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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第二百十八話】異世界の女へ、期待を

「来たか……」


 土曜日の深夜。

 帰還を予定せずに外泊を選択した一喜は、ただ一人でビルの一室で待っていた。

 室内は狭いワンルーム。とはいえ一人暮らしをする程度は可能な室内に荷物は無く、壁に張り付いているエアコンも今は動く気配がない。

 電気の通らぬ世界の中で明りとなるのは一喜の携帯くらいなものだ。その携帯とて充電が切れればおしまいであるのでバッテリーは予備に持っているが、出来れば短く終わらせてしまいたいものだとノック音を聞きつつ考える。

 一喜の声に、相手はゆっくりと玄関ドアを開けて前に姿を見せた。

 たった一人の女。学生から抜け出したばかりの少女――世良は不安そうな顔を隠しもせずに彼を見やる。


 一喜は無表情を向けていた。

 喜怒哀楽を抜いて世良へと視線を向け、この室内で唯一家具と言えるパイプ椅子から立ち上がる。

 狭いからこそか、携帯のライトで室内は全体的に仄かに明るくなっていた。

 朧気な室内は世良に現実感を失わせかけ、まるで今居る場所が夢か幻で構成されているようにも思えてしまう。

 

「呼び出した理由は解るな?」


「……ああ、勿論」


 しかし、一喜の力強い声が現実に引き戻した。

 彼は世良を呼んだ。会議が終わってから、ほんの一時間程度の間を空けて。

 誰が選ばれるかなんて考える必要すらなかった。そんな真似をしても意味は無く、世良は即座に呼ばれるとまでは予想すらしていない。

 当然、既に寝ている十黄達も何も知らない。世良か十黄のどちらかが選ばれるだろうと推測してはいても、それが決定されるまでは少なからず時間が掛かると考えていた。

 

「私を選んだのは、前にカードを使ってたから?」


 世良は頭を回す。

 自分が選ばれた理由。その根拠。

 彼女は自分を有能だとは思っていない。具体的に改革を起こすことを考えてはいなかったし、明日に目を向けることが出来るようになったのは一喜が様々な物資を運び込んでくれたからだ。

 今でこそ彼女が表で指示出しをする役割を担っているものの、住民の誰もが世良を通して一喜を見ている。

 一喜が任命しているから、世良の言葉に皆が従うのだ。つまりそれは、別に世良でなくとも指示出しを担うことが可能であることを示している。

 彼女はこの事実に別に悔しさを覚えてはいない。当然だろうと確信しているし、自身が住民の立場であればやはり奥に居る支配者に意識を傾けていただろう。

 

 メタルヴァンガードは、世良にとって力の象徴だ。

 怪物達の意見に同調する訳ではないが、やはりこの世は最終的に物理で訴えかける方が効力が高い。

 その後に報復される恐れすらない程に相手を打ちのめせば、どんな要求であっても此方は通すことが出来る。

 抑止力とも言えよう。彼と望愛が居るからこそ拠点の近くに別組織の影は表立っては見えず、一番関りのあるオールドベースですら手を出してこない。

 仮に協力関係を築くのであれば、向こうは全力で一喜に媚を売る。

 どんな壁よりも堅固な壁はやはり安心感があって、一度味わってしまえば無くなることを全力で回避しようと動く。

 故に、自分がそれを身に纏えるだなんて世良は思ってもいなかった。あんな話が降って湧いてくるまでは。

 

「いいや、カードについてはあまり考慮の内に入っていない」


 緩く一喜は首を左右に振った。

 感情を伺わせない表情だが、立ち昇る圧は普段のソレとは違う。

 暴力的な質量で相手を潰すことを目的とせず、ただただ相手が真実を語ることを強要するような圧だ。

 瞳に宿る熱も冷め、覗いてくるのは鋼の如き硬き意志。

 唾を呑む。喉を通る音がいやに部屋に広まって、世良は手足に汗が滲み出ていることに気付かない。

 

「……俺とお前の出会いはあまり良いもんじゃなかった。 当たり前と言えば当たり前だが、話を一つするのにも真偽の判断を下す必要があった」


「まぁ、あの頃はね。 今みたいにお手て繋いで仲良く握手なんてのは不可能だったろうさ。 凝り固まった常識って奴の所為でね」


「そっちにはそっちの常識が、俺には俺の常識が。 あの当時は認識の差異で些か苦労したよ。 正直、昔の俺が今の俺を見たならお前達との関りなんてさっさと捨てちまえと言っただろうな」


「昔、ねぇ。 じゃあ今は?」


「今は」


 二人の会話が一喜の言葉で途切れた。

 言うべきことを言おうとして、口の中で言葉が転がる。常ならばはっきりと吐き出す彼には珍しく、世良の眉が一瞬痙攣した。

 そのまま暫くの無言が流れ、互いに身動ぎすらもせずに視線だけをぶつけ合う。

 息苦しい空間だった。重く、辛く、されど澱んではいない空間だった。

 一喜は迷っている。世良の目には、彼がそう見えた。具体的にどう見えたかは解らずとも、彼女の勘のような部分が耳元で囁いたのだ。

 一喜は常に踏み出した男である。前進を望み、そして挑んだ男であると世良は確信している。

 倒れていった誰かに目を向けずに前を向く姿は一見冷徹に思えるが、そうしなければ次に進めないことを世良達は理解している。


 世は優しさに満ちているのではない。苦しみや怨嗟に満ちているのだ。

 ならばその中で生きる為に進むなら、死んでいった誰かに想いを向ける暇は無い。

 どんなに冷たく見られても、どんなに人間味が無いと思われようとも、彼は周りの印象を一切気にせずに歩みを進めるだろう。

 その姿に世良は憧れたのだ。何時か隣に立ちたいと願ったのだ。

 なら、今の彼は違う。迷っているのは大藤・一喜ではない。そのような姿を、大藤・一喜は持っているべきではない。

 憧れたのだ。信じたのだ。これが押し付けであっても、一度本気にさせたのならば最後まで責任を取ってくれ。

  

「――なんだい、あんたらしくないよ。 迷うよりもさっさと選ぶのがあんただろ。 言いたいことがあるならはっきり言え。 それがどんなことでも、私はちゃんと聞く」


 彼の迷いに、世良の炎が燃え上がる。

 未だ小さな火であろうと、それは暗い道を照らす灯だ。

 真っ直ぐ前を。それこそがあんただろうと世良の目に宿る小さな熱意を見て、今度は一喜の目が僅かに見開かれた。

 そして不意に――――そう、本当に思わずといった形で彼は破顔した。

 笑い声など出てはいないが、緩く口角を吊り上げて見せる笑顔に嘘は無い。

 望愛にした笑顔よりも柔らかい表情は、何よりも一喜自身に決心を齎した世良に向けてだった。


「くくく、そうだな。 その通り。 お前は本当にはっきりしてるよ」


「な、なんだよ……」


「いや、褒めてるんだよ。 出来ればずっとそのままのお前でいてくれと思うくらいに」


 一喜の純粋な褒め言葉に世良は体温が昇っていく感覚を覚えた。

 宥めたくとも下がってくれない熱さと共に奇妙な羞恥心が騒ぎ始め、顔を横にズラしては深く呼吸を繰り返す。

 幾分か落ち着いた後に世良はもう一度彼に視線を向け、柔和な笑みに再度熱は全身に広まった。

 心臓が五月蠅く鳴る。忘れていた感情が戻ってくる感覚に、彼女自身の戸惑いも多くなっていく。

 話を長く続けたくない。続けていたらその内気絶してしまいそうだ。

 

「内容! な・い・よ・う! さっさと話しておくれよ!」


「解った解った。 まぁ、お前の予想通りメタルヴァンガードを一台お前に任せたい」


 恥ずかしさのあまりに大声を発する世良に笑いを含めつつ、彼はさらっと本題を語った。

 メタルヴァンガードを任せたい。それはつまり、力の象徴の一翼を彼女が担うこと。

 心臓の五月蠅さがまた一段と高くなる。だけどそれは、恥ずかしさからくるものではない。今度のはある種の興奮から出て来るものだ。

 

「お前になら俺達が不在の間の拠点を任せられる。 これからはメタルヴァンガードを使って、もっと積極的に動け」


「積極的に? それはつまり……」


「全部を叶えてやれる訳じゃないが、それでもお前が思うお前の街を拠点に作ってみろ」


 一喜の手がジャケットの内側に伸びる。

 腕と共に出て来るのは、一台の新品のベルト。それを世良へと差し出して、彼は彼女に一つの頼み事を言い放った。

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