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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百九十四話】砲撃魔、語る

 目的の街までへの道は徒歩で赴くのであれば半日は必要となる。

 道と道の間には人が飛び越えるには難しい巨大な亀裂が広がり、本来は真っ直ぐ進める場所も今では迂回を必要とされた。

 コンクリートの地面は修理されずに割れたまま放置され、拠点近くの道と変わらずに間から草木を生やし放題となっている。

 あちらこちらには破損したまま放置されている車が風化し、よくよく近くを見れば白い骨を見つけることが出来るだろう。

 各地を走り回るのは人間ではなく動物ばかり。文明崩壊後の世界では動物の天国となり、今では様々な理由で追いやられていた熊や猪が自由を獲得している。

 

 狩猟に身を置いていた人間であれば肉の確保に動く機会になるだろうが、果たしてただの一般人に外の世界を生きていくのは厳しいだろう。

 そんな自然界と呼ぶべき空間に街はある。一喜達が生活する街と比較すると大きく、場所は大都会東京にほど近い。

 マンションが幾つも立ち並び、駅のホームから伸びる線路の数も多い。若者向けの服屋や巨大な家電量販店、総合マーケットであるデパートも立ち、以前までであれば多くの人間が行き交う賑やかな街であった筈だ。


 されど、やはりこの街にも人気は殆ど無い。

 壊れ果て、風化し、寂れてしまった内部は時間が止まって久しく、再度息を吹き返すには多大な労力を求められる。

 水もガスも電力も流れ込まず、此方はより多くの人骨が散見された。

 この街が街としての機能を喪失した日に多数の人間が死亡したのは明らかであり、それを成した存在は今もなお炸裂音と爆発を起こして周囲を練り歩いていた。


『オラオラァ! さっさと姿を見せやがれ!!』


 身の丈が三mを超える巨躯。黒の腰布を巻き、赤熱した肌からは蒸気が立ち昇っている。

 右手には銀色の砲が一つ。背中にも同様の物が一つ存在し、両腕と両足には銀色の三連ロケットランチャーが装着されていた。

 額には鬼の如き一本角。体毛は無く、頭髪すらも無い様子から内部温度は人間の比ではないのだろう。

 怒声を発しながら軽々しく引かれる砲の引き金。放たれる弾頭が目指すのは、何の変哲もないビルの一つだ。

 

 直撃と同時に建物の半分が吹き飛ばされる。

 地響きが街を揺らし、衝撃が更に破壊を進ませた。

 破壊された建物を砲撃魔は暫し眺め、唐突に別方向に砲を向ける。

 碌に狙いも付けずに放たれた弾頭はビルとは正反対の飲食店に当たり、爆音を轟かせて店を八割方破壊した。

 煙が立ち込める中を砲撃魔は歩き、飲食店前で口角を吊り上げる。

 煙によって視界は遮られているが、彼の耳には崩壊する音に混ざる別の物音を捉えた。

 

『解ってるぜ。 お前達がそこに居るのはよぉ』


 先の怒声とは一転、酷く呑気な声が街に響く。

 対する言葉は無く、しかし砲撃魔はそれに気を悪くせずに元飲食店となった瓦礫の山に腕を差し込んだ。

 何かを探すように暫く腕を動かし、そして漸く何かを見つけたのか目を細めて腕を引く。

 強引に引っ張り出されたのは人間だった。まだ幼さの残る男の子が、胴体を掴む手を必死になって自身の腕で叩き、相手の高過ぎる温度で腕を火傷していく。

 

 殴られる側の砲撃魔は子供の攻撃に何の痛痒も感じない。

 子供の足掻きを只々下卑た顔で眺め、子供はやがて服を貫通する程の熱で絶叫を上げ始めた。

 大人ですら耐え切れない熱に子供が耐え切れる道理は無い。どんどんと赤くなっていく肌は子供の生命のリミットを明確に表し、救い出されることなく最後には激痛に意識を喪失した。

 そうなってしまえば、最早砲撃魔には興味は無い。適当に投げ捨て、鈍い音を背に聞きながら次の獲物を求めて飲食店に視線を向ける。

 

 彼には解っていた。捕まえた子供は他の子供よりもまだ身体は太いことを。

 栄養十分とは言わないまでも、まだ一週間か二週間は死なないだろう程度には食べ物を食べていたことを。

 この世界で子供一人で食べて生きていくことは不可能だ。であれば、子供の傍には別の誰かが居る筈だ。

 そして、その相手は子供のことを大事にしている。死んでほしくないと願っている。

 晴れ始めた煙の中に一つの影が生まれた。更に晴れていくと、腕を一本垂らしながら刃毀れの目立つナイフを左手に構える男が居た。

 

『お、立ち向かうのかい? お前さんの大事な大事な子供は死んだってのに?』


「――――ッ」


 男は大人だった。

 砲撃魔の言葉に視線を彼の背後に向け、子供の無惨な有様に顔を歪ませる。

 左腕は振るえていた。それは恐怖であり、絶望であり、そして怒りからだ。

 嚇怒の念を瞳に宿し、男は見上げる程の怪物と視線を交わす。逃げるでもないその様に、砲撃魔は心底楽し気な表情になった。

 

『勝てる道はあるかい。 武器を集める時間くらいはくれてやっていいぞ』


「――どうして」


『ん?』


 砲撃魔にとって、挑まれるのは気分の良いことであったらしい。

 それが逃走に使われるだろうと半ば確信しながらも、眼前の挑戦者に時間をあげた。どんなに無駄になろうとも、何かの切っ掛けが生まれることを信じて。

 しかし、男がその場から離れることはなかった。

 与えられた時間の中でしたことは、砲撃魔への問い掛け。絶望と嚇怒を抱えた目には殺意がありありと溢れ、掴むナイフの柄が軋む。

 

「アンタとあの子の間には何も無かっただろ! ……なんで、あんなに惨いことが出来るんだッ」


 男は砲撃魔を知らない。

 子供は砲撃魔を知らない。

 それが怪物であることは解っても、そもそもの交流すらしたことはない。

 恨まれる謂われは無かった筈だ。子供が無惨に死ぬ理由も無かった筈だ。仮にあったとしても、責任を払うのは大人である自分だろう。

 男が叫んだ拍子、眦から雫が流れ落ちる。どうしてだという疑問に満ちた言葉は、されど答えが欲しくて放ったものではない。

 砲撃魔は男の声を聞き、途端に吊り上がった口を下げていく。

 顔には心底つまらないと書かれていた。今更そんなことを聞くのかと、砲撃魔は言外に男に伝えていた。


『理由なんてただ一つ。 俺がそうしたいからそうするまで、だ』


 砲撃魔が言い放った理由は、怪物であれば当然のものだ。

 自分のしたいことをするのが怪物の信条であれば、赤の他人の尋ねる何故など何の意味も無い。

 それが色を持った存在であれば余計に意味を尋ねる必要もない。

 納得出来ないのならば殺しに来い。法も倫理も関係無く、我を通すなら原始的な方法で解決しよう。

 砲撃魔の基本原理は実に単純明快。男が思わず唖然とするくらいに、鉄の如く硬い芯が彼の中には通っている。

 

『悲鳴は良い。 そいつは俺を恐れている。 死ぬことを怖がっている。 俺がそうする立場に居れることが、心の底から実感出来る』


 つまらない顔のまま、剥き出しの胸筋に手を当てて砲撃魔は男に語った。

 

『前はつまらんルールで殴ることが出来ず、発言一つでやれ罵倒や暴言だとこっちを責める屑共が多かった。 心を折ってやろうなんて思ってもいないのに、簡単に心折れる塵共が俺の上位に居た。 本気を出せば俺の方が上なのに、本気を出すことを皆が止めた』


 ふつふつと話す彼の言葉は恨みに満ちている。

 社会のルール。規範。常識。人が皆当然の如く弁えていなければならないものが、砲撃魔の本気を出させないようにしていた。

 それが嫌で、嫌で嫌で堪らなくて。だからこそ、彼は今を素晴らしく感じている。

 好きなように振る舞える事実。本気を出しても許される環境。――――ああ、なんて凄い世界なんだ!!

 

『今は自由だ、制限が無い。 なら、俺の受けた仕打ちを俺なりのやり方で返したって別に良いだろ?』


 砲撃魔の言葉をそのまま受け取るなら、先の子供への仕打ちはただの復讐に過ぎない。

 例え関係の無い人間であったとしても、砲撃魔が受けた仕打ちの相手は自身にとって赤の他人からだ。

 理由があっての暴力ならば砲撃魔はまだ飲み込めた。復讐されることにも納得出来た。

 だが何の関係も無しに、自分がそうしたいからと鬱憤を晴らせに来るならば。

 自由となった己が同様の真似をしたところで一体どんな文句があるという。


『さぁ武器を獲れ! お前は俺に復讐する理由がある! 殺し合おうじゃねぇか!!』


 獣の雄叫びのように砲撃魔は咆える。高らかに、力強く、そして切実に。

 男は理解不能な怪物を前に、一切の理解を示さずに憎悪の籠った眼差しでナイフを握る。

 一瞬の後には勝負がついてしまいそうな場所で――――一筋の閃光が空から飛来した。

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