【第百九十二話】男達、共同戦線
怪物が近辺に居る。
この事実は異世界側の人間を恐怖と不安の谷に落とすのに十分だった。
即座の恐慌には至らずとも、やはり彼等には天敵そのもの。立ち向かうことすらも愚かとされる存在が出現したとなれば、傍に一喜が居ようとも本能が逃げることを求めてしまう。
オールドベース側は一喜達の表情が強張る姿を見て、安堵の息を内心で漏らす。
人間が怪物になると常識が大幅に崩れ落ちるものだが、彼等には常識を喪失した気配はない。あくまでも人間として怪物を警戒する素振りを見せる様子は、源次達に人間を意識させてくれた。
「数は三。 各々の目的は不明だが、人間が隠れ潜んでいる街で大暴れを繰り返している。 遠くない内に此処まで連中がやってくるだろう」
『特徴は?』
「戦艦、砲撃魔、犬だ。 ……どれもこれも大規模な被害を出せる面子で参るぜ」
提供された情報は、どれも拠点の近くでは戦いたくないと思わせられるものだ。
戦艦も砲撃魔も犬も手段こそ異なるものの、どれもが単発の火力と範囲が高い。
使われているカードは戦艦、砲、自爆犬。どれも一喜が使用しているカード群であり、性能については折り紙付きだ。
この中で自爆犬だけがデメリットを持っているが、暴れることが出来ているのなら恐らくは何らかの方法で克服している可能性が高い。
「オールドベース側は博士と幹部陣との協議の末、大藤・一喜との共同戦線を行うことを決定した。 これに関し、此方で可能な最大限の助力を約束するものとする。 ――まさか戦わないなんて選択肢は無いよな?」
源次は軽い態度で告げるが、実際のところ一喜に断る選択肢は無い。
オールドベースと協力関係を築かないとすれば、今居る面々に多くの不安と不信を抱かせる。
異なる場所で多数の怪物が動いている現状、どうしたとて一喜は拠点から離れる必要があった。必然的に望愛には拠点防衛を担ってもらうこととなり、彼だけで順番に怪物を潰していくことになる。
時間を掛けても構わないのなら一喜は潰せると考えていた。それは自信があるからではなく、相手の性能が全て自身の知るところであるからだ。
スペックが解っていれば必然的に弱点も見える。複数のカードを用いて弱点をカバーすることが出来るメタルヴァンガードとは違い、怪物達のスペックは総じて唯一無二だ。
なので倒すことは不可能だと彼は思わない。
問題なのは、他に行っている間に怪物が拠点を襲撃することだ。
敵達に連携は基本的にはない。同じ人間だとしても、彼等の間に明確な仲間意識は見られなかった。
あるとすれば、それはやはりあの黒い外套に包まれた黒幕が居る時だけ。それ以外では実力による主従関係でもなければ協力の概念は有り得ないと彼は見ている。
『その怪物以外に怪しい人物の姿は?』
「今のところは発見されていない。 クイーンやキングも積極的に動き出していないと此方は見ている。 ま、要するに何時もの活動って訳だ」
オールドベースの目ではトップ層の存在は確認されなかった。
それを全て信じることは不可能だが、指針にすることは出来る。取り敢えずはと彼は首を縦に振り、踵を返して拠点へと歩き始めた。
『拠点に移るぞ。 そちらの詳細な情報は歩きながらでも共有出来る。 今は急いで敵を殲滅するぞ』
「話が早くて助かるぜ。 ――全員、これより移動を開始する!」
応と隊員達から肯定の声が発され、行きとは正反対に数を増やして一喜達は急ぎ足で帰還する。
メタルヴァンガードが先を進むことで拠点前を監視しているメイド達は即座に一喜達の帰還を望愛に報告。望愛と同じ場所で待機していた世良を含めた拠点の代表者達は揃って入り口に向かい、そこに居るオールべースの面々に困惑を強めた。
だが、困惑を抱いたのは望愛達だけではない。
彼女の身に纏うメタルヴァンガードは姿形こそ一喜のと異なれど、その大部分は一切変わらない。
それこそオールべース側の人間が身ても彼女の纏う物がメタルヴァンガードだと解るだけに、特に神崎は驚愕すら感じていた。
『……先輩』
『言いたいことは解っているが、先ずはこっちの話を聞け』
二体の駆動鎧は正にこの拠点の切り札的な存在だ。
嘗てはオールドベースにおける守護神めいた存在でもあっただけに、二体も揃うと漂う威圧感は強い。
流石の源次も二体目のメタルヴァンガードの登場には驚き、同時に額に冷や汗を流してやばいと胸中で呟く。
二体目が居たということは、今後三体目も四体目も出てきかねない。博士の居た世界と似たような世界だった場合、最大でも四機は居ると考えるべきだろう。
四体のメタルヴァンガード。想像すればする程に頼もしく、しかし恐ろしい。
その刃がオールべースに向けられた時、待っているのは確実な絶滅だ。
『――という訳だ。 緊急の為こいつらを入り口側のビルの一室に入れる』
『解りました。 ですが念の為武装解除をお願いします』
出会ってからの出来事を望愛に説明すると、彼女は素早く脳内で処理を済ませてオールドベースの面々に告げる。
要求内容に隊員達は揃って眉を顰めた。表情にありありと不満が宿り、目は自然と隊長であるだろう源次に向けられる。
彼はざっと視線を滑らせ、建物の影に隠れる形で銃口を向けるメイド達を発見した。
何故メイドなのかは最初に一喜達が引き連れて来ていた段階で不思議ではあったが、そこは今言わなくても良いだろうと手を上げる。
「こっちから攻撃する気は無い。 もしも攻撃する馬鹿が出たら容赦無くその隊員は殺してくれ」
『どのように判断するかは此方が決めます』
「……まぁ、そうなるか。 全員武器を落せ。 悪いが回収はしといてくれよ」
こうして彼等は武装の一切を取り上げられ、ビル一階の大広間に通された。
入口にはメイド二名が張り付くことで他の人間の侵入を封じ、更に階段にも数名の人間を付かせる。
机は無いので両勢力は向かい合う形で顔を合わせ、先ずはと源次はジャケットの内ポケットから一枚の折り畳まれた紙を取り出した。
「これが発見された怪物達の具体的な位置と姿を映した写真だ」
差し出された紙を開くと、中には資料らしき文字の羅列と三枚の写真がある。
文字の部分は敵の情報や、各地での活動記録。写真は画質が荒く、内二枚はあまりにも相手の動きが速かった為かブレてしまっている。
とはいえその姿は一喜の知る原作のメタルヴァンガードの敵と違いはない。細かい部分は直で見なければ解らないが、この分であればやり方はあまり変えずに済むだろう。
『OK。 これで存在の証明はされた。 後は実際に現地に赴いて奴等が本当に居るかだ』
「連絡員は今も街の外に居る。 もしも移動してりゃ直ぐに連絡が飛んでくる筈だ。 それにもうじき定期連絡の時間になる。 万が一そこで連絡が来なけりゃ、移動を開始したと見るべきだろうな」
『そうですか。 ……それで、実際に現地に赴くのは誰になりますか?』
突然の情報に周囲は俄かに騒がしくなっているが、まだ怪物自体がそこに居る保証は無い。
メタルヴァンガードを求めてオールドベース側が嵌めてくる可能性も存在し、望愛としてはそちらの可能性の方が高いと見ている。一喜も意見としては望愛と一緒であり、迂闊に全メタルヴァンガードを動かせない理由の一つにもなっていた。
そんな状態であるからこそ、望愛は水を向ける。これがオールドベース側にとってあまり損にはならない情報であるならば、どれほどの手助けを彼等は考えているのかと。
そして、そんな彼女の意図を解らない程源次は阿呆ではない。うーむと顎に手を当て、ちらりと目を神崎に向けた。
「此方としては神崎を含めた小隊一つを動かせる。 そちらはボスだけかい?」




