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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第二百二十三話】兄、商人として

 多くの時間を費やし、一喜達の拠点は日に日に変化を遂げている。

 最初はただ積み上げられた物資の山に最低限の生活空間が存在していたが、最早彼等は彼等の力だけで元通りになる努力を始めている。

 例えば、与えられた部屋には独自の遊びがあった。

 使い道の無い置物が並び、何でも良いと思っていた品を拘るようになり、家族や一人の空間を求める。

 食品は食えれば何でも良い状態から、料理に凝る形に変わっては誰かと共に食べる楽しみを思い出した。

 子供はのびのびと外で遊び、みすぼらしい恰好をしていた人間は一人も居ない。

 友人や恋人もこれまでより遥かに増え、将来は此処を常識とした新しい世代も出てくることだろう。

 

 良い変化ではある。人々の心を満たし、未来に希望がある現状は活力を無限に湧き立たせている。

 だけれども、それが今だけであることを聡い一部の人間は認識していた。

 現状が続いているのは、多くの人間が死んで全体の総数が減ったからだ。食料を除いた資源が余っているのも拠点在住の人間が少ないからで、彼等が何年も消費活動のみを続けていけば自然と此処も不足が目立つだろう。

 この場所が嘗ての如く継続していくには消費以外に生産が必要だ。

 素材を生産して、物を生産して、それを用いて取引を起こして別の有用な品を入手する。

 人が人として生活していく上でこれは必要だ。必要だったから、一喜達の世界で今もこの流れは起き続けている。


 聡い人間が危機感を覚えるのは必然だ。

 世良や十黄もこの認識は当然持っている。だからこそ食料を拠点人口以上に増やす努力を行い、人が住まう空間を探して取引を行うことを視野に入れていた。

 これは一喜も望愛も当然認知している話だ。彼等が自主的に外へと目を向けるようになったことに静かに喜びつつ、ならばと一喜が一つの話を住人へと世良経由で流した。

 

「食べ物を多くお前達に与えた。 住める場所も戦力も与えた。 だがそれは、決してタダで手に入れた訳ではない。 お前達が見ていないところで対価は求められ、それは今も続いている」


 世の中は等価交換。

 何かを手にするのであれば同等の何かを差し出す必要がある。

 これまで人々はタダで品々を手にしていた。決して労働をしていなかった訳ではないが、嘗ての努力よりはしていない。

 死ぬような目に合う前に戻ることは出来ていたし、怪我や病気については軽傷であれば治療もされた。重病人になっても最近なら世良がクイーンのカードで纏めて治すことが出来てしまい、即死でなければ健康的な生活を送れている。

 ならば、彼等は等価交換を成立させていると言えるのか。誰もが損をしていないと果たして言えるのか。

 答えは否だ。得をしているのはこの拠点の人間で、損をしているのは望愛の兄である綱吉だ。

 

 綱吉に如何に資金力があったとて、多くの人間に食料を供給し続けることは出来ない。仮に出来ても資金の流れは間違いなく不自然で、これを隠すにも綱吉は多大な努力をしていた。

 このままでは綱吉も限界を迎える。なら、そうなる前に還元しなければならない。


「そろそろ対価を返す努力をしていくべきだろう。 歪な状態を是正し、これからは良き状態になることを目指して働かなければならない」


 一喜の言葉は今や神の言葉だ。

 多くを与えてくれた全ての救世主の言葉は正しいものであり、そして実際に貰うだけの環境は歪であるとも解っている。

 貰って貰って何も無し。それは不安を煽り、恐怖を覚えるものだ。裏があると考えるのが自然で、だから裏としての対価が出現したことに人々は安堵した。

 では、具体的にどうやって対価を払うのか。

 一喜は十黄と話し合いを行い、一つの巨大なビルを職場とした。

 そこにこれまで物資の中で放置されていた高級志向なアパレル商品が流れ込み、これらを無事だった段ボール箱の中に入れていった。

 この数々の品は状態が良ければ一喜の世界でも高値で取引される。しかして新品の商品なんて稀有な品がこの世界で見つかることはほぼない。

 

 何かしらの傷が存在するか、物は無事でも箱や付属品が破損しているか消失していることも多々散見された。

 これを普通のアパレルショップで売るとしても購入を考える人間は少ない。リサイクルショップで売るべき品なのだから、流す先はよくよく考えねばならないだろう。

 だが、前提としてこれらは異世界の品。一喜側の世界で売ると考える時、リサイクルショップをそのまま使うのも問題だ。

 出所不明でありながらも部分部分で質の良い商品など、関係者が見れば先ず怪しんで調査に乗り出す。

 綱吉の所属する会社が抑えることも出来なくはないが、やはり怪しい品を前にしては最終的に政府が調査に乗り出さないとも限らない。

 コピー品は何処のどんな国でも排除すべき敵なのだ。


「だから、偽装工作は必要だ」


 東京都内の雑居ビルの一室に望愛と一喜と綱吉は集まっていた。

 このビルは綱吉が個人所有している建物であり、沢田達の仕事道具が収納されている場所でもある。

 敷地内には駐車場も置かれ、その殆どに車が並んで停止していた。何のロゴも無いシルバーのバンが一斉に並んでいる光景は少々違和感に強いが、車が多く行き交う都内では指摘する人間など居ない。

 深く吸い込む黒の三人用ソファがコの字型に三つ置かれ、中央には木製の足の低いテーブルが鎮座していた。

 周囲は淡い暖色系の家具で占められている。場に落ち着きを与える室内は望愛の護衛に女ばかりを採用している所為か女性的だ。


 綱吉は出された紅茶を落ち着いた様子で飲んでいるが、一喜としては非常に居心地が悪い。

 なまじ女らしい空間に居た経験が無い故に、どうしてもこういった場に行きたいとは思えなかったのだ。

 一喜の何とも言えない表情に望愛は微笑ましい目を向けていた。傍に立つ護衛のメイド達も一喜の表情に何処かニヤついた雰囲気を漂わせている。


「……もっと真剣になってほしいんだけどね?」


「ならもっと良い場所があっただろ。 何もこんな場所で話なんて」


「なに、視察は必要だ。 ついでに愛しの妹に会える口実も作れる。 出来れば今後も此処で話し合いはしたいね」


「お前キモいってよく言われない?」


 思わず口から出たツッコミを綱吉は無視した。

 兄妹間で仲が良いのはよろしいが、人前でそれを見せるのはどうだろうか。

 愛情深いと取ってもらえれば良いものの、大体は身内にも呆れられるか嫌悪されるものだ。現に望愛は綱吉に半目を向けて如何に非友好的な雰囲気を漂わせていた。

 緩くなった雰囲気を綱吉が二回手を叩くことで修正する。

 和やかな雰囲気は綱吉とて嫌いではないが、今は温い話ではない。寧ろ本来であれば会議室で仕事着を着て出来る話だ。

 真面目な彼の表情に自然と二人も気を引き締める。この三人の決定が異世界の未来を変える以上、一言の価値は計り知れない。


「物の準備が進んでくれたのは僕としては有難い話だ。 本当はもっと後だと思っていたからね」


「俺としても彼等の意識が変わるのはもっと後だと考えていた。 今はまだ率先して道を決めてあげる段階で、色々落ち着いてから次の段階として外に目を向けようと思っていた」


「それだけ彼等の中で改善の意識があったんだろうさ。 多少豊かになっても聡ければ何の意味も無いことに気付く。 一歩のミスが後退に繋がると聡い者が気付けば、自然と歪みの矯正を考えていくものだ」


「まだまだ自浄作用も高い。 今この瞬間に始めれば、腐る前に益は出せるな」


「まさしく。 でもそれをするには、僕の事前準備が何より欠かせない。 そこでだ」


 男二人は互いの思考をよく理解している。

 望愛は黙って聞く役に徹しているが、まったく理解していないなんてことはない。寧ろ男達の会話を聞いた上で自身の役割を設定している。

 綱吉は人差し指を立て、足を組む。柔和な表情は此処に来た当初から崩してこなかったが、笑みの質をより純粋なものに変えた。


「本格的に望愛には会社を一個やってもらおうと思ってるんだ」

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