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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第二百五十三話】誇大な男

「神なんて奴はいない」


 絶望する者達に、そうさせた一喜が否を告げる。

 神無き世界で最も人々に寄り添った先導者の姿は新しい神と思わせてしまったのだろう。縋るには彼は巨大で、強過ぎた。

 ただの超人だと考えるには彼の出来る範囲は広く、故に人々はその者を神と定めて信仰してしまった。

 それはきっとこの世界の大藤・一喜にとって誤算だったに違いない。彼が神を気取った気配も無く、人々の安寧を真に願って戦い続けた男に過ぎなかった。

 なれば、同様の名を持つ一喜は否定しなければならない。人間は所詮人間で、出来ないことは彼等の想像よりも多いのだと。


「あの男は人間で、出来ないことの方がきっと多かった。 出来ないことがないのなら怪物に敗北することは無かったし、そうなれば今頃怪物は全滅していただろうさ」


「……まぁ、そうだな」


 一喜の言葉を当時を知っている老人が肯定する。

 人にとって偉大に過ぎても、怪物からすれば未だ人間の範疇に居る敵だ。

 特に善を前に出している存在であればこそ対応は存外簡単で、あの当時の最大の敵だとしても殲滅される危機感を募らせなかった。

 言ってしまえば良い人間止まり。強くはあれど、決して今老婆達が平伏す程に完璧な人物ではなかったのである。

 

「土地を教えたことを感謝する気持ちは解る。 だが、そも土地だけあっても人が人として生きていくのは不可能だ。 何れ限界を迎えて遠からず本土と同じく奪い合いに発展する」


 大藤・一喜を敬う気持ちまでは否定しない。

 最初が肝要とはよく言ったもので、土台が悪ければその上に立つ物も不安定になってしまう。

 最初の切っ掛けを与えた彼に感謝することは当たり前のことであり、しなければ逆に恩を仇で返す愚者の集団だ。

 老婆達はそれを忘れずに今日まで生きている。ならば、切欠以降の成果にまで彼を含める必要はないだろう。

 成し遂げたのは彼等だ。大藤・一喜ではない。

 言外な言葉を老婆は正確に拾った。絶望に悲嘆しかけた心は暖かな言葉に再度光を取り戻し、彼女の顔を自然上向かせる。

 

 顔を上げた先に、力強い表情の一喜の顔があった。

 その顔は――既に朧となって消え掛けている恩人の姿と重なっている。

 そこでどうして、自分は彼を信じようと思ったのかの理由を老婆は覚った。自身はただ、大切な人の恩に報いようとしただけだったのだと。

 先導者は正しく道を示してくれた。ただそれだけが、当時の彼女達にとっては酷く難しいことだった。

 行く先が常に暗雲の中、迷わずに明日を照らしてくれる者に人は深い感情を抱く。

 この街の人間も同じく、繁栄していった最中で英雄に対する想いを募らせていったのだろう。

 

「気にするなとは言わない。 でも、もっと自分達は誇ったらどうだ。 少なくとも、此処がこうまで発展出来たのはアンタ等の尽力があってこそだろ」


「……そう言ってくれるのであれば、有難い話です」


「何時も通りで良い。 俺は本人じゃないんだ」


「そう、かい……」


 迷った時、危機が迫った時、鎧を着た者が道を決める。

 一度目は偶然、二度目も偶然。何か所縁があった訳でもなく、ただ街があるからと一喜は今回寄っただけ。

 されど、それを全て偶然に纏めるにしては違和感がある。まるで一つの奔流の中で流されているような、そんな気分を感じざるを得ない。

 胸中で抱く疑問を他所に、老婆は口調を戻した。その表情に不安の影は未だあれど、瞳に宿る熱は最初の頃よりも激しい。

 いや、今のこの姿こそが老婆の素なのだろう。隠すべき事案が多過ぎたが故に本音を隠していた彼女は、今や完全に一喜の前で襟を開けた。

 

 他の者達も普段の姿こそを求める一喜の態度に自然と立ち上がっていく。

 だが立ち去る訳ではない。二度目の先導者の到来は彼等にとっては衝撃的で、自然と離れるにはまだ幾分かの時間が必要だ。

 これを動かすには支配者達や一喜自身が言葉を投げ掛けなければならないだろう。

 その為の種を探して――丁度良い具合に稔達の姿を視界に収めた。


「今は俺についてよりも、あっちの処遇をどうにかするのが先決じゃないか?」


 一喜のカード使用によって場は完全に彼の物となった。

 今ならこの街の支配者よりも強い権力を有していることになり、水を向ければ彼等の目も自然と稔達に向けられる。

 そこで、彼等は思い出すのだ。彼等が一喜に対して強い口調で疑念を投げ掛け、更には部下が銃を発砲したことを。

 途端、目の色が変わる。信仰が混じった怒りの眼は怒髪天を衝く勢いとなり、胸に紅蓮の炎が巻き起こった。

 

「――直ちに全員を拘束しろ。 抵抗するなら殺せ」


 老婆もまた、稔に対して嚇怒を超えた憤激の感情を向けている。

 吐く息は熱く、逆鱗に触れられた龍は絶対行使の意志でもって眼下の住民に命じる。

 その意に否を告げる者は居ない。例え嘗ては味方だったとしても、稔の部下だったのであれば最早全てが関係が無かった。

 

「……捕まえろ」


「……捕まえろッ」


「……捕まえろッ!!」


 住民達の声が大きくなる。

 最後には絶叫もかくやと言わんばかりの声量に膨れ上がり、皆が一斉に駆け出した。

 さながらゾンビ映画が如く。男も女も老人も子供も、全てが揃って一つの目的の為にと我武者羅に動き出す。

 対し、稔を含めた彼の部下達は銃を向けることも出来ない。

 先導者に対する感謝の意識は彼等の中にもある。加え、走ってくる暴徒達には何の罪も無い。罪があるのは此方側で、裁かれるのも此方側。

 どうするべきかと誰もが稔を見る。その稔本人も突然の事態に驚愕で目を見開いてばかりだったが、頭を叩いて無理矢理切り替えを行った。


「一先ずは拘束されよう。 ここで反撃されれば街に居続けることも出来なくなる」


 吐き出された選択肢は無難の一言。

 しかし部下にとっては安堵出来る類のもの。揃って銃を床に降ろして両手を上げる彼等の姿は潔さに満ち溢れていた。

 無数の人間に囲まれ、彼等は半ば乱暴に武器を取られて両腕を相手方に腕に掴まれる。

 捕縛用のロープは残念ながら人数分も無い。武器も全て奪われた状況かつ監視の目も厳しくなるのだとすれば、自力での脱出も望めない。

 全員が拘束される様を老婆は無言で見つめ、やがて部下の一名が終わりましたと伝えてくる。


「連れて来な」


 短く鋭い命令を部下は嬉しそうな顔で了承した。

 そして直ぐに表情を引き締め、住民達に老婆の前に連れて来るように声高に命じる。

 半分引き摺られる形で現れた稔達に抵抗の意志は無い。沙汰は兎も角、やったことはやったことだ。


「杏子。 この状況は俺にとっても予想外で――」


「黙りな」


 老婆――杏子は稔の言葉を最初から聞く気が無かった。

 

「馬鹿な奴は何度だって同じ馬鹿をやらかす。 そしてそんな馬鹿に追従する奴等も馬鹿だ。 頭の回る知的な奴はお前さんの味方なんざしないんだろうねぇ?」


 毒が多分に含まれた言葉に稔は口を閉じるしかない。

 彼女の怒りは今回の件だけではないのだ。それよりももっと前の、彼自身も愚策としか言えない出来事も含められている。

 

「ああ、確かにお前は予想していなかったんだろうさ。 あるいは、自分さえ居れば今度は大丈夫だとでも思ったのかい? ……お前が与える安心感なんて大したもんじゃないだろうに」


「確かに、そう思っていないと言い切ることは出来ない」


「解っているなら放置してくれれば良かったんだよ。 最初から自分の領土だけ気にしてりゃ、こんな大事に発展することはなかった」


 この騒動の始まりは、やはり稔が動き出したことだろう。

 怪物への怒りやリーダーとしての責務が動くことを決め、周りはそれに引っ張られてしまった。

 直接の責任が誰にあるのかと問われれば、やはり加害者の男だ。しかしそうしかねない雰囲気があることを稔は既に知っていた。

 知っていた上で退かせなかったのなら、稔自身にも責任は発生する。

 そも、組織を率いるのであれば大なり小なりトップにも罰は与えられるもの。それが謝罪や金であれ、やらない選択肢は存在しない。

 

 そうしたくなかったのなら、さっさと退かせて静観を決め込んでいれば良かった。

 街の存続や老婆の安否を気にするあまり、リーダーとしての判断力を鈍らせたからこそ事件になってしまった。

 しかもこの事件は街の存在そのものを揺るがしかねない内容だ。新たに判明した事実を含め、稔達がやったことは悪意が無くとも重く見なければならない。

 

「……あの日、予想外な事が起こって友が死んだ。 今度もまた予想外な事で死なせるのかい? あの先導者様を」


 稔は自覚していないが、自身の能力を誇大評価している。

 老婆はこの二度の事件で真に全ての原因を理解した。――己なら全てを救えると考えた自己評価こそ、地獄への舗装者だったのである。

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