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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第二百十九話】異世界の街へ、確かな未来を

 一喜達が言葉を交わしている間にも拠点の状況は次々に変わっていく。

 解き放たれた蜘蛛達が建物の修復を行い、今では拠点以外にもその手は伸びている。

 特に、既に役割を終えつつある街の状態は時間経過と共に表面上は改善の一途を辿っていた。

 破壊された建物は新品同然に整えられ、付近の道路に至るまで完成直後にまで元に戻されている。内部の機材や上下水道、電源その他も直されてはいるものの、やはり大元が機能していない以上は繋いだところで何の意味も無い。

 もう一つ意味が無いと言えば、食材の腐敗も元には戻らなかったことだ。

 蜘蛛が出来るのは無機物に対してのみ。食材や人体のような生命に対しては大した結果を出せはしない。

 

 精々が死体は死体のまま集められるか、新たな材料として分解されるか。

 今更死体に驚くような人間はこの世界には居ない。時には死体よりも凄惨な姿となった人間の姿を見たこともある。

 彼等に対して墓を立てるような義理も無く、誰がどんな人間だったのかも解らないまま死体は蜘蛛達によって冷酷に処理されていった。

 残るは、綺麗になった建物達。これらは何かを提供する施設として機能するだろうし、何かを作り上げる施設にもなるだろう。

 

「ドローンで地図にしてもらったけど、これが全部俺達の物になったのか……」


 自身に割り当てられた個室で十黄はプリントされた地図を眺め、感嘆の息を零す。

 蜘蛛によって修復された箇所は既に全員の把握出来る範疇に無かった。止める者も居らず、直せる物は直しておいた方が良いだろうの精神で放置していたのがここまで続いていたのである。

 メイド隊が保有する偵察用ドローンで上空を撮影し、それをプリントアウトすることで現在の範囲を十黄は把握することとなったが、具体的な情報を知ると何とも言えない重圧を覚えた。

 まだまだ街一つを支配したとは言えない。全体で見れば何十分の一といった範囲であり、街一つを覆うには年単位の時間が必要だろう。

 

「これだけ広かったら使いたい放題だ。 後々を考える必要はあるが、まぁ誰も反対はしないだろう」


 スチールの机の前に座り、広げて置かれた地図に赤ペンを走らせる。

 拠点を街規模にすると、ある時世良は唐突に言い出した。それまでは拠点内での循環を考えていただけに、世良の突然の発言には間違いなく一喜達が関与している筈だ。

 そして、世良がそう考えた背景にはメタルヴァンガードも絡んでいる。

 十黄が知らぬ間に一喜が世良を呼び出してメタルヴァンガードにすることを決めたと見るのが妥当だが、そうであるならば狙いは何か。

 先ず浮かぶのは、一喜達が居ない間の防衛戦力。メイド隊が居てくれることで人間同士の争いには優位を取れるが、化物同士の争いで有利を取ることは出来ない。

 襲われれば壊滅は必至となる以上、やはりどうしてもメタルヴァンガードになれる人間が常に求められる。


 これを解決するには現地の人間を使用者にするしかない。その為、この拠点の表向きの代表者となっている世良が使うことに文句は無い。

 懸念として使えるのか否かだが、世良が拠点を広くしたいと願ったのであれば使えると判断するのが今は良いだろう。

 次に浮かぶとすれば、此処を兎に角有名にすることか。

 現時点で此処を知っている存在は少ない。知っている存在達がこの世界のパワーバランスを担っているので知らなくとも問題は無いが、やはり生活をしていくともなれば此処で全てを賄うことが難しいとも解ってしまう。

 

 此処で農業を始めても、牧畜に精を出してみても、水を生み出しても、やはりそれだけで生きていくのは苦しい。 

 人が有利になっていくのであれば、その後は人の世だ。化物による弱肉強食を是としない世界では人同士の繋がりは求められるものであると、十黄はこの世界に居て十分以上に理解している。

 そも、こうして生きていられたのは助けてくれた誰かが居て、相手を助けようと思ったからだ。

 繋がりは常にある。であれば、それをもっと大きく解釈することは社会を知ることにも通じる。

 

「今の住人は約五百……。 もっと大々的に食い物を増やさなきゃヤバいな」


 世の波を知るとは、即ち不足を知ることだ。

 自分が波を乗り切るには何が必要かを知り、手札の中にあるかを確かめ、不足を補う道を探る。

 探して、見つけて、用意して。それが生きて行くことであるならば、やはり有名になることは生存への道となる。

 俺を見てくれ。俺を頼ってくれ。そして、俺を助けてくれ。

 これは十黄の考えに過ぎないが、この部分に否を告げられる人間は少ないだろう。

 助けてくれるなら助けてほしい。寄り掛かれるなら寄り掛かってしまった方が生きるのが楽になるから。

 

 しかし、これは決して後ろ向きではない。

 街となったこの組織で、今では難しくとも将来的に他と繋がることが多くなれば。

 最早誰もが此処を無視しない。否、無視など許さない。垂涎の的となることで、逆に多くを集めることも可能となる。

 であれば、彼女の望む形で目標を達成するにも管理は徹底しなければならない。

 今正に、この拠点には様々な施設がある。

 物資の集積所であったり、居住スペースであったり、水耕栽培所であったりと、非常に雑多な状態でそのままだ。

 今の状態を維持するのであればまだ楽だが、成長していくのであれば取捨選択は欠かすことが出来ない。

 

 自分に出来る役目とはなんだろうか。呼ばれなかった男が出来る役目とは一体どんなことだろう。

 十黄に戦う術は無い。銃を使ったことが無いとは言わないが、かといって能力のある人間と真正面から戦えば敗北は確実。

 もっぱらやっていたのは子供達の世話の一部であったり、彼女と共に今後の蓄えについてを話し合うばかりだった。

 基本的にリーダーを張るタイプじゃないことを十黄は解っていた。自身をそうであると主張するには意志の固さに若干の問題があって、サポートをしていた方が幾分か気が楽であるという心情もある。

 彼女が前を張ってくれるなら、自分は後ろから支えよう。

 そう考える彼が出来ることと言えば、幹部として裏方を支える立ち回りをすることだ。


「――此処は太陽の光が入り易い。 此処はアパートが多いから居住地になる。 此処に貸倉庫があるから抉じ開ければ倉庫になるな」


 独り言を呟きながら十黄はペンを走らせた。

 今後を見据えたプランを頭で纏めつつ、拒否された場合の次の案を考え続ける。

 この拠点に来てから、十黄はより先の未来を想起することが増えた。己の立ち位置が如何なる未来を引き込めるかを思案し、今はまだ妄想の中であろうとも平和になった世界を夢見ることも増えている。

 嘗てのあの日々。既に白黒になってしまった過去の平穏を、もう一度感じ取ることが出来るならば。

 そして、その隣に彼女が居たのであれば――なんて。

 

「……」


 ペンを走らせる手が一瞬止まり、苦笑しながらまた動き出す。

 何を馬鹿なことを。自分は既に彼女との関係を決めてあるだろうに。

 もしかしたらなんてことを考える時点で、どうやら十黄は未練を完全に断ち切ることが出来ていないのだろう。

 彼女自身が十黄をそんな相手として見ていないと解っている。解っているから、この想いは今後邪魔になってしまう。

 されど、人は容易に想いを切り捨てられない。切り捨てられるだけの理由があっても、やはり人は一度抱えたモノを忘れることは出来ないのだ。

 

 だから彼はこの感情を心の底に沈めた。浮上しないように言い訳という名の重りを無数に縛り付け、二度と戻ってこないようにと祈りもして。

 戻ってくればその反動は大きくなるだろう。その時の彼は、果たしてどんな行動をとるのか。

 沈めたばかりの彼には解らない。

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