼の胸に宿る疑念を払拭する思いで真剣に返された言の葉に嘘は含まれず、また遊びも混ざってはいなかった。

 これが出会ったばかりの頃であれば一喜は信じなかっただろう。怪物のフィルターが真実を歪め、違うと一蹴して終わりにしていた。

 だが今は、その言葉を違うと断ずることが出来ないでいる。

 老人は変わった。狂人であるからこそ、内に抱えていた素直な感情を表に出していた彼は解りやすく変化した。

 凶暴性が無くなったのではない。振るわねば解決しない問題があれば、この老人は迷う素振りも無しに己の武器を使う。

 

 しかして、老人はそこに理由を求めることにした。

 至極真っ当な武力を振るうに足る過程を。ただ間違った己に牙を向けてくれる相手に戦意を見せるのではない、人を守る為に心の刃を抜く道理を。

 故に一喜は老人を嘘だとは思わない。仮にこれで老人が嘘を吐いていても仕様がないと彼は笑うだろう。

 

「……奴の行動方針は?」


 近くに設置された一人用のソファに座りつつ、一喜は尋ねる。

 信じることにしたのであれば、次に考えるべきなのは具体的な敵の方針だ。

 感情で動くとしても、それが如何なるモノからか。実際に動くにしても本人の希望がどれだけ優先されているのか。

 仕事でもよくある話だ。したくない業務を中々人はしようとしないし、不満が溜まれば何れ爆発を引き起こす。

 

「最近は女王の案をそのまま通しているが、基本的には好きにさせている。 人を殺し過ぎるのだけは避けてるけどな」


「大事な食料の維持か」


「そうだ。 近々大規模な牧場を作るって話は聞いちゃいる」


「管理が杜撰になりそうだな」


「俺もそう思う」


 ルネサンスの方針の基本は自由。

 一度仲間にしたのであれば、その後はどんな被害を出しても人を殺し過ぎなければ許される。

 人類からすれば最悪そのものでしかないが、怪物側にとって拍手喝采を送られる王であるのは確かだろう。

 とはいえ、寛大であることだけでは有能とは言えない。優しさは万人全てに有効な接し方とは言えず、誰かが喜ぶ後ろで憎悪を募らせる誰かも生まれる。

 自由を貫き通すのはルネサンスなりの平等を表しているかもしれない。それ故に引き締め役として女王が傍に侍り、飴と鞭の形を作っているのだろう。

 

 ルネサンスの方針からして特定の人物を特定の土地に縛り付ける真似をするとは考え難い。

 したのは女王と見るべきだ。自由過ぎるが故に起きる怪物同士の衝突を避けることで自滅を避け、より広範囲に居る人間を捕捉すれば管理を実行する際に初動を早めることが出来る。

 迅速は常に物事を有利に進めるとは限らないが、怪物には多少の難事は難事にはならない。

 強引に進めても最終的には人間に飲み込ませることで解決となるのだから、女王の行動は実に怪物の為になっている。

 

 大規模牧場を作る計画も女王が始めたことだろう。

 より効率的に支配することが出来るのなら、万が一を考える回数も格段に減る。

 ただ、と一喜はそこで少し疑問を覚えた。

 そうまで女王が考えられるのなら、事態は既に進行している筈だ。近々ではなく、既に形になっていると想像するべきだ。

 しかし老人は近々と語った。この老人に最新の情報が齎されていないなら兎も角、今日この日を迎えるまでに老人は殊更怪物の敵になる素振りは見せていない。

 そも、この街に来るまでの間は老人は戦うことを第一にしていた。元から自由人のような気質を老人から感じ取れはするが、それでもいきなり情報を遮断すれば気付かない程彼も鈍感ではないだろう。

 

「……牧場が完成していないなら、まだ各地に人間は散らばったままだな。 女王が死ねばその計画もご破算になる。 引き継げる奴はいるか?」


「いないいない。 あれが死んだら怪物は好き勝手に暴れるだけだ。 世界全体が一面怪獣映画の風景に染まるぜ?」


 怪物側に何か問題が発生している。

 その予想を口にすることを一喜は止めた。言ったことで老人が変な行動に出てしまわないように、それが原因で老人が死んでしまわないように。

 相手の力は依然として未知数。崩せる隙はあっても油断をするにはあまりにも基礎的な情報が不足している。

 もしもの予想を脳裏で考えるより、先に聞くべきは老人が確信として告げることが出来る情報。

 特に欲しいのは、やはり敵の本拠地と強さだ。


「じゃあやっぱり、俺がするのは指揮系統の破壊だな」


「女王を殺るってかい? ――――ソイツは難しい話だ」


 目標を設定する一喜に老人は間髪入れずに言葉を返す。

 一喜自身が強いことはこれまでの実績が語っている。実際、一喜が居なければ倒せなかったであろう敵は多く、既存の人間側の戦力では勝機は見えなかった。

 色付きでなかったとはいえジャックもクイーンも消されている。この分であれば通常の色付き達も勝てるとは考え難い。

 しかし、色付きのジャックやクイーンともなれば話は別である。

 基本的な性能が色付き達より高いのは勿論、本人達の努力如何によっては更に飛躍的に能力を応用させることも可能だ。

 上澄みの中の上澄みなだけに思考も阿呆な連中とは異なり、中々に面倒な攻略を強いられることになるだろう。


「お前さん、クイーンの能力を知っているか?」


「知っていると言えば知っている。 俺の記憶通りならな」


「お? そりゃまた変な言い方だな」


 老人の片眉が持ち上がる。

 一喜の言葉だと実際にクイーンの能力を見たことがあるかのようだが、しかし女王が真に戦ったのは数年も前だ。

 しかも戦った場所は閉鎖的で他の人間はとっくに逃げた後か死んでいる。見物人は怪物だけで、故に一喜の言葉は正しいとは言えない。

 見物人が居るような環境で他に女王が戦った事例があったかを老人は思い返すが、やはり知っている中で彼女が真剣に戦ったのはそこが直近だ。

 勝敗は女王の負け。彼女にその話をすると心底悔しがって碌に話もしてくれなくなるので知っているのは現場に居た者達だけである。


「あの女と直接会ったことがあるってか?」


「いいや、ただ情報として基本的な部分を知っているだけだ」


 更なる一喜からの言葉に老人はとうとう困惑顔になった。

 面識は無い。その上で能力だけは知っている。

 言葉の雰囲気から今の彼女の能力全てを把握している訳ではないと思わせるも、だとしたらおかしな話だ。

 この男は一体何処で、どんな手段を使って女王の力を知った。

 現れた疑問は老人の頭に強く残る。更に疑問を深めれば深める程大きくなっていき、好奇心を強く煽って止まない。

 

「誰かから聞いたか。 例えば前のメタルヴァンガードの使用者に、とかよ」


「……はぁ。 そんなことは不可能だ。 俺があの街に居た時点で既に前のメタルヴァンガード使用者は死んでいる。 仮にメモリに記録が残っていたとしても、俺は彼が最後に戦った場所を知らない。 回収するのは不可能だ」


 老人の追究の声を一喜は切って捨てた。

 だがその切り捨てた言葉にも老人は疑問を覚える。

 最後に戦った場所を知らないのであれば、何故以前のメタルヴァンガード使用者が死んだと確信することができた。

 実際に彼の死を見たのは怪物側だけだ。メタルヴァンガードの使用者が死んだと人類側が知ったのは怪物達が漏らしたからで、当時の人間は頑なに信じてはいなかった。

 時間が経過したことで死んだと結論付けたのか。もしかしたら今も牙を研いでいるかもしれないのに。

 そんなことはないと老人は解っているが、同じ状況であれば死体も見ずに相手が死んだと言われても彼は信じることはなかった。

 

 世の中は意外にもしもな事が起きる。怪物になった経験から僅かでも確率のある出来事で老人は確信を持てなかった。


「理由を言う気はねぇか」


「無い」


 圧を出して詰め寄ってみても一喜は口を割らない。

 こればかりは一喜も語る訳にはいかないのだ。言ってしまえばこれまた老人が妙な行動を取るかもしれないし、万が一にもメタルヴァンガードが玩具であると何処かで情報を仕入れてしまうかもしれない。

 絶対に退かぬ姿勢に老人は口角を上げる。これから完全ではないにせよ協力を結ぶ間柄であるにも関わらず、一喜は自らの都合を優先した。

 こういった人間は生温い方法では妥協しない。強引に物事を進め、最終的に開かせる他に無いのだ。

 

「面白れぇ。 丁度協力関係を結ぼうとしてる時だ」


「…………」


「当初の予定通り――――一戦、やろうじゃねぇか」


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