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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第二百五話】男、オカルトの二度漬けを受ける

 煤けた街並みは元の静けさを取り戻した。

 無くした命は数知れず。壊れた物も数え切れず、それらが戻ってくることは二度と訪れないだろう。

 立つのは一喜ただ一人。敵の居なくなった場で着装は溶けるように消えていき、残るは生身の肉体だけ。

 サポートが消えたことと戦闘が終わったことで緊張の糸は途切れ、いよいよもって彼の肉体は意志による制御を受け付けなくなった。

 碌な受け身すらも取れずに身体が倒れる。地面に衝突した痛みに眉を顰めつつも、どうにか連絡手段の一つでもないかと腰ポケットを弄る。

 出て来た携帯は簡易の保護しかしていない所為で傷だらけだ。画面が割れていないことが奇跡的であり、下取りに出したとしても最低価格になるだろう。


 電源を付けて電波を確認するも、やはりアンテナグラフの数は零。それどころか圏外と表示され、電話どころかネットに繋がることもない。

 今一度メタルヴァンガードになることは不可能だ。カード自体はまだ幾つも有りはするので問題は無いが、身体の方が休息を欲している。

 この意識が朦朧とする中で更なる無茶を働けば、二度と目が覚めない可能性もあった。

 俯せの状態となって、彼は腕だけの力で進む。

 このまま拠点まで戻れるなんて思ってはいない。向かうのは人目の無い崩壊した建物の一つ。

 

 今にも崩れ落ちてしまいそうな建物ではあったが、彼には場所を選り好みする時間が無い。

 もう今にも気絶してしまいそうな中で必死に藻掻き、多くの時間を掛けて建物の中に入り込む。入口からは隠れる形で身を横たえ、目覚める先で何処か別の場所に連れていかれませんようにと彼は目を閉じた。

 一度脱力すると、意識は急速に遠退いていく。

 最早再度掴むことも敵わない。そのまま彼の意識は深い闇の中へと沈んでいき――――再度意識が覚醒した時にはとある建物の前に居た。


「……あ?」


 思わず間の抜けた声が出た。

 辺りを見渡せば、最後に意識を喪失した場所とまったく異なる景色が広がっている。

 燦燦と降り注ぐ陽光に、一部の崩れもない建物が当然のようにある街並み。

 まるで元の世界の街。それも彼が想像する通りであれば、眼前に立つ建物は自身の実家だ。

 これはきっと夢なのだろう。家族の下を離れてから長い時間が経過し、離れてからは碌に会話らしい会話をしてこなかった。

 二人の携帯の操作が苦手な所為でチャットアプリには両親の名前も無く、会話するなら直接通話する他ない。

 

 一体どうして、自分は実家の夢を見ているのか。

 その理由が定かではないまま、嘗てと同じ位置にある呼び鈴を鳴らした。

 懐かしいチャイムの音色を聞きつつ、誰が出て来るのかと内心で期待する。仕事人間だった父か、それとも趣味人だった母か、どちらであったとしてもきっと彼は喜びを露にしていただろう。

 だが、期待に反して誰かが出て来ることはなかった。その後も二回三回と鳴らしても誰も出て来ず、その反応に彼は懐かしさを覚えずにはいられない。

 父は基本的にあまり家には居なかった。仕事を第一とし、ワーカーホリック上等の典型的な家庭を顧みない人間だ。

 母は趣味の旅行に精を出し、彼を連れて行くことは基本的に無い。旅行仲間と一緒に出ることはあるが、父と二人揃っての旅行は彼の知る限りでは一度も見ていなかった。


「鍵が開いてる……」


 玄関扉の取っ手に力を入れると、呆気ない程に簡単に扉は開いた。

 玄関に二人の靴は無い。横にある小型の靴入れを覗いて見るも、記憶の通りに靴を磨く道具以外は入っていなかった。

 靴を脱ぎ、リビングに向かう。

 32型のテレビに、広めのテーブル、四人分の椅子に青色の絨毯。

 キッチンのガスコンロには使用された形跡がある。近くの冷蔵庫の扉を開けてみると、そこには作り置きの料理が一つ置かれていた。

 これがあるということはと、彼はリビングにあるテーブルに今一度視線を向ける。

 そこには小さな紙切れが一枚置かれ、手に取って読めば母の字で五日は帰りませんと書かれている。

 

「本当に、昔の光景だな」


 呟く声に熱は無かった。

 期待は無くなり、当然の結果には納得するしかない。両親は喧嘩をするような人間ではなかったが、和気藹々とするような人間でも無かったのだ。

 言ってしまえば、個人主義だろうか。母と父の結婚理由は定かではないが、彼が物心つく頃には二人は今のような状態だった。

 彼が幼かったが故に母は旅行に行く頻度は少なかったが、実家の人間に何かと理由を付けて預けた際には一日二日と旅行に行っている。

 父は子育てに関与せず、少々の会話をするだけで放置していた。

 

 それが小学生の頃には当たり前だと思っていたし、特に疑問は覚えなかった。

 家族が授業参観に来ることも無く、運動会でも自分で持参した弁当で適当な遊具に座って食べていたのである。

 中学二年くらいで我が家が異常だと気付きはしたものの、その頃には一喜自身ももう個人主義に染まってしまった。

 人が居ないのが当たり前。個人でどうにかするのが日常。

 生活費自体は出ていたものの、それ以外の金が欲しければバイトをするなりして稼ぐしか方法がなかった。


「どうしてこんな夢を今更見るんだ?」


 椅子に座り、彼は自分に問いかけた。

 家族に対して何か思うところはない。愛情を求めることは早々に放棄したし、虐待される他の子と比較すれば自分はマシな方であると理解している。

 きっと望まれた子ではなかったとしても、それでも育ててくれた以上は恩を返すことも吝かではなかった。

 老後に施設に行くのか家で過ごすのかは解らないが、あの二人であれば迷わずに施設行きを望むだろう。

 子供に愛情らしい愛情を与えなかったのだ。ならば介護をしてもらえるなど考える筈も無い。その辺は理性的であるのが彼の両親なのである。

 

 心は僅かも震えなかった。一度でも納得出来たのなら、彼とは何の問題も無い。

 であれば尚更にこの夢の理由が解らない。見ることすらも基本的には有り得ないだろう。

 

『成程、此処がお前の過去か』


 ――だから、突然背後で聞こえた声に彼は酷く驚愕した。

 慌てて立ち上がりながらも振り返り、声の持ち主を探す。しかして、キッチンの方角から聞こえた先には誰の姿も無かった。

 

『おいおい、いきなりどうした?』


 肩に誰かの手が乗る。

 またも背後からの問い掛けに咄嗟に肘打ちを放ち、相手は彼の攻撃をもう片方の手で受け止めた。

 振り返る。今度こそはと動いた身体は、されど姿を捉えることは出来ない。

 

「誰だ」


 低い声が漏れ出た。敵意と殺意を多分に含んだ声に、相手側は明るい笑い声を発する。


『なに、大した奴じゃないさ。 ただそうだな、お前さんは俺の存在を正確に知ったら酷く驚くだろうぜ?』


「だから誰だ。 遠回しに話をするつもりなら無視するぞ」


『つれないねぇ。 ま、いいさいいさ。 お前さんはそれでいい』


 相手は良い意味では気さくで、悪い意味で馴れ馴れしい。

 友好的な態度で接するまったく見知らぬ存在に一喜が苛立ちを含んだ最後警告を発するも、それで気を悪くする素振りは一切見せなかった。

 挙句の果てには何故か彼を知っているような口振りまでし始め、いよいよ不審者めいた存在に一喜の不快指数は頂点に上っていく。

 

『俺がどういう存在かってのは難しいが、定義されない存在ってのが正しいな』


「……」


『人の意識に自然に居る存在であり、現実に漠然と居る存在であり、反対に万人が手に出来るとは限らない存在』


「…………」


『解らないか? ――俺はお前達が言うところの、力でありエネルギーであり燃料だ』

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