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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第二百十四話】女、望まれる

「まず第一に言うべきことがあるとして、だ」


 呆れを九割含んだ眼差しと共に綱吉の全身から鋭さは消えた。

 それは彼自身が感じていたもしもが無かったことで安堵した結果かもしれないし、彼にとってはくだらない内容だったからかもしれない。

 真意の程は一喜には類推することは出来ず、唯一綱吉の考えていることを理解しているのは望愛だけだ。

 彼女だけは急に緩んだ雰囲気の中で苦笑するだけに留めた。どちらの感情も同意出来る部分が存在しているだけに、望愛の中ではどちらに傾くかを決めるのは難しい。

 兎にも角にも、この場のステージに立つのは綱吉だ。彼が場を仕切るのが相応しい。

 

「君、もう少し他人を選別した方が良いと思うよ」


 綱吉は言い放ちながらも、敢えて深い部分を指摘することを避けた。

 一喜は人を信じない。過去のあれこれを調べた訳ではないものの、上位者に対して物怖じしない姿勢はそれなりの境遇を感じ取れた。

 きっと彼は上という存在に酷い目に合わされたのだろう。それが仕事であれプライベートであれば、一度受けた理不尽を人は根に持つ。

 悪化を辿れば復讐の為に殺人に手を染め、その事実が世間に公開されれば下からのバッシングは避けられないだろう。

 人が死ぬことには常に理由が存在する。何も無しに勝手に死ぬなど、どんな生物であろうとも有り得はしないのだ。


「君は全てを同じにしている。 どんな人もこうだからと一括りにして、その枠から超えることなど無いと信じている。 ……それは随分、自分勝手な考えじゃないか?」


「……」


「気持ち自体は解る。 世の中駄目な奴の方が多くて、良い奴は大抵理不尽に潰される。 良い人間程早くに死ぬのはつまり、それだけ良き人間を貫こうとした結果だ。 だから、上で生き残るなら汚ければやっていけない。 ――誰を潰してでも、僕等は生き残りたいんだ」


 綱吉も一喜の思考そのものには共感出来る。

 上を見ても下を見ても、右を見ても左を見ても屑の方が圧倒的に多かった。両親からして屑だったのだから上層の八割以上は信用に値しない。

 されど、だからといってそれで誰も彼もを拒絶しては仕事にならない。更に言えば敵も多く生まれ、早期に引き摺り落とされるのが目に見えていた。

 損得上等、打算込み。互いにとって利益に繋がる道を模索して、ビジネスパートナーとして共に仕事を生み出す。

 多くの富を得て、そして少しでも幸福な終わりを迎える為に。

 時には家族すらも策の一つとして利用しようとするのだから、日頃流れるドラマなぞ彼等にとって当たり前でしかない。

 そして当たり前だからこそ、時には気を抜ける仲間が欲しくなるのも事実だ。


「だが僕等は人間だ。 機械みたいに何でもかんでも計算だけで決められない。 友人を欲する瞬間はあって、愛についてを真面目に考える時もある。 だから、信じるべき誰かを決めるんだ」


 信じるか、信じないか。

 そんな二極で生きていけるのは何の責任も背負っていない人間だけだ。今の一喜のように多くの人間の未来を背負う立場に座った以上、どれだけ駄々をこねたところで人間関係からは逃げられない。

 なら、最後まで自分に味方をしてくれる人間を大切にしよう。例え裏切られたとしても、仕方ないと思えるくらいの仲間を持とう。

 在り来たりではあるが、人間の営みとは社会と呼ばれるシステムが組み込まれたところで変わらない。

 信じて、裏切られて、また信じて、また裏切られて。辛いことが起きる度に、心を強く持って前に進む意思こそが強き人間だと綱吉は信じている。

 

「潰されたくないなら、潰す足を押し退けるくらい大きくなれ。 あの異世界を丸ごと飲み込めるような組織を作れれば、例えこの世界に存在が露見しても易々とは潰されない。 ……僕が君に指摘するとしたら、今はこれくらいだ」


 彼だけのステージが終わった。

 無言が示すのは次の役者の語りであり、それはヒロインの言葉ではない。

 綱吉の激励にも似た指摘は一喜にとって苦しいものだ。半ばトラウマとなっている信用や信頼の二文字は彼には敵として見え、常に対立する立場にあった。

 信じられるのは、何時だって自分だ。他の誰かに仕事を頼んだとしても、それは失敗してもリカバリーが可能なものだけを任せている。

 本当に失敗してはならないものだけは必ず自分の手で行い、報告まで含めて誰も間に挟ませなかった。

 その方が安心出来た。その方が自己肯定感も上がった。信じることは嫌なクセに、誰かに信じてもらえることは純粋に嬉しかった。

 

「……言いたいことは重々承知している。 その方がずっと良好な関係を築けることくらい、自分でも解っている」


 多分に時間を掛け、彼は呻くように言葉を漏らした。

 理性は常に正しいと告げ、けれど本能が警鐘が鳴らす。眼前の人間の言葉を肯定してはならぬと、これまでであれば容易く首肯していた本音が心中で渦を巻いていた。

 信じるな、信じるな、信じるな、信じるな!

 裏切られることは、決して心情的なダメージを齎すだけでは終わらない。特に裏切りがイコール命の喪失に直結する異世界であれば、それがそのまま危機に転じてしまうのだ。

 予定調和を崩すな。余計な思考を行うな。今はただ、次の事にだけ意識を傾ければ良いだろう。


「しかし、だ。 どんなに信用や信頼の証明をされたところで、俺の中の意識は変わらない」


 心中で決めた嘗ての決意。

 悪を許さぬ鋼の心は曲げることを許さず、小さいながらも確かに存在する焔は今も怒りによって激しく燃え盛る。

 前を向け。悪を滅ぼせ。善行こそが社会の営みなのだと宣言しろ。

 それを邪魔する者は殺してしまえ。要らないのだから、死んだところで一体どうして困るというのか。

 固めた決意に罅割れは一つとしてない。仮に罅が走ったとて強固な意志が直ぐに修復して立て直す。

 砕けぬ意志とは、総じて呪いだ。改める機会を自分で捨てていくのだから、歪んでも直しようがない。

 下げていた頭が上がり、彼と綱吉が視線を交わす。

 決意に滾る炎は成程、綱吉としても早々には崩れないだろう強さを感じざるを得ない。同じ思想を持つ同士であれば、これほど頼りになる男は居ないだろうとも考えてしまう程に。

 

 しかし、不意に。本当に不意に、彼はその目から力を抜いた。

 滾る焔を意識的に鎮火させ、視線を綱吉から望愛へと移す。その突然の行動に望愛の背は震えたが、彼はそんなことなどまったく気にせず言葉を続けた。


「……だから、条件付けだ。 俺が見て、話して、顔を向き合わせて。 糸口、お前は少なくとも俺の為になるような行動をし続けてくれた」


 静かに語る彼は、普段望愛が見る姿ではない。

 過去を思い返し、そして納得している。疑念の混ざった目ではなく。

 

「お前のメイド達を信じることは未だ難しい。 理由が理由なだけにな」


「は、はい」


「でも、お前自身なら俺は信じたい。 お前はまだ、悪を成した訳ではないから」


 告げ、本心を晒すことを躊躇しながら彼は彼女に微笑みかけた。

 本気の笑顔とはいかずにぎこちないが、望愛は初めて彼の深奥を見たのだ。

 強固な意志の最も柔らかい部分に居る、見られたくない彼の姿を。

 

「……ッ、…………!?」


 心臓がこれまでで最も大きく騒いだ。

 抑えようとも抑えきれぬ心音はこれまでの中で最高で、顔に熱が急速に集まっていく。

 条件付け。

 その意味を彼女は正確に掴めている訳ではない。だが、強固な意志を生み出す根源が正義であるならば、彼が示したのは即ち悪事の有無だろう。

 彼女が一喜の良き人間であろうとする限り、その信用が失墜することはない。

 彼女が彼の考えに賛同する限り、その信頼が揺らぐこともない。

 真実、互いが互いにビジネスを排した関係を築くこと。なればそれは、望愛が求める未来へ繋がることも示していた。

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