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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第二百二十九話】怪物達の戯れ

「た……す、け――」


 薄暗いワンルームで男達が倒れていた。

 数は十人程度。皆揃ってこの世界では珍しい黒いスーツを纏い、しかし今着ている服の一部分は赤黒く染まっていた。

 室内には死臭が漂っている。倒れている者達は一人を除いて呼吸をしておらず、明らかな欠損が見受けられた。

 唯一生き残っている男はこの中でも一等豪華なアクセサリーを身に付け、口からは煙草の独特な臭いが呼吸と共に漂わせている。

 

 男は、倒れ伏した状態で顔だけを上に持ち上げ続けている。その目の前には襤褸の甚平を纏った老人が居て、彼は実に嘘くささのある笑みを向けていた。

 

「すまんね。 折角用意してもらったところ悪いんだが、もう要らなくなったんだ」


「な……」


 男は一喜達の拠点で活動する悪徳集団だった。

 一喜によって表裏合わせての活動の全てを制限されたことで嘗てのような派手な行動は出来なくなったが、その程度で彼等が完全に停止することは当然無い。

 暫く大人しくした後に少しずつ人員を動かし、今居る人間だけで街の物資を集めては危険な街外にある民家を倉庫として利用した。

 一日に動いたのは数人のみ。二桁は絶対に超えないよう脅しをかけ、メイド達の視界から隠れる形で無事に作業を終わらせていた。

 街の資源が枯渇すれば、残るは拠点と彼等の物資だけ。完全な対等にはならずとも発言権を手にすることが出来れば、最早悪徳集団はただの烏合の衆ではなくなる。

 

 小規模な武装組織としてより広域の資源を運び込み、多くの人間を集めては支配して上下の区別を更に明確に付ける。

 一喜達にも一度甘い蜜を吸わせれば階級の魅力に支配されるだろう。人間は一度楽を覚えれば抜け出すのは難しく、そして快楽は味わえば味わう程に深い沼に沈んでいく。

 彼等の行動の中で最も予測が難しいのは一喜だ。

 欲に溺れず、快楽を無視して、真っ当であることを彼は強要した。そうでなければ人ではないと言葉を叩き付け、善性の光で人々の目を焼いた。

 悪の側からすれば信じられない話だ。どうして茨の道を自分の足で進むのかを理解出来ず、良き人間であろうとすることは意味不明でしかない。


 彼等にとって普通の人間とは、犯罪を行う為の偽装だ。

 周囲に溶け込める常人として装うことで襲撃は奇襲になり、欲しい物を常識的な手段で入手することが出来る。

 全ては欲を満たす為。或いは、目的を達成する為。

 どちらにせよ彼等は実に己の闇に忠実で、善に反抗的だった。悪こそ人だと本気で信じ込んでいる集団にまともな言葉など届きはしない。

 ――――ならばまともに話など聞かなくていい。どうしたところで一喜の意志に従ってくれないなら、手っ取り早く処理するのが一番簡単だ。


「何故、なんて言うなよ。 どうせこっちの能力頼りの力しか無かったんだ。 まともに激突する気もねぇ奴等が、アイツを支配なんざ出来るかよ」


 老人と彼等の出会いは偶然だ。

 単独で確認しに行って、たまたま悪人が悪事を企て、それが一喜を測る試金石になると思ったから。

 悪人共を総じて無能としか見ておらず、そもそも最初から化物の力に頼ってきている時点で質の程度は御察しだった。

 故に、全てが一喜の前に揃った段階で切り捨てられるのは避けられない。

 捕縛して強制労働など生温い。拷問で苦痛を与え続けるのも非効率。より効率的に障害を消すならば、さっさと殺してしまうのが正解だ。

 男は何かを口にしようとして、されど腹から流れ出る大量の血の喪失によって意識を失った。

 

 止血をせねば間に合わぬ出血量を前に老人は笑みを収め、やれやれと首を左右に振る。

 そのまま倒れた男の頭を足で踏み、一息で潰した。

 粉々になった脳と骨が血と共に部屋に散乱し、室内は一気に猟奇的な殺人現場に早変わりを果たす。

 

「さて、こっちはこれで全部だな。……後はアイツ等に任せれば良いだろ」


 殺し切った人々を眺め、老人は此処まで移動している間の一喜との会話を思い返す。

 一喜は悪人であろうとも、程度が低いモノであればチャンスを与えていた。

 今後彼等が真面目に働いていれば一喜は住人として受け入れていたし、生きることに貪欲な性分は拠点の発展に一役買っていただろう。

 危険な二択の中から彼は次を選び、結果としてそれは失敗に終わった。

 失敗したのであれば次善策を打つしかない。そしてこの件で拠点の住人の数は減り、間違いなく他の者にも知られ、一喜達が何かをしたと思われる。

 その時、この皆殺しがどう映るかは誰にも予測出来ない。

 忌避するか、死んで当然と称賛するか、もしくは関わり合いになることを避けてこれまで通りを続けるか。

 

 この一件が住人の意識に変化を齎すのであれば、一喜の頭はやはり休む暇も無く回転を続けることになるだろう。

 真っ当であろうとする人間程苦労を背負い込むことになる。それを経験則として知っている老人は、思わず同情してしまった。

 彼が自己中心的であればきっとこんな苦労を背負い込むことはなかっただろうに。

 

「気に入った奴は皆苦労人だな。 ……それはアイツもか」


 老人は真っ当で強い奴が大好きだ。

 一喜の事は当然として、望愛のことも老人は好意的に見ている。他はもっと見てみなければ解らないが、気に入った人間の周囲には意外に似た性質の者が多い。

 類は友を呼ぶ。正しくその道理が通り、ならばきっと老人が所属している集団のトップの周りにも良い奴が居る筈だ。

 だけれども、老人は一人の女を思い出して眉を顰めた。あれを良い奴だと思うには、些か以上に性格が悪過ぎる。


「俺がこういうことをしている事実をあの女が知ったら怒髪天だろうな。 なんとかバレないようにしたいもんだが……」


 ボスが言うだろうなぁ。

 自身の未来に暗雲が立ち込めた事実に今度は肩を落とした。

 やる気の無い仕事をして、終わったら嫌なことを思い出す。気分は二段階で下がり、こんな時には酒でも飲もうと一喜達が居る場所へと足を進めた。

 ワンルームの室内は、外に出ると三階建てのアパートになっている。

 その一階から外に出ると周囲には道路と壊れた建築物が広がり、此処が拠点ではなく街の一角であることが解る。

 悪人達は拠点に住むことはあっても、活動用の拠点を別に用意していた。

 拠点の人間に見られないようにしていけば、何れ人々は悪人達の顔を忘れていく。

 覚えているのは関係者となり、そこから距離を取れば一日二日くらい拠点から居なくなっても問題にならない。


 身体の至る所に多量の血を滴り落としながらの移動は、例え異世界の街中であっても異様だ。

 しかも見た目は老人で、傍目からは誰かを殺せる膂力を持っているようにも見えない。

 老人は顔を悲しみに染めながらとぼとぼと歩いていき、やがて比較的大きなマンションに到着した。

 マンションは未だ修復が及んでおらずにボロボロであり、更に言えば今は人の死体が外や内部の廊下に放置されている。

 死体の死因は様々だ。頭部を銃で撃ち抜かれた者、首を絞められて窒息死している者、最も単純な鈍器による撲殺で死んだ者も居る。

 老人が見る限り、滞在者は全滅した。さっと周辺の気配を辿っても全力で逃げている者は確認出来ず、圧倒的な銃火器の力で纏めて人生を終了させられたと考えるべきだ。


 これで一先ず、退屈だった作業だけは終わりを迎えた。

 廊下を歩いていると開けっ放しの玄関ドアから幾人もメイド達が銃を構えている姿が見える。

 その銃口は老人に向けられ、顔は味方に対するものではない。

 僅かでも怪しい挙動を取れば即撃たれるなと老人はひらひらと片手を振るい、そのまま下駄を鳴らして呑気に上を目指した。

 ――そして、彼は最上階に通じる階段に座り込んでいる一喜と顔を合わせる。


「こっちは終わったぜい?」


「此方もだ」


 その顔は共に、人を殺したとは思えぬ程に平静だった。

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