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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百八十五話】その男、成長に困る

 最近のアパートにはトラックがよく姿を見せる。

 宅配便を運ぶトラックではなく、ましてや一喜と縁のあるトラックでもない。

 現れているのは引っ越し向けのトラックだ。青い制服に身を包んだ男達が声を上げながら家具や段ボールをトラック内に運び込み、数時間後に姿を消している。

 それに合わせて幾つかの荷物を抱えたアパートの住人もスーツ姿の人間と一緒に何処かへ行ってしまった。

 急速に人気の消失したアパートは静寂そのもの。今はまだ全員とはいかないまでも、そう遠くない内に一喜と望愛だけが居住している形となるだろう。

 どうしてこんなことが起きているのかなど、一喜には解り切っている。

 

 綱吉が動き、土地やアパートを元々の保持者から譲渡してもらったのだ。今はまだ手続きが終わっていないであろうが、事前にアパートを保有していた人物が退去に動いたことで皆が引っ越しを始めている。

 であれば一喜と望愛にも引っ越しの要請がされる筈であるも、それは未だ来ていない。

 綱吉が裏で手を回しているのは明らかだ。どのような理由で納得させたのかは不明であるものの、出来たということは成功したのだろう。

 空白となった室内にはメイド達が住むのか、或いはアパートの築年数を鑑みて改築を始める可能性がある。さてそうなると、自然と一喜達が住むことは不可能だ。


 であれば、被せる形での増築が一番可能性としては高い。

 アパートを核として別の建物を作る。出来るのかどうかは定かではないが、工事をしつつ異世界へ行くのであればこれくらいはしなければなるまい。

 追加の居住エリアに倉庫、何なら綱吉が秘密裏の活動に用いる拠点にまで変えてしまいかねない。

 そうなった時、必然的に一喜は綱吉に出会う回数が跳ね上がることを指し――そうなってはくれるなと憂鬱に溜息を零した。


 そして週末を迎え、夜になった時分。

 最早集まる面々は慣れたもので、今更不安気な顔を見せもしない。澄ました表情でコンテナや肩に袋を持ち、皆が一斉に扉を抜けて異世界に突入する。

 外で待機していた異世界側のメイド達に荷物を渡していき、現地からやってきたメイド達は何度も元の世界と往復を繰り返してコンテナを運び込む。

 一喜や望愛はそれを見るだけ。この役目はメイド達のものであり、命令を聞くだけの兵士が行う単純作業だ。

 

「俺が一気に持っていった方が早い気がするが……」


「それは止めてください」


 メイド達に特別な情は無いとはいえ、肉体労働の辛さを一喜は知っている。

 故に少々の同情が胸に浮かぶが、彼の言葉を沢田は切り捨てた。


「メタルヴァンガードは確かに労働力の面で有益ですが役目が違います。 兵器は兵器として存在すべきであり、彼女達には兵士以外の役目があるのです」


「……そうだな、無駄な気遣いだった」


「ええ、無駄です。 特に貴方に気遣われるのは彼女達にとって良くはないでしょう」


 沢田はメイド達が訓練の強度を高めていることを知っている。

 常に命のやり取りが発生する異世界において、元の世界での鍛え方では不足が過ぎた。

 危険地帯に出向くのであれば相応の備えを。そこに我等が姫が居るのであれば、相応以上の備えを。

 傍に気に食わない男が居るのであれば、殊更に弱気な様など見せたくない。

 彼女達と一喜の間に横たわる溝は変わらぬままだ。揃って埋める気が無い以上、溝は溝のまま放置される。――――ならば、一喜がすべきなのは効率的な上司としての姿だ。


「ならこのまま行くぞ。 拠点の状況も知りたい」


「駐留組に話を聞きましょう。 世良様達の所感も合わせて認識の擦り合わせを」


「作業中のメイドを一人持って行きますか。 ――誰か」


「はッ」


 望愛の言葉に金髪を腰まで伸ばしたメイドが答える。

 残留していながらも輝かしい髪は一切の質を落とさず、異世界で気を遣っているのが一喜の目に残った。

 碧眼の瞳が彼を捉え、愛想笑いを薄っすら浮かべる。

 巨大な胸と合わせ、なんだか小悪魔のような印象を覚える人物は――しかし男に興味を持っている訳ではないのだ。

 彼女の碧眼に好色は無い。一喜に向ける笑みも業務上のものに留まり、どうしたとてそれ以上にはならない。

 

 これが海千山千の相手であればメイドももっと隠す。相手に不快な感情を抱かせないのはメイドとして当然である。

 一喜の前では隠さないのは、メイドとして彼に接する気は無いからだ。命令されれば聞きはするものの、何でもかんでも盲目的に従うつもりはない。

 それが否であれば否と口にする。彼の不快ゲージをどれだけ上昇させてもだ。

 

「……」


「先ず拠点の状態ですが……」


 金髪のメイドは望愛と沢田だけに視線を向け、明るく丁寧に詳細を語る。

 一先ず拠点は良好なままに留められていた。一喜達の姿が見えなくなったことに不安がる人間も居たが、そんな不安を吹き飛ばす為に世良と十黄は率先して次の仕事を進めていったのである。

 新たな食料源の確保に、飲料水を含めた安全な水の確保。

 一喜達が居ない間に世良は動き、同時に魚街を仕切る宗谷も動くことになった。

 驚愕なのはその速度だ。決めたとなれば迅速にとばかりに世良は十黄と魚街から派遣された人間数名を引き連れて宗谷の下に向かい、準備をしようと話をしていた彼の表情を驚嘆に染めた。

 

 水の確保については既に一喜の口から聞かされている。宗谷が準備をしていたと口にすれば、世良は口を吊り上げてやるぞと告げたのである。

 勿論、いきなりやろうとして大量の水が用意出来る訳ではない。魚街の人間だけを最低限潤わせることは出来るものの、他の場所ともなれば多くの人と物を動かさねばならない。

 それが出来たとして、彼等のやり方は蒸発した水を集める方法だ。

 川水の入った容器の上にビニールシートなりラップなりを広げ、蒸発した水がそこに集まるように仕向ける。

 シートはピンと張ることはしない。容器に入るよう逆三角の形で張り、シートと入れ物の間に蒸発した水を集める別の容器をセットして海水と別ける。


 これで水が集まる。

 天候の悪化が無ければ水は順調に集まっていくが、しかし現在の範囲ではどうしても不足が多い。

 場所を増やし、容器の数を増やし、更には時間管理も求められる。その全てを行う手筈を整える段階で世良が接触したのだからいきなり上手く回る筈もないだろう。


「まぁ、そんなことは世良も当然承知しているだろうが」


 メイドの報告を聞き、小さく一喜は言葉を零す。

 世良は目の前のことだけを考える頭を捨てた。未来を見据えて動ける女へと成長中であり、今回のこの接触は顔繋ぎと印象操作を兼ねたものだと彼は考える。

 以前の出会いでは一喜の印象が強過ぎたことで世良への印象は薄かった。傍に居たことで程度の低い役職の人間ではないだろうとまでは認識していた筈だが、一喜に変わって業務を行う程の人間ではないと決め付けていただろう。

 だが、それも今回の件で変えざるを得なくなった。彼女が真に業務を任せられた存在か否かは派遣された魚街の人間が証明してくれるし、今の世良には無理に気を強くしている気配もない。

 

 慣れぬ業務へのプレッシャーはあるだろうが、状況がより良い方向に向くことを確かに認識すれば腹を括った顔を浮かべることも出来る。

 それが集団の纏め役として的確なのは事実だ。優柔不断な態度でいられる己を厳しく叱咤出来るなら、今後も彼女の成長は止まらない。


「此方に戻ってからの世良様は意気軒昂とばかりに住民に指示を下し始めました。 ……いえ、あれには愉悦の部分も含まれていたかもしれません」


「愉悦?」


 望愛は疑問に首を傾げるが、一喜はああと納得の表情を浮かべた。

 自身に出来ることを模索して纏め役になるのであれば、どうしたって過去に自身を虐げてきた相手も従えることが出来る。

 格上のように感じていた相手が格下になったとなれば、それはそれは暗い悦も覚えるものだろう。

 成長することは悪いことではない。しかし、と一喜は納得の顔の後に困ったように頬を指で掻いた。

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