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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第十九話】その男、酔い痴れる

 一喜はジャケットに腕を突っ込み、そのまま一台の機械を引き出す。

 彼はこれをいの一番に検証した。土曜日から外に出て最初に可能かどうかを確かめ、その全てを彼は突破している。

 それは誰の目にも奇妙な箱だった。一喜の右腕に巻かれた箱型のデバイスはカードの力を引き出すことが可能であるが、これはそのデバイスよりも太く長い。

 長方形の黒い線は脈のように横に流れ、両方の側面にはスリットが入っている。

 これが普通の道具ではないのは明らかだ。世良も十黄も、着装した女でさえも件の道具に視線を集中させている。

 迂闊に動けば何が起きるか解らない。現時点でのスペックでは女の方が先に攻撃出来るが、一喜の覚悟ある顔を見ては成功するビジョンが浮かばない。

 

「後悔はするなよ。 これを使うのは、今回が二回目だ」


 脅しめいた発言をするが、これは彼自身のただの演技である。

 真実二回目ではあるものの、それだけでは少々怖さが薄れて警戒心を煽れない。もう試す以外に道が無いのならば、散々に脅した上で使用して精神的優位を勝ち取った方が幾分か勝率に繋がるだろう。

 殺されてやるつもりはない。かといって、女を殺すつもりは彼にはない。

 これもまた実験。元の世界より変化した道具が、果たして此方の怪物相手に優勢を取り続けることが出来るのか。

 

 本気で睨み、彼はベルトを腰に当てる。

 途端、腕に装着されているデバイスと同様に直ぐにベルトから黒の帯が左を回って反対側の箱の側面と合体した。

 自動で調節でも成されているのか、彼自身に窮屈感は無い。そのまま左の胸ポケットに入っている複数のカードの中から一枚を引き出し前に突き出す。

 カードの種類は――ダイヤ。その絵柄は海上を行く巨大な鉄の船。

 兵器の中でも特に巨大であり、莫大な火力と強靭な装甲を有する戦艦を用いれば即死クラスの攻撃にも耐え切ることは可能だ。

 一喜が何よりも優先するのは生存。メタルヴァンガードに出て来る各戦士達には基本となるフォームが存在するが、彼はそれに拘るつもりはない。


 最も安全に、最も効率的に、最上の結果だけを求める。

 それ故のダイヤの戦艦。battle shipの名前が示す通り、戦いにおいてこれほど対人戦で有利を取れるカードもそうそうない。

 

「――貴方」


 カードを見せた時、女は明瞭に驚きの声を漏らした。

 それはカードの中身にではない。一喜が持ったカードが灰色に染められていなかったことにある。

 コピーではないアドバンスカード。それが使えるのは、この世界では最上位者達だけだ。

 人間よりも、化け物よりも、なお上の最強生物達は総じて色の付いたカードを用いて世界の悲劇を楽しみ続けている。

 その内の一枚。コピーを使っている者達が羨望も込める頂点への切符を、彼はこの場で隠すこともせずに見せ付けた。


 そして、カードを裏返しにして彼はベルトに装填。

 盛大な音楽が鳴る中、全員がベルトから流れ出る文言に意識を向ける。


――Standby. Diamond of Battle ship.


 ベルト表面の黒い線が赤く染まり、エネルギーの帯が周囲へと広がる。

 各帯達は空中で形を変えていき、複数の赤い光を発する艦艇になった。水も無い空の上を悠々と進み、彼の周りでその時を待ちながら畏怖を叩き付けてくる。

 戦争に登場する中でも一際有名な兵器。栄光と悲劇を数多く生産した存在が、今正に一喜の為に力を与える。

 踊れ、踊れ、どこまでも。

 非現実的な光景だった。一喜の目にも、この非現実に慣れているだろう他三人にも、赤き船が泳ぐ姿は現実には見えなかった。

 ならばこの後に起きることも現実的とは言えないだろう。ベルト上部のレバーを左から右に向かって動かし。


「……着装ッ!」


 叫び、瞬間全ての船が彼へと殺到した。


――Japan's future depends on this battle. everyone! do your best.


 文言が続く間に殺到した船は更に形を変えていき、人体を覆う装甲の一部として彼の全身に嵌まっていく。

 嵌まった瞬間に赤い光は消え、鈍色の輝きを持つ重厚な鎧と化した。

 装甲と火力を重視したが故にマッシブな印象を与える姿となり、鋭い緑のツインアイと額から生える刃の如き角が善性だけではない雰囲気を漂わせる。

 

――Mounting! Metal vanguard!


 最後に己の名をベルトが叫び、これにて全ての過程は終了を迎えた。 

 一喜としての姿は消え、生物らしさの感じられないパワードスーツのような見た目へと変貌を遂げる。

 これこそメタルヴァンガード。もっと言えばバトルシップフォームと呼ばれる、物語中でも格上相手に特に使われた姿だ。

 身長はそのまま。各部位は鎧分だけ太くなり、どうにも速さを感じさせない。

 肩には三連の砲が乗り、両腰には三本ずつ魚雷が用意されていた。それ以外では基本的に無手であり、攻撃手段については豊富とは言い難い。

 

『来い、身の程を教えてやる』


 強気の言葉だが、実戦はこれが初めてである。 

 敵と呼ばれる存在と相対し、自身が主役級のメタルヴァンガードになれることが判明した段階で蓋をしていただけでテンションは実は非常に高かった。

 そして致し方ないにしても戦う状況が生まれたのだ。気分は求めた世界に異世界転移して最強の力を手に入れた時と同じである。

 意味の無い、一過性の万能感。それが何の力も持たないのは事実であるが、しかし彼を知らない周りからすればとんでもない。

 夜になろうとしている時刻で彼等は空を照らす赤き船を見た。その船は一喜に無条件で力を貸し、今正に脅威と真向から立ち向かう意思を示している。

 

 世良も十黄も、鋼鉄の背中が大きく感じられた。

 触れれば冷たい筈の金属の塊が、まるで偉大な父親に守られているような安心感を与えたのである。

 恐怖も不安も吹き飛ばされた。一切合切を強引に希望に塗り替えられ、ファーストエイドの影響もあって酷く英雄視してしまう。

 

「ッ、良いでしょう。 その力が本物であることを期待しますわ!」


 女は彼の姿を見掛け倒しだとは判断しなかった。

 そもそもカード自体が頂点への切符としての役割を有しているのだ。複製された格下のコピーカードと比較すれば力の大小に明確な差が生じるのは必然。

 最初から全身全霊。間抜けに力を抜かず、最大限の出力を引き出して相手を打倒する。

 言葉と同時に腕は動き、背後に生えた無数の銃が蠢き出した。

 両腕に生まれた赤銅の銃から当たれば人体を容易く引き千切る弾丸がマシンガンが如くに吐き出され、一度のブレも狙いも狂わさずに相手に殺到する。

 更に蠢く背部の銃は自身から蠍の尾のように弧を描いて一喜に銃口を向け、やはり一斉に弾を連射した。

 無数の弾丸は壁を破壊し、分厚い鉄の装甲すらも貫通させ、最終的にはビルのような建物から避難向けの対策済み施設まで完全に倒壊させるのだ。

 

 一分も必要とせずに数千の弾丸が彼に迫るが、彼自身は動かない。

 その理由は明瞭で、彼の背後には世良と十黄が居るからだ。ここで回避を選択すれば避け切れるであろうが、同時に二人は肉塊に成り果てる。

 二人もそれは解った。解った上で、けれど相手の背部から伸びている銃の所為で迂闊に動けない。

 ポシビリーズである彼等は基本的に他者を殺すことに躊躇がない。

 より正確に言うならば殺すことは前提として、そこに常識的な罪悪は抱かないのだ。

 大切なのは自分であって、見知らぬ誰かではない。そこだけを聞けば当たり前のことを言っているようで、邪魔となれば注意の前に先ず殺す感性を彼等は有している。


 着弾する音はとても弾丸が何かに当たったものとは思えなかった。

 さながら砲弾が地面を吹き飛ばした音と表現すべきだろうか。轟音が一喜達の耳を支配し、煙が立ち込めて姿を隠す。

 女は銃口を降ろさない。相手の弱点を突いた攻撃であるとはいえ、彼が使用したアドバンスカードは普通ではないものだ。

 よって彼はまだ生きている。最早砲とも言うべき銃がゆっくりと背後から前に伸びていき、その場でチャージを始めた。

 必殺の内の必殺。如何に重装甲相手でも貫通させてみせると抜けていく体力を無視し、彼女は勝利を求め――――その耳に突然別の方向からの何かの発射音が聞こえた。


 咄嗟にその場を離れる。

 次の瞬間には化け物となった彼女でも鼓膜が破れてしまいかねない程の爆音と、複数の建物が一斉に吹き飛ばされる光景が広がった。

 唖然とする女は次に足音を捉え、顔をゆっくりと音の先に向ける。

 立ち込める煙から姿を現したのは、装甲の一部も傷の入っていない無傷状態の一喜の姿だった。


「――どうした、その程度で終いじゃないだろ?」

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