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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百八十二話】男達、未来を一粒

「水の話ぃ?」


 汗も滴る良い男となった宗谷と共に入った家は、然程時間が経過していないこともあって大した違いはない。

 あるとすれば、室内に筋トレグッズが増えたことだろう。どれもこれも万全な状態とは言い難い損傷が目立つも、使用者本人は毛程にも気にした様子は無い。

 中には護衛の一人も居なかった。要人の傍には誰かしらの護衛を置くものであるが、一喜同様に傍に人が居ることを望んでいないのは明らかだ。

 そんな場所で、宗谷を含めた全員は立ったまま話をしていた。

 内容はこれまでの流れと、今後の予定。予定外の吸収が行われたことで増やさねばならぬ人員は多く、しかも求められる人材を吸収した者の中で選別することは出来ない。

 

 訳を知った上で活動することが出来る人材。それを求めた時に思い付くのは魚街であり、同時に彼等のように体力を持て余してしまう存在に適当な仕事も一喜は用意していた。

 この世界になってからは当然であるが、食料以外にも水不足にも陥っている。

 特に人々が飲む飲料水が不足しがちであり、彼等は川の水を掬って煮沸消毒を行い飲料水を確保していた。

 一人分の一日の水を確保するのは実際はそんなに難しくは無い。そも水がある場所を把握しているのだから、後は雨水を溜めて使えば問題らしい問題は起きないだろう。

 

「そうだ。 今後、人はますます増えていくことになる。 そうなれば必然、個々人が一斉に水を用意することにもなる筈だ。 そうなった時、起きる問題はなんだ?」


「……密集地特有なら、単純に強盗と火災だな。 沸騰させるには火を起こすしか方法がねぇし、水を多く確保したら足りなかった連中が奪いに来る」


 一喜の質問に宗谷がぱっと思い付くのはこの二つだ。

 密集した人々が自身の取り分だけを求めて一斉に火を付ければ、火災事故に発展する可能性は大いに高まる。それに加え、未だ暴力を極限まで制限していない状況では水を求めた強盗行為を起こす輩は必ず発生するだろう。

 後者の側は密集していない場所でも起きる問題であるが、今後警備役を担う魚街の人間がそれを一々止めるのは大変だ。

 火災もセットで起こされれば犯人の捕縛より先に鎮火を優先せねばならない。

 想像するだけに厄介な風景が脳裏に浮かび、宗谷の顔は解り易く渋くなった。

 

「一ヶ所に居ることで疎らに汲んでいた流れも集団になるだろう。 そうなったら彼等の護衛をするのはお前達だ。 この近辺が絶対に安全とは言えない以上、数を多く割いて毎日行動しなければならなくなる」


「……そうなったら魚を獲る時間も人手も減るな」


 一喜からの更なる問題を受け、宗谷は直ぐに他の問題を思い付く。

 思考の展開速度に一喜は満足気に頷いた。こうでなければ進む話も遅くなり、一喜側の人間は何度も説明をしなければならなくなる。

 理性的であることはこれからの社会で必須だ。故に、渋面を濃くしていく宗谷の表情に一喜は首肯を示した。

 

「はぁ……俺達に魚を獲らせつつ、水も作れってことか? そいつはちと人手が足りないぞ」


「安心しろ、それは解っている」


 宗谷が語る通り、一喜が望む作業はこれで三つになった。

 魚の確保に、水の生産、そして街の警備。全てを熟すには人が足りず、そもそも個人の才覚には向き不向きがあることを忘れてはならない。

 片寄りが生まれるのであれば、そこを加味した上で調整するのも宗谷の仕事だ。

 全てを含めて宗谷が脳内で予測した結果は人手不足。この魚街には確かに暇な人間が居るものの、それを全部投入したとして巨大化していく街をカバー出来るとは思えない。

 彼の指摘に一喜は勿論と首を縦に振った。このまま強引に無理を強いるようであれば、それこそ一喜の嫌うブラック会社と大差ない。

 

「この三つをする過程で一番の問題は運送だ。 生産をするだけなら現地に居る人間でも十分に出来る。 そうだろう?」


「まぁ、物を用意するだけならな」


「大量の荷物を運ぶのはキャンプに居た奴等にやってもらう。 監視も現地に残るウチの人間がやればいい。 ――糸口、構わないな?」


「ええ、勿論です」


 二人の会話に、そこで初めて望愛の声が入った。

 鈴の転がる綺麗な声は、宗谷が聞いたこともないような品を備えている。

 視線を一度彼女に向け、そのまま宗谷は逸らした。彼女は二人の会話になるべく口を挟まないようにしているが、目だけは仕事をしている。

 宗谷が使える人間なのか否か。一喜の理想を叶える手伝いが出来るかどうか。

 望愛は見て、宗谷は見られていることを悟った。同時に、これは碌な人間ではないだろうと当たりを付けて。

 侍るメイド達は何も言わない。望愛の言葉を全て決定事項として首肯するのみ。

 この完全な主従関係はただの利害関係だけで結ばされてはいないだろう。

 美しい姿に魅了されたら終わりだ。溺れれば最後、血の一滴まで絞り取られて捨てられるのは目に見えている。


「んじゃ、入り口に全部用意しておけばいいな。 一応適当な民家に放り込んでおくから、そこから持っていってくれや」


「ああ、感謝する」


「感謝よりも別のモンが欲しいな?」


 宗谷は真面目な顔を突如としてニヤけ面に変える。

 指で金のハンドサインを作って振る仕草は一種の挑発めいているが、望愛も一喜も誰も不快にならない。

 仕事を増やしたのだ。それに等しい対価がなければ動く筈もない。

 少ない量でも駄目だ。杜撰な仕事をされては此方にも支障が出る。

 出来るかと隣に居る望愛に一喜は視線を向けた。彼等が望む物が何であるかを知っている以上、それを用意するのは彼には出来ない。

 望愛は微笑みで維持していた顔を更に深める。一歩前に出て、再度彼女と宗谷は視線を交わした。


「一喜先輩の後輩の糸口・望愛と言います。 この人の手伝いをしていますので、もしも先輩がいらっしゃらない場合は私に相談してください」


「……先輩後輩ってことは、あんたも?」


「ええ。 周りのメイド達も含めて全員」


 それは、と彼は顎を擦った。

 異世界人。彼等はこの世界の人間と同様の感情と常識を有しているものだが、身形が薄汚れていないのが最大の特徴だ。

 彼等の世界は恐らく今は平和で、ある程度の余力を有している。少なくとも怪物が跋扈することが許される世の中ではないのは間違いない。

 そうでなければこんな援助をしてくれはしないだろう。一喜達の様子から焦りも感じない今、多少要求したところで拒絶されはしない筈だ。

 

「援助の内容は成果次第。 何分、此方は皆様方の質を知らないのですので。 拠点の人間が満足する程の量を確保出来たのであれば、その月の分はしましょう」


「それはそれは……随分現実的だな?」


 望愛の提案に宗谷は口角を吊り上げた。

 彼女の案は実に現実的で、同時に成果主義であることを隠しもしない。

 欲しいのならば結果を出せ。出した結果に満足したのなら、此方も相応の礼を差し上げよう。

 露骨な発言であるものの、これは魚街の基礎能力が掴めていないからだ。

 情報を探る時間が無いのであれば、直接的に確かめた方が精度が高い。サボれば与える量は減り、努力すれば此方が望むよりも多くを手にすることが出来る。

 彼女の吐き出せる限界量が解れば仕事の量を変化させることが出来るが、今は魚街の価値を彼女に知らしめる為に働かせる方が良い。


「OK。 取り敢えず今月はもう終わりだから、来月の結果で基準を作ろう。 人間、基準がなきゃ限界が解らんからな」


「ええ、解りました。 ご期待しておりますので、どうぞお願い致しますね?」


 二人は共に笑顔で握手を交わす。

 にこやかな表情の裏側では算盤の弾く音だけが響いていた。

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