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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第二百二十四話】女、一城の主になる為に

「……いよいよなのね、兄さん」


 僅かな空白の後、望愛のか細い声が辺りに広まる。

 一喜は無言で綱吉を見つめるだけ。誰しもの顔に迷いは無く、これが予定調和となっている事実を改めて認識している。

 綱吉が今後も一喜達の組織に援助する為には、やはり会社や家に与えられる金だけではまるで足りない。

 どれだけ富んでいても彼は一つの会社の経営者一族に連なっているだけだ。

 国家を左右する程の影響力は無いままで、故に人を十人養っていけるだけの大金を持ってもまったくと足りない。

 一喜達は自身が立ち上げた組織を潰したくない。綱吉も異世界の資源は魅力的であるし、妹の手助けは是非ともしたい。

 互いが互いに組織を存続させたいのなら、やはり取るべき手段は一つだけ。

 

 資金源が無いなら作る。凡人にはどうしようもない選択も、異世界に法が無いことと流通をある程度握っている身分の者が居るお蔭で可能となった。

 だが、綱吉自身が新しい会社の社長になるのは不可能だ。元の会社の身分もある上に、何よりも家族が黙ってはいない。

 一喜が社長になるにも暇が無い状態だ。敵が未だ健在な現在においては警戒をしておかねばならず、異世界に居られる間は常に警戒しておく必要があった。

 この場の中で会社の社長に他になれるのは望愛だけ。メイドの誰かを立てることも出来ないではないが、綱吉としては大義名分の為にそれは避けたかった。


「望愛は現在家出中だ。 もっとも、両親は捜索の手を伸ばすことは既に止めている。 彼等からすれば迷惑を掛けてこない限り放置で構わないという判断だろうし、強制的に連れ戻す必要があるとすれば家柄に傷を残した場合のみ」


「実質、縁切りだな」


「私にとっては都合が良いです。 あそこの方々とは付き合う気も無いので」


「そうだね、僕も付き合いたいとは思わない。 けど、まぁそれだと余計な噂が広まっちゃうんだよね」


 綱吉は困ったような笑みで後頭部を掻いた。

 上に行けば行く程スキャンダルは恐ろしい。それが事実無根であったとしても人々は頭も使わずただ責め立て、これがダイレクトに会社の経営に悪影響を齎す。

 糸口の一族が今回の件を回避するには、あくまでも悪いのは望愛だけにしなければならない。

 原因自体は彼等にあるが、それを隠して望愛に全ての罪を被せるのだ。

 しかし、彼女はまだ年若い女性である。如何に悪だと流布したところで一定数の同情が集まる。

 彼女は確かに勝手な行動をしたのだろうが、そうなったのも家族に原因があるのではないか。

 世論がこの形に流れることは糸口にとって望ましくは無い――――ならばと、綱吉はこの状況を利用することにした。


「今、僕は家出をした妹を助ける優しい兄になっている。 自費で彼女に様々な物を送ってやる慈悲深い男だとね」


「…………」


「そんな目を向けないでくれよ、実際に助けてはいるだろ?」


 一喜の半目にウインクを返す綱吉だが、それで事がスムーズに進むのであればわざわざツッコむ真似もしない。

 ただ、これをしたことで綱吉の社内の評価も向上しているだろうと容易に推測することは出来る。

 人間社会は実に面倒だ。合理を突き詰めるだけで物事は解決せず、一定の善意が求められるケースも多い。

 ただ冷たいだけの上司。ただ暴力的な上司。そんな人間に付いて行く人間は少なく、人事部とてコミュニケーション能力の一つとして評価をしている。

 

 綱吉の社内での評価が向上すれば、必然的に社長の椅子も近付く。父親が定年を迎える頃までに実績を積み続ければグループの全てを支配するのも夢ではない。

 これは綱吉にとって大きなメリットだ。優しくも有能な人間がトップになったと広まれば、彼を慕いに集まる人間も増えていくことだろう。

 これで懐問題も解消されれば、いよいよ綱吉の前にあるハードルも低くなる。

 よって、点数稼ぎの為にも妹の我儘を聞く兄として今回は行動することになった。


「シナリオは単純だ。 望愛が僕に今後について相談していく中で、家出の事実に反省していく。 家族は確かに塵だったが、それでも彼等のお蔭で裕福な生活が出来ていたのは事実。 謝る気は無いものの、少なくともこれまで助けてくれた兄の為に恩返しと自立を考える」


「恩返し?」


「シナリオ、シナリオだって。 そんな怖い顔をしない」


 話を聞けば聞く程に望愛の顔面がお見せできないモノに変化していくが、綱吉は冷や汗を流しつつ必死に彼女を宥める。

 その様子を一喜は呆れながら眺め、この後の流れについてを口にした。


「兄はそんな妹に感動して、これまで以上に協力をしていくのだ――って感じか?」


「その通り。 実に美談溢れる物語じゃないか?」


「今時有り得ないくらいの美談だな。 もう少し悪い要素を煮詰めた方が良いんじゃないか?」


「父と母の悪評を盛り込みましょう。 屑っぽい部分があれば真実味が増します」


 内容には幾分納得し難いものがあると望愛としては不満顔だが、これが一番周囲を納得させ易いのも彼女の頭は理解していた。

 世の中、良い話を無条件で信じたがるものだ。テレビの美談がそのまま真実として誤認されるのも日常である。

 そして、その方が都合が良いと考えるのは上の人間だ。全てを掌の上で踊らせたい側としては望愛の自由にさせた方が良い。

 勿論、綺麗過ぎるのも問題だ。望愛の言った通りに濁りは必要だろう。

 

「綱吉。 シナリオはそれで良いとして、会社は何処にする」


「望愛が住んでいる場所の近くが良いね。 なるべく溺愛っぷりを周囲に見せ付けるなら倉庫も立ててしまいたいけど……それは流石にね」


 既に一喜が住んでいるアパートを綱吉は買取っている。

 相場よりも遥かに高い値段で大家を排除し、他に住まう人間も多額の賄賂で別の賃貸住宅に引っ越させた。

 工事は今も継続中だ。アパートそのものを隠すように工事を進める過程で無視出来ない問題が幾つも見つかり、現在は解決に着手している。

 これだけでも多くの金額が動いているのだ。他に倉庫を建てるとなると、流石に懐も限界を迎えてしまう。

 なので一定の利益が発生するまではアパートこそが倉庫になるだろう。


「いっそアパートをそのまま店代わりにするか? 今じゃネットで販売も不可能じゃないからな」


「ふむ……それも手だね」


 そろそろ予算について慎重にならざるをえなくなったのか、綱吉も顎に手を当てて考え始めた。

 資格については取ろうと思えば簡単に取れる。ちょっと裏から手を回せば不正所得は難しくとも順番を早めるくらいは可能だ。

 近年では当たり前となっている販売方法だが、この形式の問題は実体が無いことだ。

 信頼を集めるには質の良い商品や嘘の無い真摯な対応、客寄せパンダとしての企画を行っていくことになる。

 軌道に乗るのは果たして何時頃になるのか。まったく見えぬ未来に一喜の胸中に一抹の不安を覚えた。


「前途がまるで解らんな。 せめて益にならずとも打ち消せるくらいの結果になれば良いんだが……」


「そこは気にしないでよ」


 そんな彼に綱吉は自信のある顔を浮かべる。

 質については今後精査していくことになるが、販路については然程問題ではない。

 綱吉の握っている場所は数多い。それは国内のみならず、国外にすら広がっている状態だ。

 無いなら作るのも視野に入れて行動する覚悟で益を出す。今必要なのは、始めるまでの大義名分と意気込みなのだ。

 

「開業は早ければ早い程良い。 今後は異世界だけじゃなく、こっちでも働いてもらうからね。 あ、大藤君はこっちに関与しなくて良いから」


「……」


 綱吉はこの場の中で誰よりも燃えていた。望愛や一喜が呆れた顔で見ているにも関わらず、彼はそんなことなど一切視界に入れてすらいなかった。

 それは妹を助けられるからかもしれないし、妹と一緒に仕事が出来ると思ったからかもしれない。

 唯一確信することが出来るのは、この件で望愛の道は大いに変わることになる。

 その第一歩は――――コンビニバイトの終了だ。

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