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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百六十二話】その女、手筈を整える

 平日の時間は一喜にとって多くの思考時間を与える。

 やりたいこと、やらねばならないこと。やった場合のメリットとデメリットを考えつく限り頭の中で広げ、主観的な確率で順位を決めていく。

 それは歩きながら行われることもあるし、仕事をしている最中で行われることもある。

 半ばあらゆる行動を無意識で進める彼からすれば、意識しなくとも良い時間は全て異世界の将来に向けられていた。

 そして、それは望愛とて変わらない。

 彼女は一喜の為に動く人物であり、彼とは別のベクトルで考えるべき事柄が多く存在している。

 特に身内を絡ませた以上、これからは自分達の周りを警戒するだけでは足りない。

 最も厄介な親が出てくれば流石に綱吉でも隠し通すのは不可能だ。何もかもを水の泡に変えかねない二人が出て来るなど勘弁願いたい。

 

「あの人達はどんな感じ?」


「多忙を極めております。 綱吉様は黙認していると見ておりますが、警戒は怠っていません」


「そう……名義は私の会社になっているものね」


 アパートの望愛の部屋には常に二人から三人のメイドが居る。

 他のメイド達は綱吉が買ったビルで食品や武器の準備を進め、同時に望愛の意思を綱吉に伝えていた。

 契約書の話は沢田から話は伝わっている。綱吉本人は若干の渋り顔を見せたが、沢田のお嬢様と二度と会えなくなりますよ?との言葉で契約書の変更を承諾した。

 この契約によって綱吉側のメリットは格段に低下したが、しかし妹の信用の一部を取り戻したことは間違いない。

 その証拠として望愛は携帯で綱吉に感謝の文を送っていた。普段であればどのような連絡も無視していた望愛が感謝を送った事実が、シスコンである綱吉に希望を感じさせて活力を漲らせたのだった。


「現地のメイド達とは連絡は取れない?」


「はい。 用意可能な連絡方法は全て試してみましたが、やはり失敗しております。 ……俄かには信じ難い話であります」


「そうね。 世界の壁を超えるなんて普通の話じゃないもの」


 ボロのアパート内には大した物は置かれていない。

 丸い黄のテーブルにはメイドが持ち込んだ高級なカップが置かれ、彼女は床に座って片手で携帯を操作している。

 携帯の画面にはメイド達のグループチャットが開かれ、常にそこで情報を受け取っては次の動きを指示していた。

 空は既に暗い。仕事終わりでラフな格好の彼女は、金の髪を広げて壁を見る。

 その先には一喜の部屋があり、壁が薄いことで時々物音が聞こえていた。何かを運んでいるのか重く鈍い音が耳に届き、彼女はそれを子供達への御飯かなと脳裏の片隅で予想する。

 

 現地のメイド達とはやはりいうべきか一切の連絡が失敗に終わった。

 玄関から通じる異世界も月曜日を迎えた段階で通常の扉としての状態に戻り、金曜日が終わるまでは一喜はそこから出入りしている。

 望愛は異世界で設営作業を続けているだろうメイド達を心配してはいない。そも素の肉体能力では望愛は貧弱であり、知識にも大きな差が存在する。 

 彼女の脳内に広がる知識の大多数は戦いとは無縁のもので、最近はそれに関する話を本で収集する日々だ。

 メイド達が常駐するようになってからはあれやこれやと質問もして、メタルヴァンガード時の経験値の不足をなんとか補おうとしている。

 

 そんな彼女からすれば、現地のメイド達を心配するのは愚かなことだ。

 今一度主として戻った以上、心配するのではなく期待するのが正しいだろう。故に彼女はそこで思考を終え、以前のコンビニでの一幕を思い出す。

 彼女もオーナーとの面識は皆無だ。面接をしたのも店長で、最初の指導も社員から行われたので声を聞いたこともない。

 ただ、店の雰囲気は良いものだった。社員もアルバイトも暗い顔はしておらず、今時の時勢と真逆を行く経営をしていたのは彼女にとって好印象である。

 自由に決定を下せることで現場での柔軟な動きを可能とし、経営者本人が過剰なまでに益を求めないことで達成までのラインが引き下げられている。


 フランチャイズの関係で本部からは色々言われかねないが、少なくとも派遣された本部の人間が嫌な顔をする素振りを望愛は見ていない。

 コンビニ周辺の民度も最初に望愛が想像しているよりマシで、初めてのアルバイト先としては理想と言う他ない。

 これが出来たのはオーナーの見抜く目が鋭かったからだろう。店長自身は経営者らしくないと評したが、オーナーが来なくとも利益を上げられる人材が集まった事実を鑑みれば寧ろ経営者としての素質に優れている。

 このまま経営を続けていれば老後も安泰だろうとは彼女の予測だ。けれど、他者に対する優しさについては眉を顰める部分もある。


 今回は相手が身内だった。親戚との繋がりは家として強くなればなる程に有利に働くもので、実際に糸口家でも親戚付き合いは大切とされている。

 しかし、その親戚が毒でしかないのであれば切り捨てられるのが世の常。関わり合いになることそのものがデメリットになるのなら、如何に優しさを持っていても毅然とした態度で拒絶せねばならない。

 オーナーがしたのは時間稼ぎだ。廃棄処理に掛かる値段の一部を負担したとして、それが増していけば何れ負債が全てを凌駕する。


 親戚は間違いなく更なる負担を求めてオーナーに縋り、そこで拒絶したら強烈な罵倒を叩き付ける。

 どうすれば良いのかを考えるのは人として生きる上で当然の思考だ。オーナーとて決して最初は緩く経営などしていなかった筈である。

 我慢と熟慮の果てに今があるのであり、ならば親戚はそれを見習うべきだ。

 とはいえ、それが出来るのならば親戚はオーナーの提案に縋ることはしなかった。愚痴を吐き、誰か助けてほしいと言外に語る真似もしなかった。

 親戚の頭にあったのは救いと楽だけだ。苦しむ未来など想定しなかったに違いない。


「まぁ、連絡が付かないのなら此方は此方でするべきことをするだけよ。 ――今後やって来る食品の種類はもう解っているの?」


「詳細は未だ解っておりません。 ですが冷凍及び冷蔵保存が不可能であること、火を使った調理は原始的な方法のみになる点を考慮しますと……」


「先ずはレトルトだけね。 それにきっと兄さんなら……」


 コンビニでの一幕を脳裏に想像しつつ、望愛はメイド達と話を進めていく。

 沢田の現地での話と現在のメンバーを情報として頭に詰め込んだ綱吉は、先ず最初に一番楽な食品を送ろうとする筈だ。

 常温保存に適し、調理過程も単純。レトルトは一喜も取っていた方法であり、綱吉もこれを採用するだろう。

 だが、ただそのまま商品を送るのでは経費が高くなる。

 仮にも次の社長候補であるならば、何としても経費を節約すると考えるのは自然だ。

 さてそうなった時に一般の方法では取れない手段として何が適当か。

 ――恐らくは、会社が保有する倉庫内で廃棄されるのを待つ商品だろう。


「倉庫の廃棄品。 あれの廃棄処理はかなりの額になっている筈。 それを此方に送ることで少しでも額を抑えられるなら、購入費用も安く出来る」


 こうなった時、自身の会社の規模が大きかったことは幸運だった。

 出世戦争の規模も大きくなるものの、今回の件ではあまり問題にならない。

 綱吉が支援する形で望愛が会社を興した嘘の情報は既に向こうが知り得ているだろし、これを身内同士の争いだと誤解する人間はきっと多くなる。

 親は綱吉に詰問はするだろうが、アレの対処の仕方は望愛よりも彼の方が上手い。

 廃棄処理になる筈だった商品を綱吉の金とはいえ購入して社の利益にしてくれるなら、怪しむことはあっても直ぐに止められはしないだろう。

 疑念の矛先を変えておくことで異世界について調査される確率を下げる。一番に大事なのが情報の隠蔽であれば、綱吉がしないと考えるのは愚かだ。


「でも、どうせなら他にも揃えたいわよね」


 綱吉が用意する物に一先ず頼ることは出来る。とはいえそれはどうしても危険を孕むもので、何かの原因で突然止まっても不思議ではない。

 安全を考えるのなら、やはり補給ラインをもう一つは欲しいところだ。

 その宛ては今は無いが、何れ作らねばならないだろう。出来ればあまり親の会社とは関りの薄い場所だと良いのだが。――――例えば。


「あのコンビニの廃棄を全部貰う、なんて」

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