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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百七十一話】その女、餌付けする

 訪れた十人を拠点の人間は暖かく受け入れた。

 それが打算に寄るものであったとしても、彼等は本心で仲間が増える事実に喜びを露にしていた。

 子供達に自己紹介をさせ、衣食住の内の衣と住を与え、荒れ気味だった彼等の精神は敵意とは無関係の触れ合いに困惑しながらも癒される。

 何もかもが十人には新鮮だった。嘗てはあったであろう日々は既に記憶からも朧となり、感覚に至っては何も覚えていない。

 だが地獄に落ちたが故に、嘗ての日々に似た現在は至上の天国として余計に彼等の記憶に残された。

 麻薬などでは到底足りぬ。夢幻が現実としてそこにあると認識出来る事実は、十人に感動を与えるには十分な威力が込められている。

 

「で、何を食べる?」


「何?」


 であるからか、更なる沼に落とそうとする一喜の言葉に甲斐達は困惑した。

 今日の朝食はメイド隊が揃い、世界同士が繋がったことで燃料等を贅沢に使うことが出来る。

 この世界で火を起こすには人力しかなく、当たり前であるがライターのような着火装置は無視されやすい雑貨達の中でも優先的に回収されて殆ど見当たらない。

 油自体は車から拝借することは出来るが、それが食用に適さないのは常識だ。何の医療設備も整っていない中でガソリンに浸った料理を食べればどうなるかなど、常識的に考えるのであれば解るものだろう。

 故に、回収した資材達の中から持ち込んだステンレスのテーブル。その上に置かれていた調理器具の数々に、誰しもが視線を向ける。

 特に視線を集めたのはガス缶を使った小型のコンロだ。キャンプ地でも大いに活躍するコンロは一口分しかないが、それを三つ一気に使おうとしている。


「子供達にはカレーを振る舞うつもりだが、それが嫌ならパンもある。 ああ、パンといっても食パンみたいな味気ない奴じゃないぞ。 菓子パンと総菜パンだ」


「は……え?」


 何てことのないように告げる一喜の言葉に、この日十人は最も大きな驚愕を感じた。

 それは雷が全身を駆け巡ったようなと表現するのが尤も適切であり、誰しもの口が咄嗟に次の言葉を吐くことが出来なくなってしまうような衝撃だ。

 彼等は呆けた顔でメイド達が材料を並べる様を凝視する。

 朝食はカレーといったが、新鮮な野菜や肉を用意することは一喜達にはまだ出来ない。

 大量のレトルトカレーを一気に一つの鍋に放り込み、空いている別の鍋にはこれまたレトルトの御飯パックを幾つも纏めて入れていく。

 コンロ自体はメイド隊の持ち込み品だが、それ以外の大鍋や皿といった食事に必要な道具類は全て発見して一度洗った物だ。

 

 川の水をそのまま使うのにはメイド達は眉を顰めたものの、他に使える水源が無い。 

 なのでメイド達の基本装備に含まれている携行型の浄水器で一度通してから火に掛けたものを使っている。その手間暇は中々であるが、彼女達の主の為であれば苦ではない。

 ちなみに、その準備をしていたのは一週間前からだ。これをメイド達がしていたのは明らかな無駄である。

 

 茹でる水までは川の水をそのまま使い、浄水した物は綺麗なペットボトルに保管していた。

 これは全て望愛や自分達に使いたいのが本音だが、そのような真似を露骨にすれば差別していると見受けられない。

 一喜に贔屓していると指摘されるくらいなら鼻で笑えるものの、望愛に言われては絶望だ。彼女に嫌われるような者になる気はメイド隊の中には存在しない。

 

「飲み物は今回は水だけな? もっと大量に浄水を用意することが出来れば沸かして紅茶も準備出来るぞ」


「先輩、ちょっと止まりましょう。 皆フリーズしています」


 一喜が呆気なく話すものは全て簡単には準備出来ない代物だ。

 だからか、甲斐達は呆然としたまま帰って来ない。このままでは正常になるまで時間が掛かると横に居た望愛が静止させ、その場で手を一度叩いた。

 突然の音に彼等の意識は望愛に引っ張られる。彼女は十人の視線を集め、そしてにこやかに話を進めた。


「御飯が出来るまではまだ少し掛かります。 その間に質問があれば聞きますよ、相互理解は大事ですから」


「あ、ああ……そうだな、そういやそうだった。 参ったな……」


 甲斐は自身の後頭部を掻いた。

 フリーズからの再起動を果たした全員の脳は突発的に回転を始め、過去の宗谷との会話を思い出す。

 宗谷は一喜達のことを異世界の住人だと呼んでいた。怪物達が元々居た世界と似たような世界から来たと。

 正直、それを言われた際には意味不明が過ぎたものだった。だがメタルヴァンガードの姿や今回の品々を見てしまえば、否が応でも理解するしかない。

 異世界は存在する。そしてこの世界にオカルトはなく、オカルトめいた出来事を引き起こす怪物達は別世界の存在だったのだ。


 そうだと考えれば筋は通る。思い出せる限りの記憶にオカルトの影は無かったし、世間一般でもオカルトとは嘘の代名詞だった。

 少なくとも、この世の法則下では彼等は発生しえない。そんな状態で突発的に強力な怪物が現れるのは些か違和感が強過ぎる。

 

「率直に聞きたいんだが、アンタ等の方は大丈夫なのかよ。 そっちにも化物が居るんだろ?」


「ええ、居ましたよ。 全て殲滅されましたが」


「――――」


 今なら、甲斐達は異世界を嘘だと断じない。仮に別の誰かに嘘だと言われたとして、辻褄が合わないと彼等は取り合わない。

 故に、甲斐の頭に浮かんだ疑問は新たな怪物の発生と支援の安定性だった。

 彼等は積極的に此方側を支援してくれているが、向こうにも怪物は居る。それはメタルヴァンガードが健在である事が証明してくれていた。

 なればこそ、向こうも向こうで悲惨な筈だ。少なくとも他所の世界に手を貸す余裕は無いに等しい。

 その上で支援をするのは何故なのか。

 率直な疑問を望愛は笑顔で返した。此方はもう既に平和になっていると。


「ジョーカーまでの全ての敵は倒し切りました。 勿論此方も相当な痛手を負いましたが、それも何年も前の話です。 今では皆平穏無事に生活が出来ています」


 流れるような嘘は、全て望愛が考えた支配の言葉だ。

 人は希望に縋る。絶望に落ちたくなくて、天空から垂れ落ちる蜘蛛の糸を必死に掴もうと足掻く。

 それが何時切れるかも解らぬ糸であるにも関わらず、希望の一筋を望まずにはいられないのだ。

 彼等は今、希望を知った。

 彼等は今、導を見た。

 そして彼女という美女が柔和に笑う姿に、平和の二字を感じ取った。

 

「私達が此方を知ったのは偶然です。 偶発的な出来事によって関りを持ち、そして同じ様に苦境に喘ぐ貴方達を見つけました」


 表情が変わる。真剣そのものの顔の彼女は、その目に悲しみを纏ってそっと寄り添うような声を発する。


「全員を助ける、などという理想を語る気はありません。 少数が助けられる範囲には限界がありますし、全員を助けたいのなら人類が一丸にならねば達成出来ないでしょう。 それでも、我々は助けるのです。 生きているのですから」


「……おぉ」


 その声は、甲斐ではない別の男の言葉だった。

 足が折れ、膝を地面に付ける。折角新しくしたジーンズのズボンが汚れるのも構わず、狂相を持つ男は彼女に頭を垂れた。

 

「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます」


 今度は女が感謝の言葉を垂れ流す。滂沱の涙を流して、荒れた肌や乙女ではなくなった身体を掻き抱き、女神に感謝を捧げ続ける。

 この希望は何処までも強い。強靭であり、比べられるものもない安心感を伴っている。

 利用されてはいるのだろう。こういった施しを受けてしまえば、その借りを返す為に困難極まる仕事を任せられるに違いない。

 

 それでも、甲斐は頭を下げた。望愛にではなく一喜に。最も信じられる側に対して。


「ありがとう……ございます」


 一喜は甲斐の感謝を、無言で受け取った。受け取った上で望愛の頭にチョップを叩き込むのを忘れなかった。

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