表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

191/261

【第百九十一話】男と女の価値観

 彼女の怒号混じりの質問に対する答えで場は静まり返った。

 呆気無く、いっそ軽く。彼女の重い想いが込められた言葉は、他の誰かに響きはしても彼には到底届かない。

 それは一重に考え方の違いがあるからだが、そうであると理解していなければ冷たいと取られかねない。

 一喜の態度は実にそのままだ。内心で身構えることはあっても表に出すことはせず、彼女の言葉をくだらないと切って捨てた。

 何故殺さないのか――――殺すだけの理由が存在しないから。

 殺したところでオールドベースの戦力は低下するだけ。折角怪物を倒せるだけのノウハウを持っているのだから、彼等に外のことは任せたい。

 

 拠点はまだ稼働しているとは言い難い。地盤を固める為にも内政に目を向けるのが今は肝要である。

 さりとて、彼との付き合いが深くない神崎には自身の問いを適当に逸らされたと思った。

 そして思ってしまえば、彼女はもう止まらない。似ているようでまったく異なる姿をしている彼へと、猛る勢いをそのままぶつけてしまう。


「殺す理由が無い? ……私はお前を殺そうとしただろう。 殺すには十分な理由だ!」


『いいや、それは違う』


 殺そうとしたから殺される。

 当たり前と言えば当たり前の道理。誰しもが首を縦に振る理由は、しかし未来を見据える彼には適当なモノとはなり得ない。

 

『お前は戦える。 怪物を殺す技術を持っている。 一人では無理だったとしても、バックアップの一つや二つ組織がしてくれるだろう。 折角戦力があるのに削るような真似をして、それでこっちが負けたらどうする』


「こっち?」


『――人類存続。 それを成すのがお前達の目的じゃないのか?』


 純粋に、困惑を滲ませ、彼は尋ねた。

 オールドベースとは、お前達とはそういう組織ではないのかと。まさか私利私欲に走りたがりの似非集団ではないだろうと、彼はそう問いかけているのだ。

 言われ、神崎ははっとした心持になった。別にその思想が心から消えた訳でもないのに、何故か諭されたような気になったのだ。

 人類を守る。オールドベースはその意思でもって集まり、戦う人類の味方だった筈だ。

 断じて個人の私欲を優先して良い組織ではなく、なれば上に立つ者程公私を別けた姿勢が求められる。

 

 今、一喜は公の立場で語っているのだ。

 戦える人間を殺すのは人類の為にならず、生かしても問題無いのであれば生かしたままでいた方が都合が良い。

 一喜にだって守らねばならない者達が居る。神崎が苦しむ人々の為に戦っているように、一喜とて苦しみに喘ぐ誰かを助けているのだ。

 思想とは極端に突き詰めていけばシンプルになる。御大層な装飾を全て外して見せれば、後に残るのは簡単な文言だけだ。

 

『やりたいようにやるだけで世の中が回るなら苦労しない。 時には妥協も必要で、諦めなければならない部分もある。 だが、最後の一線だけは越えちゃいけない。 自分が自分であることを証明する、最後の意志を』


 嘗ての一喜にそこまで強い意志は無かった。青い春を無難に過ごして、それを踏み躙られ、世の中はこうであると見せつけられたことで心を折った。

 魂の抜けたような生活に彩は無かったが、同時に安穏とした日々は過ごせただろう。

 それでも、納得することの出来る日常であったとは彼は思えない。

 諦める時には諦めるべきだとしつつも、諦めたくはないとも心の奥底に存在している。

 納得の終りを目指すことは間違いではないのだと、彼は思いたい。足掻くことが正解だったと彼は認めたい。

  

 故に、この世界でこそ彼は変わりたい。

 夢に向かって翼を広げ、清々しい気持ちで空を飛びたいのだ。

 そうする資格は誰にでもある。なら、自分にだって夢を求める資格はあるだろう。


『お前を殺して、他の人間を殺してオールべースは報復しないと? ……そんな訳がない。 面子を潰されたとして必ず報復に動く』


「それは――」


「間違いじゃねぇな、それは」


 一喜の言葉に否を告げようとする神崎は、革ジャン男の断じる声に遮られた。

 

「こいつはなんだかんだ甘いが、それでも戦える。 ウチも戦力の損耗は可能な限り避けたいからな。 もしも減るようなことが起きれば、何かしらの対策を考えるのは当然だろ?」


「源次、先輩……」


 革ジャン男――源次の言葉は公の言葉のようで、内面には私人としての感情が内在していた。

 

「いいか、今の人間の殆どはクソッタレだ。 騙して殴って殺して犯すのばかりのクソ野郎が幅を利かせていやがる。 屈する側の人間も気持ちの悪い笑みで媚びるばかりでまったく反撃しようとしねぇ。 ……あんなのを人間だなんて、俺は認める気はねぇんだよ」


 深く源次は息を吐く。

 息には嚇怒が混じり、男なりの譲れぬ意志がそこには在った。

 

「いいか、メタルヴァンガード。 俺達が助けるのは人間だ。 家畜じゃねぇ」


『そうしたくてなっている訳ではないとしても?』


「知るか。 死ぬ気になって動けねぇ奴が生きていけるとでも?」


 過激な発言の数々に神崎は目を見開く。

 彼女は初めて源次の本音を聞いたのだろう。烈火に燃える意思に迷いは無く、先の軽い態度とは一変している。

 源次の思想は、言ってしまえば意志の固辞だ。

 己の意志を諦めるな。例え一度屈したとしても、再起を狙って立ち上がってくれ。

 そうでなければ前に進めないから、絶望に沈むだけになってしまうから。

 どうか、諦めないでくれ。その為ならば協力を惜しまない。


 世良は源次の思想に眉を顰める。それは彼女だけではなかったようで、元の世界組の殆どが嫌悪を露にした。

 逆に納得を抱いたのは異世界組だ。実際に動こうとしない連中や害意を振り撒くだけの輩に辟易していたのは事実であり、そんな奴等を助ける必要はないと異世界組は考えている。

 今居る拠点の面々は労働力になっているから許されているに過ぎない。働くことを拒否するようなら容赦無く追い出されると拠点では決められている。

 

 そして一喜は――――マスクの内で何とも言えぬ複雑な表情をしていた。

 彼の考え方については大いに共感出来る。何もしないで媚びを売るだけの連中ならマシな方で、殆どの悪人に従う人間は自分は強要されていると簡単に犯罪を犯す。

 被害を受けている側からすればどちらも同じであるにも関わらず、自分は仕方ないと免罪符を掲げているのだ。

 そんな逃げ道も警察や軍が正常に動いていれば意味も無いのだが、此処ではそれが通用する。

 故に、犯罪を働く人間も結果的に悪事を働く人間も源次は人間とは見做さない。

 

『この男の言いたいことは、つまり彼女は生きるに値する人間であるということだ』


「……」


『その考えを俺は否定しない。 ……この厳しい環境ではそれが正解であるケースも多いからな』


 長々と言葉を交わしたが、彼女に対する答えに含まれた意味はこれで終わりだ。

 未来を見据えて、その人の人間であろうとする意志を手助けする為に。二人の思考は同じとは言えないが、根底にあるのはまったく一緒である。

 人類存続。この四文字が果たされることを願って。

 神崎は何も言わなかった。否、そもそも語るべき言葉が見当たらなかった。

 あるのはただただ衝撃ばかり。自分は見捨てられている側だと思っていたからこそ、現実とのあまりの差異に思考が追い付いてこない。

 そんな彼女の反応を、しかし二人は気にしない。元よりこの場にどうしてオールドベースが居るのかを一喜は気にして姿を現したのだから。


『さて、もういいだろう。 それで何の用で此処に来た?』


「ああ、そういやそうだな。 雑談してると当初の目的を忘れちまってなぁ。 ま、話は単純だ」


 元の軽い調子を取り戻した源次はにこやかな笑みすら浮かべて言葉を重ねる。

 だが、次の瞬間に放たれた内容に拠点側の人間全員が凍り付くことになった。


「この近辺で急に複数の怪物が暴れ始めやがった。 しかも色付きだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ