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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第二百三十話】黒幕と女王の一幕

「あの馬鹿が……ッ」


 罵倒が薄暗い室内に広がった。

 巨大な部屋の床は大理石で占められ、それとは正反対に壁はコンクリートの灰色が剥き出しになっている。

 家具は椅子が一脚と小さな机が一つ。椅子も机も全てが漆黒に染まり、どちらも原始的な石造りに見えた。

 人は――人のような者は二人だけ。黒い外套で全身を覆い隠した人物と、椅子の背後で立つ黒ドレスの女。

 罵倒を口にしたのは女の方だった。彼女の死人のように白い手には一枚の紙が握られ、今は強く掴まれた所為で皺だらけになっている。

 紙は報告書の体裁を持っていた。前置きの挨拶も無しに伝えるべき情報のみが記載され、それらに憶測の意味が含まれていない。全てが断定の範囲で定められ、しかし報告書は途中で途切れていた。


――やはり行ったのかね、彼は。


「は、どうやらそのようです。 このような情報をお伝えすることになるなど、誠に申し訳ありません」


 外套に包まれた人物はフード部分を脱ぐ。

 露出する肌は女同様に白く、黒髪が怪しく光を反射していた。表情に苦々しいものは感じ取れず、真っ直ぐ前を向いていながらも穏やかな笑みを湛えている。

 女は彼の顔を見て、ほうと内心で安堵の息を漏らした。

 

――彼が勝手に行動することを私は否定していないよ。一時的であれ敵対したとしても、それもまた彼の自由だ。


「しかし、貴方様の御力を賜っているのですよ? あの御力によって自由になれたのであれば、貴方様に恩を感じて尽くすのが必然です」


 男――ルネサンスは報告書に記載されている人物の行動を否定しなかった。

 それがどのような結果になったとしても。どのような迷惑を此方が受けたとしても。

 それでもルネサンスは笑って全てを許し、彼の許しを与えられた人物を他が強く非難することも出来ない。彼の後ろで侍る女でも、この部分だけは変えることは出来なかった。

 とはいえ、では何もしないという選択を女は選ばない。

 彼女は女王として存在し、女王として他に命令を下す存在だ。各々が好き勝手に振る舞う権利を有しているとはいえ、彼女の命令さえ無視することは難しい。

 これは一重に彼女の出す命令にルネサンスが関与しているからだ。彼がそうであったら良いという意思を女王が正確に汲み取り、他の怪物達に伝えるのである。

 

 この仕組みは彼女が女王になり、他の面々を納得させた後に生まれたものだ。

 彼女は誰よりもルネサンスを優先して、ルネサンスに絶対の忠義と恩義を抱いて傍を離れることを良しとしない。

 仮にルネサンスが死んだとして、彼女は殺した相手に復讐を果たしてから自身で命を終わらせるだろう。

 故に、ルネサンスも承知の上で彼女は怪物達に注意を与え続けるのだ。ルネサンスが求める理想に近付く為に。


――恩を着せるつもりは私に無いよ。それは勿論君に対してでもあり、他の子達に対してでもだ。私は、彼等自身が持つ自由意志によってこの集団が形成され続けることを願っている。……君は誰かに縛られたいのかい?


「貴方様であれば是非に」


 女王の意見をルネサンスは却下した。彼にとっては全ては自由意志によって決められるものだと定めている。

 そこに嘘の色は無い。声は朧気でありながらも、彼の放つ一言一言には己のみが持つ揺るがぬ意志が宿っていた。

 縛るとは、彼にとって悪なのだ。自由とは、彼にとって正義なのだ。

 誰かが勝手に自身の道を決めることをルネサンスは認めず、己が誰かの道を勝手に決めることもまた認めない。

 終わってしまった者を掬い上げたのも彼の意志であり、文明を後退させたのも全て自由による結果だ。

 

――私であれば、か。だとするなら、残念ながらその気持ちに応えることは私には出来ない。私は全員と友好的でありたいからね。


「解っております。 これは私が持つ、私だけの感情ですもの。 貴方様に押し付ける気は毛頭ありませんわ」


 激昂の色は既に女王から抜けていた。

 腰まで伸ばした白髪を揺らしながら女王は少女の如き笑みを浮かべ、実に楽し気にルネサンスへと己の意志を伝えている。

 誰かに恋をするのも、誰を愛するのも、それもまた自由。彼女はルネサンスへと純粋な恋と愛を抱いていたが、同時にそれが叶わないことも理解していた。

 見た目の年齢はまだ十代も後半だろうか。実際の年齢とは異なるとはいえ、彼女の放つ正の感情は、どうにも大人としてのソレとは合わない。

 子供のような未熟さを持ち、その上で彼女はそんな未熟な感情をどこか楽しく感じている。

 一人間として見るならば不安定で、しかしてそのアンバランスな印象が彼女の美しさを実に盛り上げていた。

 

 絶世の美女か、傾城傾国。

 呼び方など些細なものに過ぎないが、この評価を覆すことはきっと誰の目から見ても変わらないだろう。

 彼女の愛はルネサンスだけに向けられている。深い深い感情は決して実を結ぶことなく、今もこうして彼女の内で肥大化だけを続けていた。

 

――有難い話だ。……この関係が長く続くものではないのに。


「いいえ、それは違います。 貴方様が望めばずっと続くのです。 全ての障害が取り除かれれば、晴れて世界は一人の物になります」


――障害か。本当に、全ての障害は消えると思うかい?


「消えます。 私が消し去ってみせます」


 彼女の愛は徹底している。

 その愛は彼を害するものではなく、何れ来る幸福へと通じている。

 女王の意志は紛れも無く本物であり、そうであるからこそルネサンスは微笑を深めた。

 彼女は彼の表情の変化を喜ぶ。昨今の困らせられる情報ばかりを与えるあの男とは違って、自分はこの人に安らぎを齎すことが出来ているのだと。

 彼女は心の底から希望を持って、邪魔な全てを粉砕するだろう。

 理想は人には達成させられない。人が人である限り理想は現実に打倒され、また元のように残酷な環境を作り上げる。

 なら、そうならないくらいの絶望を起こす。ルネサンスを悪だと断じる全てを地獄の底に落とし、その上に楽園を構築して悠々自適に過ごすのだ。


 全てのものに終わりあり。

 これを世の常と語るなら、そんな道理など蹴り飛ばす。

 終わり無き理想は此処にある。無限の平和は夢幻に非ず、常に広く世を支配するのだ。

 人を家畜として、動物を家畜として、遍く全てを劣等の範疇に貶める。

 全てが怪物と劣等生物で区分されれば、そこには明確な優劣が生まれるだろう。

 不幸を不幸とも感じる必要は無い。何故なら人間は人間として、或いは動物は動物として生まれた時点で揃って同じレッテルを貼られるのだから。

 それこそが女王の夢、女王の理想、女王の目標。

 唯一無二の神によって出来上がる、至高の世界。他のどんな国でも達成することが出来なかった無事平穏の世。

 

「一つ、お願いをしても構いませんか」


――どうしたんだい?


「今後一番の障害は間違いなく日本の連中です。 なるべく多くの者達を日本に終結させておきたいのですが、貴方様の命として発言することを御許しいただきたいのです」


 この世界の大藤・一喜が死んだ後は、全てが怪物達の予定通りに進んでいた。

 家畜化を進め、反抗勢力を潰し、順調に支配地域の分散化を進めて彼女個人が管理する手間を削減していた。

 後五年もあれば分散は完全に終わり、彼女が手間を掛ける間にルネサンスから離れる時間も大分削減されただろう。

 その全ては新たに現れた別世界の大藤・一喜が率いる集団に邪魔され、今正に大きな災いに変化しようとしている。

 

――私は彼とは積極的な敵対をしないと告げてある。


「承知しております。 ですので、今はまだ監視するに留めます。 万が一に連中が我々を滅ぼすことを決めた際に一気に潰す準備をしておきたいのです」


 彼女にルネサンスの意志を無視する気は欠片も無い。

 だが、相手はどう思うだろうか。こうして集まってくる怪物達を前に、果たして一喜達が何もしないことを選択することが出来るだろうか。

 ルネサンスは彼女の意志に応と返した。彼女はそれを満面の笑みで受取り、こうして新たな地獄が生まれる余地を生んだ。

 彼女は微笑を浮かべるルネサンスと笑顔を向け合う。 

 共に嘘の無い真の感情は心を暖かな色に染め上げ、多幸感を与えてくれる。

 

 貴方様は私を好いてくれて、私も貴方様を好いている。

 

 心の内の全てが見えずとも、彼女はそう確信していた。――――本当の心の内を誰もが知ることが出来ないというのに。

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