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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百八十話】異世界二人、動き出す

 やる気のある者が集まり、今後を見据えた計画を立てられる者が揃うとして。

 その場が静かなままでいられると想像する人間は殆ど居ないだろう。

 大声が、物音が拠点を支配し、今正に一喜の居る拠点は始発を迎えていた。

 一喜達が居られる日数は既に一日も無い。指示を下すことは出来ても様子を見続けることは難しく、故に早急に監視を含めた体制を構築しなければならなかった。

 しかし、これ自体には何の問題も無い。キャンプ地に嘗て住んでいた人間の気持ちを汲むことが出来るのは、同じキャンプ地の人間だ。

 そこから逃げ出して自身の居場所を作った世良が監督役として責任を背負うのも当然の流れだろう。

 元から決めていたことでもあり、現場の責任者として一喜と望愛は多くの人間が見ている前で世良に任命を下した。


 今の住民は揃って一喜達に信仰心めいたものを抱いている。そんな人物から直々に任命されたとなれば、如何に自身より年下であっても従うことに否は無い。

 荒くれ集団にとっては歯噛みしたくなるような話だが、生きていきたいのならば従わなければならなかった。

 とはいえ、これまで悪事に手を出していたような者には解っている。

 かの少女は堂々たる態度で命令を下せる立場になったが、彼女自身に明確に此方を凌駕する武器がある訳ではない。

 精々が銃であるも、それとて弾数の制限からは逃れられないのは自明の理。長期戦を想定すれば世良を下すことは簡単――と、数時間前までは考えていた。


 そんなことを一喜達が想定しない筈がないと、どうして彼等は思えなかったのだろうか。

 今正に、拠点にて数々の指示を下す世良の両腰には二丁の拳銃サイズの銃がぶら下げられている。明らかに現実的な武器のラインから外れた色合いと見た目の銃は、当然ながら中身も大概にぶっ壊れている。

 メタルヴァンガードにて登場する武器の一つ。オールドベースの隊員が使用するサブウェポンに相当するこの武器は、殺傷力といった面でいえば一喜が知る中でも作中最弱である。

 その武器で怪物を倒すことは出来ず、作中においても出来たのは敵の注意を引き付けることや崩壊した瓦礫などを破壊して救助者を助けることくらい。


 公式から販売されたなりきりアイテム以上の価値は一喜には無く、しかしそれは一喜以外にとっては大きな価値がある武器だ。

 メタルヴァンガードの性能を知っている身からすれば弱くとも、その銃から吐き出される弾丸一発で巨大な瓦礫を粉砕することが出来る。

 それもこれはデフォルトであり、元が玩具であったことで残弾を気にする必要が無い。

 弾丸そのものがエネルギー体となっているこの銃は、リロードをボタン一つで可能とする破格の装填性能を有していた。

 ここに付属品のスコープを取り付ければ、ハンドガンサイズで中距離戦まで行えてしまう。

 

「……これ、使う日が来ると思うか?」


 周りを気にしながらも腰に視線を向けた世良は、隣に立つ副官となった十黄に呆れを含んだ言葉を放つ。

 その言葉を聞いた十黄は苦笑し、左右に首を振った。


「俺の方で馬鹿な奴等には威力を見せた。 お蔭で従順になったから、このまま此処に居る限りなら使う必要は無いんじゃないか?」


「やっぱそうだよなぁ。 相変わらずなんて武器を寄越すんだ、あいつは」


「流石の異世界人。 俺達のスケールとは大違い過ぎるな」


 解っていたことであるが、一喜から齎される全てがこの世界の基準を大きく凌駕している。

 今も蜘蛛型の機械が外の建物を直し続け、蜻蛉型と犬型の機械が自動で監視と迎撃をしてくれていた。

 鳴子めいた警戒網を作る必要すらない。不自然な情報は全て世良の傍に居る一匹の犬が教えてくれるのだから、彼女にとっては楽でしかなかった。

 

「魚街の連中はどうしてる?」


「率先して街に繰り出した連中の手伝いと監視に動いてる。 喧嘩や犯罪が起きれば即座に取り押さえ、糸口・望愛が作成した現時点の法に則って裁かれることになる」


 一喜達が居なくなった後でも彼等の生活は続く。

 将来を見据えて拠点の治安を上げていこうとするならば、法による縛りは確実に必要だ。

 一喜であれば定める法を単純にしたが、それでは穴が出来るだろうと望愛が作成して彼と沢田はそれを了承した。

 勿論、これは現時点での簡単なものだ。僅かな時間で作れるものとなれば、常識的な部分が多くを占めるものになってしまう。

 殺人、誘拐、詐欺、窃盗。嘗てを生きていた大人達であればよく知っている法を持ち出し、今はそれを少し弄って使用している。

 これからは世紀末ではないのだから、法と倫理を守った人間らしい生活をするのだと女神から宣言され、彼等は揃って頷いた。


 もしも犯罪行為を働いた場合、魚を獲っていた場所で生活をしていた者達が捕縛した上で刑を下すこととなる。

 数は未だ少ないが、獰猛に笑う甲斐の姿に人々は猟犬の姿を想像することを止められなかったという。

 ちなみに魚街と名付けられたの暫定的な処置だ。後に宗谷と一喜によって正式な名前が決まれば今後はそちらを使っていくことになる。

 

 世良と十黄が居る広場には喧嘩の気配は無い。

 場所として広いお蔭で子供達がボールを用いて遊び、子供を産んだ主婦達は生存戦略の為か独自のネットワークの構築を進めている。

 一喜達の時代であれば一人で生きれる環境を用意出来るが、此方では協力し合わなければとてもではないが生活することは出来ない。

 腐っていた時分ではそれすらも無理の範疇であった。されど、最低限の保証が与えられた今であれば人は人としての生活を取り戻すことが出来る。ゆっくりとではあるが。

 

「こいつらを私は今後率いる側になるんだよな……」


 人としての歩みが始まった風景を世良は眩しく見る。

 一年前の自分では想像することすらなかった世界は、今正に此処に顕現していた。これからはその世界で世良は守る側として立ち、多くの困難と向き合うことになる。

 苦しくはあるだろう。人である時点で命令を素直に聞いてくれるとは限らないのに、常識を忘れてしまった者の方が多いのだから。

 如何に法で縛ろうとも悪事を成す者は現れる。そして、見逃すことが多ければ自然と世良に対して厳しい目を周囲の者は向けるだろう。

 行動一つすらも気楽ではいられなくなるのだ。彼女の振舞いが、そのまま一喜達への評価にも繋がるのである。


「世良、何時でも俺を頼れよ」


 責任の重圧を感じる世良に十黄はそっと声を掛ける。

 彼女の目が十黄を捉え、彼の緩やかな笑みが視界に収まった。


「彼程の活躍は出来ないかもしれないが、それでも俺はお前の副官だ。 存分に頼ってくれ、何でもしてやるから」


「……そうだな」


 この世界で最も長く傍に居た同年代の異性は十黄だけだ。

 昔からの馴染でもあり、何時如何なる時でも彼女を裏切ることをしなかった。

 一喜達を除けば、彼女が一番に信頼出来るのが彼であるのは言うまでもない。であればこそ、世良もまた責任を全て一人で背負う必要も無い。

 十黄がそうしたように、世良もそっと口角を緩めた。

 二人が定めた未来は嘗てよりも壁が生まれ、同時に希望も生まれた。擦り切れてしまうばかりの日常に穏やかな太陽が光を齎し、彼等を照らして包み込む。

 忘れてはならない。この一瞬を。

 忘れてはならない。この恩を。

 踏み出すことを奇跡に感じ、二人は揃って定めた道を歩む。


「そんじゃ、魚街の連中と話をしに行くか」


「ああ、確か真水を作る話だったか。 彼等は納得してくれるか?」


「するだろうさ、 お前が責任者になったことも含めてな。 もし何か問題があれば、それこそ存分に虎の威を借りるだけさ」


「ふふ、そうだな。 ではそうするとしよう」


 ――離れた場所で一喜は二人の姿を見る。確りと二本の足で正道を歩もうとする様を、彼は眩しく見つめていた。

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