表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

204/261

【第二百四話】男、倒れる

 幼い頃の思い出を語る時、人は第一に生まれを先に口にする。

 何処で生まれ、どんな家庭で過ごし、自身がどんな人間だったのか。

 有り触れたパーソナリティを持つ身であれば自身の人格を殊更細かく口にすることはないであろうが、おおよその自分の語りの始まりとはこんなものの筈だ。

 その道理に当て嵌めるのであれば――戦艦の生まれは道路だった。

 何でもない普通の道路の脇に段ボールと共に置かれ、中には最低限暖を取れる程度のタオルとメッセージカードが一つ。

 メッセージカードには名前とよろしくお願いしますの文字だけが綴られ、彼自身がどのように誕生したかは一切書かれていなかった。

 

 客観的に見て、戦艦の生は絶望的だったろう。捨てられた場所は何の変哲もない道で、閉められていた所為で外から赤子であると判別することは不可能だった。

 更に季節は冬のクリスマス。不幸な日になってほしくないと思う者からすれば、そんな日に赤子を拾う真似はしたくはない。

 なればこそ、これは運命のようなものが働いた結果だったのかもしれない。

 一台の車が止まり、一人の老婆と二人の男達が姿を現した。

 僅かに動く段ボールを老婆は大切に抱え、そそくさとその場から車と共に走り去っていった。

 車内で段ボールを開けると、その中にはまだ首も座っていない赤子が一人。

 泣き声の一つも発さずに老婆を見やり、老婆はそんな赤子に柔らかな微笑を送った。


『よく、間に合ったわ。 貴方達の尽力のお蔭ね』


『いえ、最善の道を取れなかった時点で職務としては失敗です』


『いいえ、この子は生きている。 なら、この件は成功に終わったのよ』


『……ありがとうございます』


 男達二人は黒いスーツを着ていた。

 安堵の表情を浮かべ、風景に警戒をしながらも一つの目的地へと走っていく。

 その先にあるのは一軒の家。人が一人住むには少々大き過ぎるサイズの一軒家の前に車は止まり、黒服の男達は周りを見渡しながらも老婆と赤子を室内に向かわせた。

 戦艦はその当時のことを覚えている。極めて稀な例であるが、彼は赤子の時分から過去の全てを思い返すことが出来ている。

 老婆は自身の祖母であったこと。祖母の一族は代々議員を輩出する有名な家系であり、教育に関しては非常に厳しかった。

 恋愛など一切許されない。身体すらも政治を円滑に回す道具として使うことを強要される家系で、彼の母も例外ではなかった。

 

 戦艦に母の気持ちは解らなかったが、捨てられた時点で望まれた子ではないということには理解している。

 悪いのは母の父親である祖父であり、全てを手札として使うことを強要する一族そのものだ。

 今時、政略的な婚姻など時代遅れも甚だしい。古き良き慣習は確かに存在するが、これを良き慣習とするのはお世辞でも不可能だろう。

 祖母もまた、この一族の女として生まれて苦労していた。鮮やかな家具や煌びやかな宝飾品を多数持ちながらも、祖母は一切それを身に付けることをしない。

 彼女がそれを身に付けるのは、祖母の夫である人物の客が訪れた時のみだ。そして決まって、客が消えた後の室内を自分の手で執拗なまでに掃除している。


『ねぇ〇〇。 あの人達は何を望んで私に会いに来ているのかしらね』


 祖母は決まって同じ疑問を彼に呟いた。その頃の彼はまだ小学生であるにも関わらず。

 呟いて、直ぐにはっとした表情と共に祖母は謝罪していた。

 そして、一頻り謝った後に彼女は虚空を睨んでは歯軋りをしていたことを彼は覚えている。

 彼女が睨んでいたのは、一度も家に来なかった祖母の旦那に対してだ。

 彼が赤子の頃から祖父は一度も姿を見せず、また何か手紙やメールを送ってくることもなかった。

 もしや離婚していたのではないかとも疑ったものだが、外聞を気にする職の者が安易に離婚を選択するのも思い難い。それが有名な人物であれば尚更だ。

 

 結婚して、子供を作って、役割らしい役割を果たせばそれでおしまい。

 二人の間にはそんな約束でもあったのかもしれない。しかし、幼いながらもそれは駄目ではないかと戦艦は思った。

 結婚とは幸福になる為の契約だろう。子供を産むのも、それが愛した人物との愛の結晶になると信じているからだ。

 最初からそれがないなど、まるで道理が通っていない。常識的に考えて先ず選択としては無しだ。

 悪は祖父であり、容認し続ける家である。如何に権力を持っているとしても、それで誰かの人生を縛ることをしてはならない。


 ――故に、彼は当然の思考した。

 正義は我にあり。悪逆非道な者共に対して裁きを下すのは、一善人として当然の行為である。

 そこに法律違反が含まれていることも、必ずしも裁くことだけが全ての解決になる訳ではないことを知っていても、悪が日常に常に居る環境では余計に正義心を加速させるだけだ。

 そして中学三年になった時、彼は一つの事件を起こした。

 愛している祖母を守る為。悪が身近に居ることを防ぐ為。そして、母が自身を捨てた行為を間違いではないと証明する為。

 刃を取り、感情を潜ませ、何でもないような顔で祖母に汚職を提案する一人の議員を背後から強襲したのである。


『――――随分、昔のことを思い出しました』


 意識が戻る。

 感覚が蘇る。

 同時に知覚するのは、胸に大きく開いた喪失感。

 下を見れば、そこにはある筈の装甲が無い。肉体を構成する肉も神経も骨も消え、残るは伽藍洞ただ一つ。

 治そうと思えば治せるだろう。力を集中すればまだ傷は塞がる。

 だがそれを、眼前で第二射を準備する男が許す筈もない。

 あの一瞬、戦艦は思考を放棄して信ずるモノの為に突撃した。砲の一つも使わず、僅かに復元した錨で彼を潰さんとした。

 そんな蛮行では一喜の砲撃を防げる筈も無く、引き金を押した一撃で錨ごと彼の胸は綺麗に撃ち抜かれた。

 

 生きることはまだ出来る。このダメージは手痛いものの、死からはまだ遠い。

 けれどもう、戦艦には勝負の行く末が見えている。このまま戦いに全力を投じたとして果たして勝てるかなど、態々論ずるまでもない。

 だから彼は、傷を防ぐことを止めた。どだい勝てないと解っているのなら、残る全てを武器に回す方が後の者達に残すことが出来るかもしれない。

 流れる血をそのままに、戦艦は肩に意識を向ける。残った残骸のような装甲を集め、そこに急ごしらえの砲を二門ずつ揃えた。

 更に足へと意識を巡らせ、これまた二門の砲を足に生み出す。

 錨は既に無い。両腕は焼き切れた。文字通り、この四つの砲こそが最後の生命線。これを破壊されればもう戦艦に後は無い。


『これが走馬灯でしょうか。 中々どうして、不思議な心持です』


『……』


『今更、思い出すこともないでしょうに……』


 砲口に火が灯る。

 最後の言葉はまるで自身を慰めようとしているようで、同時に恨みも含んでいた。

 瞬間、互いの攻撃が同時に放たれる。無数の砲弾は一喜に迫り、しかしどうしたとしても彼の放つ青い極光の前では無力だ。

 先の繰り返しが如くに砲弾は溶け消え、今度は胸部を含めた頭部の全てを焼き溶かす。

 頭部を覆う装甲は消えた。肉も消え果て、骨と神経だけとなってなお怪物の生命力が意識だけを残す。

 青い光は戦艦には見えない。しかし、彼は放たれた光を美しいと心から感じる。

 綺麗なものは、何時だって綺麗なものだ。

 良いものは、何時だって良いものだ。

 ならば正義とて、それは何時のどんな時代でも正しいものなのだ。

 

 消えて、消えて、諸共全てが消えていく。

 最後に残るは破壊跡の目立つ街に、黒い煤となった戦艦の肉体。そして煤の上に静かに置かれた、一枚のカードのみだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ