【第百九十六話】男、切る
切断を目的とした武器と弾を吐くことを目的とした武器。
片方の用途は異なるものの、激突のインパクトによって発生した衝撃は地面の砂を巻き上げさせて停車していた車や瓦礫を吹き飛ばした。
一喜は下から上へと切り上げるような斬撃を。砲撃魔は上から叩き潰すような振り落としを。
力比べは拮抗の形となったが、一喜は腕を通して感じる重さに長続きはしないと早々に刃を引いた。
独楽が如くに回り、落された砲が地面を叩く。
爆砕した地面は広範囲に砂を撒き散らし、二人の姿を隠した。
これで互いに目視は不可能――など、そんな程度で攻撃の手を止めることはない。
相手の位置などセンサーで解るし、相手も相手で持前の経験である程度は解る。
僅かな距離が開いた瞬間に砲撃魔は脚部のランチャーを放ち、砂煙を掻き分けて出現する弾頭を一喜は剣で切り落とす。
背後で爆発の衝撃と音を聞きながら一喜は突撃。一気に眼前に近付いた彼に砲撃魔は歓喜の表情を浮かべ、またもや砲を棍棒に見立てて振るう。
鈍い金属音が瞬間の中で数度響く。移動しながらの激突は周囲の地形を容易く歪め、人の住める状態から大きく後退させた。
『良いな! やっぱ戦いってのはこうでなくちゃな!!』
『ッ、……!』
『お前も楽しいだろ? 命を賭けて自分の権利を勝ち取る戦いをするんだ、滾っちまうだろぉ!?』
激突の只中で砲撃魔は眼前の一喜に叫ぶ。
目は何よりも闘争を喜んでいた。水が久方振りに水を貰ったように、骨と皮だけになった子供が食事を与えられた時のように。
誰にも縛られず、自由に、強い敵と。
砲撃魔の心は実に彩に満ちていた。大人が嘗て忘れてしまった童心を剥き出しにして、何もかもを破壊しながら笑っている。
そこに、白黒のカードを使っていた者達の悲壮は無かった。
致し方ない理由で着装をしているようにも見受けられなかった。
刃を傾けて砲身を逸らす、滑るように相手へと接近する中でベルトのレバーを倒す。
【Over Non standard. Full Metal Finish!】
機械音声が二人の間に届く。
砲撃魔は背筋に冷たいものを感じた。今にも死神が首を刈り取らんとするイメージが脳裏を過り、直後鍔迫り合いをしている刀身が赤く光る姿が視界に入る。
刀身と触れている砲は先の攻防が嘘のように切断され、砲撃魔の顔面へと刃が迫った。
回避など不可能。当たればどれだけ頑強になった肉体でも両断は避けられない。
必殺の名が示す通り、これが命中した時点で砲撃魔の命が潰えることは確定だ。
互いの世界がゆっくりとしたものへと変わる。感覚が死を察知して鋭敏になった結果だが、だからこそ砲撃魔には考えるだけの余地が出来た。
弾を全放出して吹き飛ばす。不可能。
焼け焦げた腕で防御して致命傷を防ぐ。不可能。
まともな方法で避けるのは無理だ。そも、砲撃魔にとってメタルヴァンガードがここまで殺意を剥き出しにして攻撃を仕掛けてくることはなかった。
覚えているのは、言葉を尽くしてばかりのメタルヴァンガードの姿。
何故戦うのか。どうして殺すのか。自分の私欲を満たすことばかり考えるな、なんて意味の無い言葉の羅列。
メタルヴァンガード自体は強かった。それこそ、殺すことのみに焦点を当てていればもっと前に怪物達は絶滅していたかもしれない。
そうならなかったのは、メタルヴァンガードの着装者が最後まで良心と人間性を喪失していなかったからだ。
性善説を信じ、人はどんなに堕ちても這い上がることが出来ると願ったからこそ最後には死んだ。
実際に砲撃魔は戦った訳ではない。話をした程度であり、その時点で本気を出させるには苦労すると思っていた。
それ故に、今度のメタルヴァンガードは解り易かった。解り易い殺意を持って、良心と人間性を皆持っていると考えていない。
『――――』
頭部に直撃する刹那、砲撃魔は足のランチャーを地面に向けて弾を放った。
爆発の衝撃で身体は上へと跳ねるも、刃は下半身を断ち切る。
内臓が切断面からまろびでてしまうのも構わずに砲撃魔は切断された砲を一喜に投げ捨て、次の砲を背中から取り出して引き金を押した。
後の事など関係無い。人間であれば絶対に出来ない行動に、しかし一喜は慌てることも無しに次の動作へと移行を続ける。
刀身の赤光はまだ終わってはいない。一度直撃したことで威力は大幅に減衰されたものの、次の一刀でも十分に命を刈り取ることが出来る。
振り抜いた刀身の柄を反転させ、パワーに任せた強引な運動で迫る弾を切り捨てた。
必殺は使えば使う程に威力が落とされていく。相手がそれを理解しているとは一喜は思っていないが、徐々に発光が収まっていく様子を見れば覚ってしまうだろう。
『かは! いってぇなぁクソが!!』
砲撃魔は文句を口にするも、雰囲気は明るい。
下半身を丸ごと喪失したにも関わらず負けるとは露程も考えておらず、その原因は近付いている状態だからこそ間近で見ることが出来た。
まろび出ている内臓はビデオの逆再生かの如く体内に引き戻され、急速に肉が盛り上がって下半身を形成しようとしている。
これは白黒のカードを使っている者であれば有り得ないことだ。一喜としても急速な再生など予想していない。
驚愕に目を見開く中、砲撃魔は二度三度と弾を連続で吐き出す。
自身をも巻き込む自爆技だ。しかし、この異常な回復速度の前では自爆技が有効的な戦法に変わってしまっている。
特撮内では視聴者層の関係でグロ映像の類は殆ど使えない。
生理的嫌悪を煽る見た目や悪辣な手段が出て来ることはあっても、破壊された箇所から再生していく描写は極端に配慮しなければとても映像に流せない。
だからこそ一喜には高速再生が解らなかったのであるが、そのような事実は今やどうでもよくなってしまった。
勝つと思って来たのであれば、予想外の事態に陥ってもアドリブで解決する。
これまでもそうだったのだから解決してみせると僅かな動揺を抑え込み、直線状に存在する二発の弾頭を身を翻して回避した。
使用する度に出力が低下するのであれば、そもそも攻撃に当たらなければ良い。
当たり前の理屈であるが、本来の正義の味方としてのメタルヴァンガードからすればそれは本来してはならないことである。
その姿からも砲撃魔は嘗てとの違いを実感し、笑みを深めて残る片腕のランチャーからも弾を吐き出した。
狙いは当然、相手の足を鈍らせること。撃破することを捨てて自身の再生に全力を傾け、治った後に再度攻め立てる。
大丈夫だ。まだまだ戦うことは出来る。――――こんなことで終わりにだなんてしていい訳がない。
『まだ、付き合ってもらうぜ?』
『いいや、ここまでだ』
ランチャーと砲の乱れ撃ちで疑似的な弾幕を形成し、移動は斉射時の反動で済ませる。
威力が高く、勢いがあるからこその移動法は肉体が頑丈でなければ不可能だ。
同時にリアルタイムで回復は進み、瞬きを複数回した頃には太腿まで復元されていた。
このまま放置するのは得策ではない。そも、放置すればするだけ時間が掛かる。
ならば最速最短。全力でもって終わらせるのみ。
腰のカード入れに手を伸ばす。引き抜いた二枚のカードは、ザ・ファイターとヴァリアブルブラスターだ。
【Diamond of THE・FIGHTER――Authorize】
【Spade of VARIABLE BLASTER――Authorize】
【Spade of GUN BLADE――Authorize】
『着装!』
右腕の機械にカードを読み込ませ、一喜の鎧が姿を変貌させる。
騎士の身体をベースとし、背部と脚部には高速移動用のブースター。ブースターの左右から伸びる形で肩に連射式の銃が乗せられ、右手に持つ剣とは反対の左手にバレルが延長されたマシンガンが出現する。
TRY WONDER。機械音がその全てを言い切る前に、彼はレバーを即座に倒した。




