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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百八十六話】その男、次の獲物を知る

 報告を聞きながら歩いていくと、子供の楽し気な声が耳に届き始めた。

 視界にも彼等の姿が映り、無邪気な相貌に一喜の頬が緩む。最初に出会った子供達は皆不安と困窮に苦しみ、誰かと遊ぶことも碌にしていなかった。

 服一つでも破れ放題になるまで着続けて、肉体に瑞々しさは皆無であったと言えよう。

 今でもそれが完全に改善されたとは言えない。食料供給を現地で行えず、周囲には依然として怪物や無法者が跋扈していて、それら全てを掃うにはどうしても戦力が不足していた。

 されど、子供達には笑みがある。

 見つけてきた服を川で洗濯して可能な限り清潔さを保ち、継続的に食事を与えることで痩せた身体に肉を齎した。

 魚街の人間の協力と合わせて自治を進めたことで大きな事件に発展する気配は今のところは無い。


 住む場所も用意され、雨風に晒されない身体には熱が灯った。

 仕事も多くあるが、そんなことは生きていく上で当然である。遊んで生きていくなんて真似は今の時代では有り得ない。

 キャンプに居た頃よりも、この世界の人間の身体には活力が漲っている。

 まだまだ完全な健康体とは程遠いものの、長く続ければ嘗ての頃にまで戻ることは難しくないと一喜は考えていた。

 人々は一喜の姿を捉えると、合図も無しに一斉に祈り始める。老人に近ければ近い程に祈りの深度は高く、若ければ若い程に祈りには信仰ではなく感謝が含まれていた。

 勿論、信仰心も感謝も無い形だけの祈りはある。それを指摘すれば周りの人間が排斥に動くことも解っていて、彼は無視の形で祈る者達の間を抜けていった。


 居住地の中でも巨大なビルの中に彼等は入り、階段で登っていく。

 四階建ての高層とは呼べないまでも大きな建物の中には人は住んでおらず、ただっぴろい空間ばかりがそこに存在するばかり。

 本来であれば此処も居住地とするべきであるが、壁としての役割も持つ建物の中で最も内側のビルを敢えて残したのは理由がある。

 一喜達元の世界の住人にとって、最も大事なのはあの安アパートだ。あそこが壊れれば帰還することも出来ず、逆に元の世界から異世界に赴くことも出来ない。

 建物の周りには既にメイドによる厳重な監視網が敷かれ、迂闊に接近する者は子供も老人も例外なく追い返した。


 中には好奇心で暴こうとする者も出てきたが、そういった者達には銃をちらつかせることで退散させてある。

 アパートは大事な施設だ。故に、アパートで会議をしようなんて真似は最初の内から当然外されていた。

 その代わりとしてビルのどれかを使うことを決め、安全の面から壁の中でも最も内側の部分を完全に占拠したのである。

 四階にまで登ると、そこには隔てる壁の無い広大な一室が広がっていた。

 紺色の硬い絨毯の上にはこれまた巨大な楕円形の机が置かれ、椅子もパイプではなく革張りの高級な物だ。流石に同一製品で揃えることは出来なかったが、無事な高級椅子を見つけ出すのは存外大変だっただろう。


「お、来たな」


 十の椅子の内、一席を占有している者が居る。

 身体を背凭れに預けてふんぞり返るような姿勢の世良は、一喜達の登場にふふんと自慢気な顔を浮かべた。


「……存外デカくなったな」


「誰が来るか解らないからな。 間の壁も全部取っ払って、見た目の整備は全部蜘蛛に任せた。 代わりに絨毯とかは人を入れて一気に終わらせたぞ。 一応はプロジェクターを映すスクリーンも用意したが、自動じゃないことは理解してくれ」


「解ってるさ、綺麗な体裁を整えることが出来るなら文句は無い」


 光を取り入れるガラス窓には分厚い遮光カーテンが取り付けられ、四隅には植物が飾られている。一般的には観葉植物の類かと思うが、しかしこの世界で鑑賞だけを目的とした植物が残っているかは疑問だ。普通の植物だった場合、虫が湧かないことを祈るばかりである。

 さっと周りを見渡し、彼は手近にある椅子に座り込んだ。

 深く入る柔らかな感触の椅子は中古品とは思えず、身を預けると優しく包み込む。

 彼の家にある椅子とは明らかに格が違う一品だ。元の値段ではどれほどだったのかを想像することも今では出来ないが、そういった品々がタダ同然で手に入る現状は正しく商人であれば垂涎ものだ。


「そういえば十黄はどうした?」


「あー、あいつは今輸送隊の指揮を執ってる。 ついでに瑞葉や立道も連れてって、ゆくゆくは二人をリーダーにする予定」


「そう、か。 キャンプの奴等は言う事を聞いているか?」


「表立っては。 でも裏じゃ色々やろうとしているみたいでねぇ……」


 本格的な話に移る前の世間話で世良は憂鬱そうに溜息を零した。

 その表情からは問題の気配しかなく、やはりいきなり多くを吸収した弊害が発生したのだろうと思わされる。

 実際、一喜達の想像通りに問題はあった。

 多くのキャンプ地の人間は一喜達に感謝しているが、悪に身を浸すことを是とした人間はこの拠点を利用しようとしている。

 具体的に言えば、徒党を組んでの資源の占有。

 この場合の資源とは食料や人間ではなく、これまで目を向けられることがなくなっていた物達のことだ。


 今後、此処を一つの街としていくのであれば無視していた家具や道具が陽の目を見ることになる。

 今はまだ一喜や望愛が事前に集めていた分や他の者達が集めていた物で大丈夫だが、時間と共に人が増えていけば不足していくだろう。

 最初の段階で物を集めて隠し、欲しくなった段階で一喜達の勢力に顔を出して有償で提供する。

 有償の内容は純粋や食料や水であったり、何かしらの非倫理的行為への協力。もしも拠点を維持する上で必要な有力者と繋がりを持てたなら、そこを利用して他者よりも多くの旨味を吸っていく。


 雌伏の時を経て、何れ自身は権力の椅子を獲得する。

 裏であれこれと蠢く者の最終目標はコレだ。未だ始まったばかりとはいえ、それが実際に形となっては厄介な勢力となる。

 

「奴等が悪事を働いていた証拠は?」


「犬や蜻蛉が画像なり映像なりを確保してあるよ。 でもさぁ、どう見ても動いているのは木端ばかりなんだ。 幹部っていうか黒幕の姿がない」


「――――成程」


 一喜は深く、大きく、息を吐いた。

 それだけで周りの全ての人間が身を硬める。こういった反応をする時、大体の場合では爆発を起こすのが彼だ。

 特に黒幕自身が動かずに周りを動かすなんて行為は、一喜の地雷である。踏み抜いてはならぬ爆発物を踏み抜けば最後、どういった形で被害が発生するのかは想像出来ない。

 故に、最悪の未来を先ず全員が脳裏に浮かべた。

 皆殺し、処刑、キャンプ地への追放。それを実際にしたとして、起きる手間は如何程になるというのか。

 ただ殺すだけなら別段大した問題にはならない。所詮、この世界の人間の価値は底辺まで落ちているのだから。

 

 悪人が死んだとて悲しむ人間が何処に居る。

 仮に居たとして、では悪人のやった事を仕方無いと納得することが出来るのか。

 否だ。このシビアな世界では一人の身勝手を許せる程に寛容ではない。互いに協力していかなければ怪物を世の中から排斥することも不可能になってしまう。

 その上で問題は何かと言われれば、問題の無かった者達を必要以上に委縮させてしまうことだ。

 如何に普通にしていれば何もしないと謳ったとて、一度残虐な手段を取ればその為政者は恐ろしい人物だと認識される。


 信仰が恐怖に変わり、彼等はまた奴隷根性で作業に入ってしまうのだ。

 これを避ける為には厳正な裁きを下すことがあるも、裁判所の類がこの世界に無いのは確認出来ている。

 個人の裁量によって裁かれるのは私刑と変わらない。であるならば、理性的な対応は脅迫に留まるだろう。

 それを一喜が選ぶかと問われれば、難しいとしか言えない。

 仕方ない部分があれば許しを与えるのが彼であれど、純度百%の悪意に対しては過激な行為に移る。悪意は最優先に滅し、その芽すら残して堪るものかと殲滅し尽くすのだ。


「世良。 そいつらを一度集めろ」


「集める? まさか一網打尽にするってつもりじゃ……」


「ああ、違う違う」


 一喜の声は低い。

 淡々とした口調には怖気が走る。恐々とした内心を隠すように言葉を返す世良に、しかし一喜は冷笑しながらも否を口にした。

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