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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第二百五十五話】期待の難しさ

 時刻は深夜に到達し始めていた。 

 街の住民達は寝始め、起きているのは深夜シフトの見張り番くらいなもの。

 特に今は緊急事態が起きた直後である為、動員されている人間の数も少なくない。

 これが長く続けば彼等の体力を過剰に消耗するであろうが、先導者の危機を知らせる役目を担うこの見張り番達は本望だと笑みを浮かべるだろう。

 脳裏に力強い笑みを浮かべる男達の姿を描き、忘れるように首を振る。

 一喜は一睡もせずにベッドに座ったまま思考を重ね、老人はただ待つことに飽きて床で寝てしまっていた。

 昨日となった一日で老人はもう大した問題は起きないと確信していたのかもしれない。

 もしもそうであれば楽観的に過ぎるも、自身の肉体に大したダメージが通らないと解っていれば楽観的になっても不思議ではないだろう。


「さてはて、どうしたもんか」


 呟き、その声の小ささに苦笑する。

 怪物に対する配慮がある分、まだ自分には多少の余裕はあるのだと認識して――既に室内から居なくなった老婆からの提案に頭を回した。

 

『此処の住民達は先導者であるアンタとの別れを非常に恐れている。 そして、アンタは消えた後に街の住民はどうしているだろうかと考えるだろうさ。 そんで無意味な自問自答を繰り返して自分を追い詰める。 違うかい?』


『違う、とも言い切れないな。 それが本当に要らないなら考える必要もないが、少なくとも彼等の一部を除いて直接的な妨害を受けてはいない。 明確に普通の人間であると解っていて、かつ善人としての割合が高いなら出来れば助けておきたいさ』


 老婆は一喜が先導者であること、街の代表者であること、そして本人の言葉からある程度の内面を予測していた。

 一喜もまた己に目を向けた時、見捨てた善人に対して後悔を抱くことはないと断ずる勇気は流石に持っていない。

 最終的に現実的な判断を下して、その後にあれこれ悩むのが一喜には想像がついた。

 そしてそれは、老婆にとっては実に都合が良い。


『であれば、見捨てる真似をしなけりゃ良い。 我々との繋がりを作っておくのさ』


『……それは』


 老婆の提案は、正しく一喜にとっても有益な提案だった。

 技術的な復興度合いは此方が完全に上で、明確な悪人は今現在観測されていない。探せば居るかもしれないし、一喜達の拠点に居る悪人に感化されて化ける可能性は否めないが、現在時点では先導者の信徒と呼ぶべき状態になっているのが殆どだ。

 裏切る懸念は低く、更に技術提供を行ってもらえるのであれば一喜以外の面々にも喜ばしいだろう。

 老人が何を言うかが最大の不安点ではあるものの、そちらも昨日の状態のままであれば大して恐れる必要も無い。

 だが、それを上回る程のデメリットが双方に存在する。


『距離はどうする? 俺は自前で何とか出来るが、此処から本土に渡る手段をお前達は持っていないだろ』


『確かに。 それは事実だよ。 これまで渡る方法も模索していなかったから、正直に言ってアンタの道具に頼らざるを得ない』


 距離。こればかりは老婆であっても解決することは難しい。

 一喜が此処に来れているのはメタルヴァンガードの力があってこそ。それが無ければ所詮は凡人の範疇を超えない身で海を渡るなど出来る筈もない。

 もしもこれで双方の間で繋がりが出来たとしても、行き来を可能とする手段を見つけなければはっきり言って何の意味も無い。記憶に残るだけのなんてことのない情報で終わる。

 

『加えて言うが、仮に距離の問題を解決しても治安の問題がある。 はっきり言って本土の治安は沖縄よりも悲惨だぞ』


『解っているさ。 だが、アンタが近くに居る環境の前では治安の問題は大したことじゃあない』


 その後も一喜は幾つかの問題点を告げるが、彼女はそれら全てを承知の上だと受け流す。

 結局のところ、老婆が此処に居る時点で一喜の考える懸念は想定済みなのだ。それが解っていても彼は望む未来の為に足掻いてみせていたが、やればやるだけ沖縄の人間を見殺しにしようとしている風に見えてしまう。

 最後に何も言えなくなってしまい、彼は無言になった。望んだ形の解決は最早叶わず、人間らしく現実的な妥協点を提案する他に出来ることはない。

 

『はぁ。 技術支援や食料の提供はしてもらうぞ』


『勿論さ、恩知らずのままで終わる気は私にゃないさね』


『後、俺は何時も拠点に居る訳じゃない。 あちらこちらに用事があるから別の奴が拠点の管理者をしている』


『なら業務上の割り振りに関してはそっちに言えばいいかね』


『ああ、基本的にはな。 始めるにせよ、終わらせるにせよ、それを決めるのは俺じゃない。 その辺はそっちと一緒だ』


 運が良いのは運営方針が一喜達の拠点と似ていることだ。

 互いの方針が違うことで摩擦が起きて争いになるのが一番の難事に発展する。その問題を最初からある程度回避出来ているのは大きい。

 世の中は肌の色だけで差別が起きるのだ。些細な主張の違いで爆発することなど山のように過去には起きていて、故に主張が異なる組織が手を結ぶのは現実的ではない。

 さて、こうして二人の間だけではあるが沖縄の街と拠点が繋がり合うことが決定された。

 一喜が求めるのは技術と食料。老婆が求めるのは先導者による街の保護。

 どちらもが決して欠かせぬモノを求めたが故に、これを理論で覆すのは難しいだろう。


『じゃあ、私はこれを皆に伝えよう。 明日の朝までに内容を書面に纏めるから、名前と拇印を頼むね』


『拇印なんて何時以来だ? その契約書、俺にもちゃんとくれよ』


『当たり前だろ』


 最後に笑って、老婆は部屋から姿を消した。

 老人は最後まで口を挟むことはせず、しかし穏やかな目で彼を見やる。その違いは行く前と比較するとあまりに大きく、故にと次の問題に彼は目を向けた。


『で、お前はどうする』


『さぁて、どうしたもんかねぇ……』


 老人は頬を掻いて本当に困ったような顔をしていた。

 最初の約束では一喜と老人は沖縄を見て回った後、どちらが死ぬかの戦いを行う予定だった。

 これは双方忘れてはおらず、未だに老人の胸に闘争心が無いとは言えない。

 戦えるのならば喜々として戦うつもりであり、一喜が一言やろうと言えば途端に好戦的な表情を老人は浮かべただろう。

 だがしかし、老人の胸中には別の思いもあった。巨大な闘争心に比肩しかねない程に膨れ上がっていく感情は無視するには難しく、そうであるからこそ困ってしまったのである。

 戦う気はあった。でも、それと同じくらいには眼前の人物と語り合っていたい。

 なんだか異性に恋をしているような気持ち悪い言葉だが、実際に老人は本心から思っていた。


『お前の過去はこの際、目を瞑ろう。 この街でなら怪物でも生きていける筈だ』


『……それも悪くはねぇ。 ムシの良い話だがな』


『割り切ってくれるかは解らん。 だが、割り切ってくれるくらいの活躍をすれば少しは変わるさ』


 一喜は意識して贖罪の二字を使わなかった。

 老人はもう後悔を覚えている。謝意の感情もある。そんな人物に贖罪として生き続けろと言ったところで追い詰めるだけだ。

 また何時老人が己の感情を濁らせるかも解らない。活躍とすることで零からの出発を考えてくれたのであれば、今後の老人の生き方も変わるだろう。

 明確な根拠の無い推測だけの内容だが、彼は老人が化物になる程の気概が変わった事実を信じることにした。

 変化とは激的に始まるものではない。徐々に徐々にゆっくりと、荒野に草が生えていく過程が如くに変わっていく。

 この老人が積極的に人の味方になってくれるようになれば。

 そんなもしもの未来に、一喜は僅かであれ期待をしていた。そして、己の選んだ道が間違っていないことを静かに願っていた。

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