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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百七十八話】その女、異世界の女と話す

「お嬢様、只今戻りました」


「うん、どうだった?」


 戻って来た沢田は恰好を少々崩している。

 一般の者から見れば誤差の範囲内であるが、従者として完璧であることを望まれる立場の沢田には珍しい状態だ。

 それだけ急いだのだと望愛は察し、余計な雑談を一切抜きにして本題を促した。

 沢田は綺麗な直立体勢のまま一瞬だけ空へと視線を移す。その瞳にはありとあらゆる感情が浮かび上がっていたが、直後に一切を胸の内に隠して再度目を合わせた。


「綱吉様に連絡を送り増派をお願いしてみましたが、予測通り追加の人員や兵装は送ってはいただけませんでした」


 沢田は元の世界に戻り、まだ朝日が登っていない時間帯に彼の住む家に直接連絡を飛ばした。

 当時の時間ではまだ彼は寝ていて、実際に沢田と電話をしたのは彼の従者だ。彼自身が素性を調査した上で全てを教えた従者は沢田からの緊急の知らせに暫く言葉を返さず、しかしマニュアル自体は予め用意しておいたのか彼女の要望に否を示した。

 勿論、それ自体は彼女にも予想出来ていたことである。そんなことで怒鳴りつける気もない沢田は、ならばと別の要望を告げた。


「なのでそれ以外の、主に武器等の追加兵装を相談しました。 ですが……」


「それも駄目だったと?」


「はい。 現在渡してあるものが全てである。 それ以上の提供は今は出来ないと伝えられました」


 相手の従者は淡々と綱吉から教えられていた言葉だけを彼女に伝えた。

 現状、出来る範囲での支援は既に終えてある。これ以上を望まれても限界であり、求められたとしても応えることは不可能だ。

 綱吉自身が多忙の身であることも合わせ、沢田は了解のみ告げて終わらせた。

 伝えるべきは伝えた以上、後は自身で出来ることをやるのみ。一喜が戦力を望む様子を見せなかったとはいえ、使える札は多ければ多い程良い。

 非番の子達にも召集を掛け、沢田は会社に保管してある予備の分を此方の異世界に持ち出した。

 勿論、予備というだけあって性能は満足する程ではない。これらはメインが使えない状況を想定しての武器であり、もしも双方が同時に壊れれば彼女達の武器は無くなってしまう。


 けれども、望愛が居るのだ。惜しむことなど沢田はしない。

 集まった他のメイド達も巻き込んで異世界に行くまでに時間は掛かってしまったが、メンバーが集えば彼女達の移動は実に迅速だ。

 ワゴンタイプの普通車で彼女達はアパート近くの駐車場に向かい、人目を避ける形で全ての装備を異世界に運び込んだ。

 さて、後は戦いの準備を整えるだけ。――そうなった段階で、沢田は異世界側に居たメイドに此度の詳細を聞くことになった。


「……とはいえ、大藤様が方針転換をしたことで全て無駄になったようですね。 まさかキャンプの人間をそのまま抱き込むとは」


「ふふふ、まぁ、そうね。 ……でも」


 全てを知った沢田としては溜息の一つも吐きたいものだが、望愛を戦場に巻き込まなかったという点で一喜のやった全てを彼女は飲み込んだ。

 反面、メイド達の不満は蓄積されて今ならば一喜に文句の一つでもいいかねない。

 それらを抑えるのは沢田になる訳で、やはり文句の一つでも言ってやらねばならかと内心で呟いた。

 そんな沢田の前で、望愛は苦笑と共に意味深な言葉を放つ。隠された明るい顔色が消え、不機嫌さを露にしている様は不気味だ。

 雰囲気も濁り、不穏なものを垂れ流している。深淵に住まう怪人が如き変容に沢田達は緊張を抱き、その姿勢を余計に正した。


「この件はあの人が望んだことじゃないわ」


 断じ、彼女は歩く。沢田達の横をすり抜けるように進み、他は皆無言で彼女の後ろを付いていった。


「先輩はもっと事前準備を整えてから始める人よ。 いきなり方針転換をするにせよ、もっとそれなりの態度は事前に見せている筈だわ」


「では、彼等を抱き込むことを進言した人物が居ると?」


「十中八九。 そして誰がそれを言ったのかもね」

 

 薄笑いには鋭利なものが込められていた。

 足は自然と動き、目的の場所へと進められていく。彼の為にとすべき事柄は多いが、彼女は最優先としてそちらに赴くことを決めていた。

 歩き続ける先にあるのは、キャンプの人間達が住まう場所とは別のビル。最初から一喜の仲間だった者達が生活するビルは、この拠点の中で最も奥まった地点に存在する。

 外では子供達が遊んでいる姿が見え、監督役として瑞希が持って来た椅子に座って呆と空を見上げていた。子供達の中には烈の姿も存在するので、多少は目を離しても問題無いと瑞希は職務を半ば放棄している。


「御機嫌よう」


 そんな場で、望愛は再度女神の仮面を被る。

 慈愛宿る女の言葉は優しく瑞希に届き、しかし耳が彼女の声を捉えた瞬間に身体は即座に立ち上がった。

 さながら一本の木が如く。瑞希は突然に現れた望愛に心臓を五月蠅い程に鳴らしながら、取り繕った愛想笑いを浮かべる。

 眼前の優しい優しい女性は突然の瑞希の態度に表情を変えはしない。それがまた瑞希にとっては恐ろしいことこの上なかった。

 そう、瑞希は望愛を恐ろしく感じている。接触時の最初の態度と今の態度があまりにも違い過ぎて、一喜のような善性を感じることが出来ないのだ。

 

 女としての勘も望愛が危険だと訴えている。

 信じることそのものが論外と警鐘を鳴らし、一喜が彼女と普通に話している事実そのものがまず信じられない話だ。

 やはり常識外の人間の近くには常識外の人間がやってくるのか。

 類は友を呼ぶ。そんな諺が脳裏に過り、瑞希の顔色は悪くなった。

 

「お、おはようございます! 本日はどのような御用件で?」


「ええ、ちょっと。 此方に世良さんはいらっしゃいますか?」


「ああ、居ますよ! 直ぐに呼んできますね!!」


 恐怖で上擦った声で返事を送り、瑞希は一目散にビルに駆け込んだ。

 建物の二階部分から大声が聞こえ始め、次いで世良の声が響き始める。同時に男性の声も聞こえたので近くに十黄が居ることも望愛は認識し、三人が降りてくるのを静かに待った。

 

「ちょちょちょ、そんな引っ張るな!」


「いいから急いで!! こっちは必死なの!!」


 入口から姿を現す世良は瑞希に引っ張られていた。

 十黄はその後ろをゆっくりと歩き、一早く望愛達に気付いて頭を下げる。望愛達も静かに会釈を返し、世良は瑞希が彼女の前まで連れて来ることで漸く気付いた。


「あ」


「どうも」


 二人が顔を合わせるのは、常に一喜が傍に居る時だ。

 なので今回が初めての一喜が居ない状態での接触であり、慣れぬ世良は何時もの返事も口から出せずに頭を一度下げる。

 望愛の表情は常と変わらない。瑞希がさらばとばかりに子供達を引き連れてどこかに行くのを視界に捉え、早速とばかりに口を開けた。


「先輩があんな状態になってしまいましたので、現場での具体的なあれこれを話し合いに来ました。 時間をいただいても?」


「勿論。 あいつがあんな風になっちまった以上、私達で出来ることはするさ」


 突然の登場であるが、望愛の用件に世良は即座に応を返した。

 一喜自身があんなにも崇拝じみた扱いを受けることは世良にとっても予想外で、その所為で余計な騒ぎが起こることを彼女は危惧している。

 彼が率先して前に出てこれなくなったのは痛手だ。直接的な指示が無ければラグが生まれ、彼自身の移動にも支障が出る。

 穴を埋めるには代理人が必要。今回は望愛がその担当となり、正式に全体を見る役割を担うことになった。

 世良はその決定に不服は無い。本より自身が大多数の人間を率いるなど出来るとは思っていなかった。


「ウチでもいくらか案は決めてある。 中に入ろうか」


「ええ、ですがその前に一つ」


「?……なんだ?」


 時間は有限だ。既に一喜達の滞在可能時間も少なくなっている。

 居ない内に出来ること、居る内に出来るをせめて決めておかねば安心出来ない。だが望愛にとってはそんなことは今は関係無い。この瞬間に彼女に接触を図ったのは、まったくもって本筋とは別の理由なのだから。


「――先輩の意思を変えましたね?」

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