【第百九十五話】男対砲撃魔
突如飛来した閃光は、狙い違わず砲撃魔に降り注ぐ。
咄嗟の判断で砲撃魔は直撃を回避したが、僅かに巻き込まれた腕はランチャーが溶解した上に焼き焦がされた。
激痛を凌駕して感覚すらも認識することが出来なくなった有様を見た砲撃魔は一瞬驚き、即座に目を地面に降り立つ怪物に向け――今度は歓喜に口角を吊り上げる。
降り立った相手は昨今において此方側に被害を齎した鉄の戦士。
彼等の頭領曰く、今度こそ自分達を滅ぼし得る存在。
情報を与えに来た女王の苦々しい表情を思い出し、成程こいつがと砲撃魔は久方振りの希望を胸に抱いた。
鉄の戦士――メタルヴァンガードは周囲を見渡す。状況は最悪の一言であり、しかし彼が住居としている街と比較すると大きな違いはない。
他との違いがあるとすれば、この近辺には一軒家が目立つことか。
店の数は少なく、高層建築群があまり見受けられない。かといって田舎と言える程に建物同士が離れてはおらず、嘗ては平凡な街だったのだろう。
地形を確認し、そこで漸く一喜は砲撃魔を見る。
先程の一撃の成果は芳しくなく、折角の必殺が不発に終わっていた。右腕を持っていくことだけは出来たが、言ってしまえばその程度。
直撃とならない限りにおいて勝敗が決まったとは言えず、最速での決着を望む身としては舌打ちをしたくて堪らない。
『その姿……お前さんが新顔か!』
『新顔?』
ナイフを構えている男など最早砲撃魔には何の興味も無い。
脳裏の片隅からも消え、嘗て見た最強と直接対決が出来る事実にただただ喜びを露にしていた。
『そうさ、新顔。 前は都合の所為で遠目で見ることしか出来なかったが、今度は違う。 こうして暴れに出たのは間違いじゃなかったな!!』
呵呵大笑。
瞳は一番星を見つけたとばかりに煌めき、肉体に流れる血は更なる温度を放つ。
噴き上げる蒸気の量も先の倍にまで増え、赤熱化している肌は触らずとも他者の肉を焼く。
完全なやる気となった砲撃魔は片腕で持っている砲を一喜に向ける。
そのまま何てことの無いタイミングで――さも当然かの如く弾頭を吐き出した。
『いきなりだな』
飛び出る弾頭は真っ直ぐに迫る。何の捻りも無い攻撃を一喜はカードを交換するまでもなくジェットの推進力だけで交わし、一気にトップスピードへとギアを引き上げて砲撃魔と肉薄する。
傍から見れば瞬間移動の如き移動だが、当然ながら砲撃魔に見えない筈がない。
右手に持つ銃が自身に向けて放たれる前に砲を捨てて殴りかかり、一喜は頭部を狙う一撃をすり抜ける形で躱す。
そのまま砲撃魔の背後を取るが、彼は追加で攻撃をする前にと傍で唖然としたまま固まっている一般人を腕で掴んで距離を取った。
一般人の男からすれば一瞬で位置を変えられたようなものだ。
突然の風景の変化に憎悪も怒りも吹っ飛び、気の抜ける言葉だけが口から漏れ出た。
気持ちは一喜にも解る。何も知らなければ自身も同様の気持ちになるだろう。
説明をしたい気持ちはあるが、眼前の敵が見逃してくれるとは思えない。
『お前、早く逃げろ』
「……は」
『早く逃げろ!』
怒声を込めて言葉を叩き付ける。
殺意すらも混ぜて放たれる言葉に男の本能は刺激され、意識よりも先に身体は逃げることを選んだ。
頭に子供のことは無い。意識は空白に染まり、理性が戻って来るまでには今暫くの時間が掛かるだろう。
そうなった際に戻ってくる可能性はあるが、そうなったのであればもう一喜は離れることを告げることは出来ない。
遠くなっていく男の姿を一瞬視界に収め、改めて彼は砲撃魔と真正面から向き合った。
『良いね、正義の味方っぷりも板についてる。 昔っからそんな感じかい?』
『どうでもいいだろ。 そんなことより……』
昔を懐かしむ砲撃魔の言葉を切って捨て、彼は構える。
砲撃魔もまた過去への回想をあっさり捨てて自身の武器を全て一喜に向けた。
焼け焦げた右腕はランチャーを含めて未だ使用は不可能。強引に振り回したいところだが、そんな足掻きめいた攻撃で一喜を倒せると砲撃魔は思っていない。
怪物にしてくれた我等のボスが滅ぼし得ると判断した相手だ。如何に自身が白黒よりも格が上だったとして、油断などする気も無い。
言葉が消える。唐突に静寂が舞い降り、互いの視線が交差する。
一喜にとって今回の戦いは、ある意味において目安となる。以前に戦った相手は総じて白黒のカードであり、本物程の性能を持ってはいなかった。
使用者本人の技量で装甲の一部を破壊されることはあったが、なんだかんだ死の危険に晒されることはなかったのである。
では今回の色付き、アドバンスカード相手であればどれだけの苦戦を強いられることになるのか。
出来れば物語の中の強さと同程度であってほしいと願いつつ、ブースターを吹かしての高速移動へと移行した。
『……さっきも見たが、思ったよりも速いな』
砲撃魔は感心の声を漏らす。
先の一瞬。拳を振るう速度は決して弱くしてはいなかった。
この一撃で終わらせるくらいの気概で振ったが故に、それが回避されることは砲撃魔にとって半ば予想の範疇を超えている。
思い出すのは、現ジェットのカードを使用している同胞だ。
仲が良いとは言えないまでも、実際に会って情報交換程度に話す機会は幾らかあった。
その際に帰還時の速度を実際に見て、あれは便利だと思ったものである。
あの時は遠目に見ての感想であったが、今間近で実際に見て戦えば感想もまた変わった。
常に相手の背後を位置取る戦い方。
砲とランチャーの向きを計算に入れ、攻撃と攻撃の隙間に右手に持っている銃で肉体に的確なダメージを与えている。
一撃一撃は大したものではない。問題無いと言えば問題無いが、それが何度も直撃し続ければ無視出来ないダメージになる。
蜂の一刺しめいた戦法だ。それを悪いと砲撃魔は思わないが、何時までも自身の土俵に引き摺り出すことが出来ないのはフラストレーションが溜まる。
『――ラァ!』
攻撃範囲は広くない。
今の武器の得意距離は中距離。であればと、身体に力を入れてランチャーや砲を無差別に放つ。
地面や建物に当たった攻撃は爆発を引き起こし、体力が続く限り容赦無くそれが繰り返される。
相手は速いが、しかし武器に頼った戦い方を選択している。肉弾戦を選択していないのは性能的に不利を取るからであり、ならば衝撃一つでも当たれば揺れる。
轟音が広がった。建物が外側へと大きく吹き飛び、中に人が居れば軒並み瓦礫の山に潰される。
コンクリートの地面は抉れてその下の地面を晒す。
空には大きな黒煙が上り、街の外からでも被害の大きさを物語ることが出来るだろう。
正しく兵器。正しく災厄。
只人では勝てない怪物の放つ無差別の暴力は容易に地形を歪めてしまう。
延々のように続く攻撃は、それでも怪物側が十分かと判断した段階で収まる。
視界全てが煙に遮断されたことで聴力頼りとなるが、怪物にとってはそれで十分。
何せこれで終わるなどと砲撃魔は思わない。嘗ての敵と同質の存在であったのなら――――
【Standby. Spade of Gun Blade.】
『やっぱそうだよなぁ!』
撃剣一閃。
機械音声が高らかに生存を語り、直後煙を切り裂きながら別の姿となったメタルヴァンガードが砲撃魔に突撃する。
損傷は無し。右手に握る剣は長く細い。柄には銃機構が取り付けられ、接近戦でも銃撃を可能としている。
その見た目は正に騎士。中世に登場する騎士が赤のマントをはためかせ、ツインアイを赤く輝かせて肉薄した。
砲撃魔は砲を向け、一喜は剣を無造作に振り払う。
二人の得物は火花を散らしながら激突し、両者は先程よりも更に近い距離で睨み合った。




