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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第二百十七話】男と女、改めて

 軍を作る。

 この言葉は明確に、異世界そのものを揺らがす内容だった。

 一喜は迷い無く皆に伝えたが、世良や十黄達にとって軍とは既に滅んでしまった敗者だ。

 怪物達に戦いを挑み、蹂躙されて存在価値を消失させる。

 今でこそそれは仕方ないと言えたが、敗北当初は軍に対して非難の声が多く寄せられていた。

 何せ金食い虫な組織だ。武器にしても、施設にしても、国軍として運営していくのであれば商売をする訳にはいかない。

 国家が民から吸い上げた税金で軍は生き、多くの人間を守る盾や矛として活躍するのが予定調和でなければならないのだ。

 冷静に考えれば理想論の一つでしかないのだが、例え解った上でも負けることを許容することは難しい。


 故に、軍が軍としてこの異世界で誕生することは多くの意味を持っていた。

 それは一喜の想像を凌駕する程に。或いは、望愛の予測する感情以上に。

 しかし、軍を作るとなると現在の拠点では足りないものが多過ぎる。

 自給自足の環境。

 戦える人間の質。

 生産を目的とした施設。

 金だけでは解決出来ない問題ばかりが今はずらりと並び、一喜と望愛は二人で取捨選択を行いながら道を決めねばならない。


「質に関してはこれから育成していくことになりますが、メイド隊の何人かを教官代わりにすれば可能です」


 夜。

 多くの人間が寝静まる中。一喜、望愛、沢田の三名はビルの屋上で向かい合っていた。

 

「自給自足の環境はまだまだ始まったばかりで脆いです。 先輩の求める基準に達するまでには、今暫くの時間が必要でしょう」


「生産施設に関しては蜘蛛達を使えば取り敢えずあの街内の工場を直せる。 幸いと言うべきか、利用可能な廃材も山のように転がっているしな」


 会議の場で、一喜は具体的な話を異世界組には伝えなかった。

 望愛自身も特に疑問の声を発さず、異世界組も一喜が何も言わなかったことでそれ以上踏み込むことを躊躇した形だ。

 彼としては将来的に武装組織を軍といった枠に収めたいだけであり、人員はほぼ全てを現地の人間だけで揃えたい。

 装備の面については玩具を運び込めばそれをそのまま使えるので楽だが、どうしても兵士を揃えることについては沢田の提案通りメイド隊の力を借りる他ない。

 施設等についてもまだこれから始めるかといった段階であり、直ぐに動き出せないのであれば彼としては具体的に語るつもりはなかった。


 先ずは第一に、軍の象徴としてメタルヴァンガードを上手く使えるようになってもらう。

 これが最優先事項であり、会議では現地の人間を使うことを既に全員に伝えてある。

 伝えた瞬間に全員の間に緊張が走ったが、それはあの場の誰かがメタルヴァンガードを使うことになると確信していたこそ。

 一喜の性格を解っていれば一般の人間を使うことも、ましてや協力関係にあるだけの人間に貴重な道具を渡すことはない。

 これまでの日々の中で一喜と共に同じ組織の中で動いていた人間が選ばれ、今後は彼等が居ない間の守護者として戦っていくことになる。


 だからこその緊張。この未来が到来することは予想の範疇だったが、だからといって命を賭けての戦いに何も感じない訳もない。

 不安はあるし、怖れもある。覚悟は過去に済ませてはいても、メタルヴァンガードを纏うことに対する責任の重さに苦しさを覚えないこともないのだ。

 だがそれでも。あの場に居た者達はもう一つの確信も抱いていた。

 世良か十黄のどちらか、或いは両方がメタルヴァンガードを使うことになるだろうと。

 

「……メタルヴァンガードについては俺の中でも謎な部分が多い。 どこまでが原作同様なのかを、まだ掴めてはいない」


「一番怖いのは拒絶反応ですね。 原作通りならベルトが吹き飛ばされるだけで済みますが……」


 メタルヴァンガード。

 これの一番怖い部分は、本当に一喜達の知る物と同一の性能を有しているのかだ。

 同じであればそれで良し。拒絶反応が起きたとしても一回や二回程度であれば命が奪われることもない。

 しかし万が一にでも拒絶反応が違う形で発生したのであれば。

 一喜達には対処法が思い浮かばない。そもそもどんな原理で動いているのかも定かではない道具を使っているのだ。解らない物を解らないままにして使っている弊害は、当然の事実として受け止めなければならない。

 改善が出来るのならしたい。分解して中身を理解出来るのなら今直ぐにでも彼はそうしていた。

 だけれども。これは現代の文明で解ることではない。中身を調査する程の技術力を一喜達は持っていないのだ。


 仮に出来る人物が居るとして、それはやはりメタルヴァンガードの出身地で直接関与している技術者だけ。

 当ては無い訳ではない。一人だけ彼の脳裏に過る姿があるが、頼るのは流石に不可能だ。

 

「誰かで実験しますか? 探せば都合の良い人間は手に入ると思いますが」


「それは無しだ。 もしもこれが原作同様でなく、俺の予想通りなら何れ問題になる」


「問題?」


 一喜の言葉に沢田が疑問の混ざる声を発する。

 問題。常に傍に居る言葉は、彼等に理不尽を与えてくる。それは道具一つについてもそうであるし、状況一つでも同様だ。

 沢田の頭で想像出来る範囲はあまり広くない。

 この場合の問題とは。それ即ち――


「ベルトの拒絶反応がそもそも無かった場合だ」


 一喜の想定したもしも。それはつまり、元が玩具であるからこそ玩具としての機能のみを現実にするのではないかといった点だ。

 カードを認識して音声を発するのも、着装が出来るのも、玩具が可能な限り遊び方として再現可能だと定めたからである。

 では、所詮一般販売用の玩具に着装を拒絶する音声が仕込まれているだろうか。

 答えは否。劇中再現をするにせよ、数を何よりも用意せねばならない商品ではコストを限界まで削る必要があった。

 実際、一喜の購入しているベルトの説明書には拒絶音声は無い。大人向けの特別仕様にはあるが、そちらは入手するにしても少々手間が掛かる。

 

「俺は試しにとやってみたら出来てしまった。 特に何の抵抗も無くだ。 俺自身に何か特別な要素があればベルトが動いても疑問は無かったが、あの時点では別に何か特別なモノは持っちゃいなかった」


 一喜が初めてベルトを使った時。その時から何か特別な目標があった訳ではなく、肉体的な意味であれば現在も特別な部分は無い。

 メタルヴァンガード本編において、着装可能かどうかは適合率や意志の強さといった明確な情報がある。

 適合率が高ければ意志等関係無しに着装出来てしまうこともあるが、やはり意志の強さが性能を引き出す必須要素となっていたので無視は出来ない。

 そして、その世界に身を置いていた訳でもないのに適合率が高いということはあまり考えられないだろう。

 実際に数値を測ってみないことには何とも言えないと思うも、直感的に一喜はこれは正しいと認識している。

 

「糸口についてもそうだ。 初着装の時点であれが認める程の感情を有していたと思うか?」


「――いいえ、そんなことはなかったと思います」


 望愛もあの時点での自分を思い返し、ベルトが動くとは考えられなかった。

 

「玩具が本物になる基準って奴は元の世界で最初に用意してある部分だけだと俺は睨んでる。 今度検証はしてみたいが、それをするなら数が必要だ。 ぶっ壊すことになるだろうからな」


「…………」


 二人の推測を聞き、沢田は無言になる。

 それは考えを纏めているから、ではなく。単に信じられないと驚愕を抑え込んでいるからだ。

 一喜にせよ、望愛にせよ、使っている物は兵器以上だ。

 沢田は二人が解っている上で使っていると認識していた。どんな風に扱えば身を危険に晒すかを知った状態で扱っていると思い込んでいた。

 でもそれは違ったのだ。二人は敢えて話さなかったのだ。

 メタルヴァンガード。それは本当に、何が起こるか解らない超危険存在であると。


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