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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百六十一話】管理職、処分に困る

「ありがとうございましたー!」


 明るい店内。数多くの仕事帰りの人々。

 学校から帰宅する途中の学生や怪し気な風貌の者達を含め、コンビニには数多くの人間が買い物に訪れる。

 室内は時間がある内に清掃をしているお蔭で小奇麗だ。近所の民度も露骨に悪くはなく、嘗て窃盗を働いた人物を捕まえる際には店内に居た客が協力してくれた。

 その協力者は今でもこのコンビニの常連客であり、よく多くの品物を購入してくれる。

 バイトや社員達の質も他のコンビニと比較すれば明らかに高い。

 そこには自給が高額であることや設備の充実度、店長やオーナーからの指導が厳しいことが理由として挙げられるだろう。

 

「大藤さん、そろそろ時間です」


「……ん、ああ。 もうそんな時間か」


 隣同士のレジで大量の客を捌いていくと、自然と時間間隔も崩れる。

 遠くに見える壁の上部に取り付けられた時計の針を見れば、渡辺が教えてくれた通り午後二十二時をそろそろ示そうとしていた。

 三台あるレジの真後ろにはスタッフ用の入り口が存在し、そちらに耳を傾けると夜勤の者達と店長の声が聞こえる。

 特に焦った声もないことから今日もトラブルが無かったのだと判断して、レジに表示されていたデジタル時計は二十二時を画面に映し出した。 


「お疲れ様です」


「お疲れ様です。 普段と同じ感じで今日もお願いします」


「はい。 予約とかはないですか?」


「そちらも今日は無しです」


 引継ぎを軽く済ませてスタッフルーム内の管理システムに勤退時間を入力。簡素なカーテンで仕切られたロッカールーム内で私服へと着替え――スタッフルームに突撃する盛大な音が響き渡った。

 

「うわわ、まだ間に合いますか!?」


「大丈夫、五分ぐらいなら遅れても問題ないよ」


「ありがとうございます!」


 女性特有の甲高い声に一喜を溜息を漏らす。

 さっさと着替えを済ませてカーテンを開けば、そこには管理システムに自身の時間を打ち込んだ望愛の姿があった。

 緑の制服姿の彼女は室内の椅子に座りながら書類作業をしていた店長に謝り、店長は柔和な笑みで気にするなと許している。

 時間に厳しい職場であれば注意の一つでも飛びそうなものであるが、店長も含めた社員の全員が何処か緩い。

 効率は求めているので決して緩いだけの職場ではないものの、人間的な性格でいえばこの店の従業員は温和そのものだ。

 

 謝り終えた望愛が一喜と視線を合わせ、頬を膨らませる。不満をありありと伝えている様子に、しかし一喜は無視をして店長に視線を変える。

 

「店長、渡辺さんは遅番なんですか?」


「そうだよ」


 少々の疑問に店長は当然のように答えた。

 あまり他者と関わらないようにしている青年は、一喜と二人で仕事をしている間は閉ざされた口が軽くなる。

 彼もまた一度は正社員となり、ブラックな仕事に嫌気が差して以前の職場を早々に退職した。

 その後に次の職場を探してみたのだが、良い場所は一早く別の誰かに取られている。賃金であれ待遇であれ何かを我慢すれば正社員になるのはまだ可能性があったが、それではまた酷使されるだけではないかとフリーターとして暮らすことを決めた。

 

 勿論、ただフリーターとして生活している訳ではない。

 今の世の中、自分が自分として生活していくには独自に行動を起こす必要があった。

 それは動画投稿者になることであったり、株を購入することであったり、小説や漫画を書くことと様々だ。

 社会が齎す縛りを可能な限り排除して自由な暮らしをしている人間は羨望や嫉妬の的にされやすい。そういった生活を目指して成功した者達にも過酷な日々があった筈なのに、成功したという事実だけで負の感情を向けるのだ。

 渡辺が目指しているモノを一喜は知らない。成功すれば良いなとは嘗て彼に言ったが、それがどういった形での成功について渡辺は一切語ることはなかった。

 けれども、彼が金を求めていることは知っている。


「なんだか大きな買い物をしたみたいでね。 分割払いにしたけど前のシフトじゃ生活が厳しいってことで遅番に入ったんだよ」


「成程」


「当たり前だけど無理だけはさせないよ。 内の社員が定時で何時も帰れるのは君達アルバイトが居るからだ。 少しでも体調が悪くなるようなら帰らせるって約束はさせてある」


「随分柔軟なんですね。 オーナーも許可しているんですか?」


「勿論だとも。 あの人も経営者らしくない性格だからねぇ」


 はははと軽く笑う小太りの男の声には負の感情が無い。

 シフトは常に一定だ。何処から何処まで働くかを自分で決め、それを果たす責任が課せられる。

 出来なければ注意されるし、改善も不可能ならクビにされることもあるだろう。

 それが常識とされる中、この店のオーナーはシフト管理も含めてあまりにも柔軟だった。

 法律と事情が許せば突発的な帰宅は許され、予定していた利益よりも多く利益が出ればギフトとして社員やアルバイトに配ってくれる。


 一喜はオーナーに会ったことがないので考え方や姿は解らない。シフト云々も最初に決めたものをそのまま使っているのでどれだけ変えられるかを知らないままだ。

 されど、店長の話の通りなら冷たい人間ではないことは察せられる。寧ろ店長の語った通り、経営者らしくないとも言えるだろう。

 

「ああ、オーナーといえばなんだけどね」


 オーナーの単語が出て来たことで店長は何かを思い出し、椅子ごと一喜に向けた。

 

「最近、オーナーの親戚もコンビニを始めたみたいなんだ。 そこは夫婦でやっているんだけどね、どうにも上手く回せてないみたい」


「それは……大変ですね?」


 店長が思い出したのはオーナーの悩みだった。

 店長と呼ばれる役職である以上、当然トップの人物と会話する機会は多い。それが仲の良いものであれば世間話の延長線上として身内話にまでいくのは必然だ。

 オーナーは滅多に顔を出すことがない。殆どの采配を店長が決め、実際にそれで運営は上手く回っている。

 事件や事故、従業員同士のトラブルでも起きなければオーナーと直接顔を合わせることも殆どないだろう。

 だからこそ、そんな話を突然されても一喜には曖昧な返事しか出せない。


「まぁねぇ……。 廃棄が多いだとか、売れると思った商品が売れなかったりだとか、従業員が失礼な態度を取ることが多いだとか、まぁコンビニならあるあるな話が出て来る訳なんだよ。 最近は普段の食事もコンビニ飯になってて精神的にも苦しくなってるみたい」

 

 嘗ての親戚の暮らしがどれほどだったのかを一喜は知らないが、コンビニ飯になってしまったことでメンタルに傷が付くのであれば家庭的で一般的な生活を送ることが出来ていたのかもしれない。

 しかし、その程度は巷でよく聞く類の話だ。店長があるある話と言っていたように、コンビニのデメリットについては度々ネットの話題に上る。

 テレビのニュースでも取り上げられることがある以上、流石に何も知らなかったと考えることは難しい。

 一喜が想像するに、オーナーの生活が羨ましくてやったのではないだろうか。

 ネットの情報も必ずしも正解ばかりではない。寧ろ間違いの方が多く、やり方次第で楽にすることが出来ると判断した可能性はあるにはある。

 勿論そのやり方を模索するのが極端に難しいのだが、そこまでは思考が行き着くことはなかったようだ。


「廃棄、廃棄、廃棄、廃棄。 このままだと夫婦同士で喧嘩が始まりそうだったみたいでね。 見かねてオーナーが廃棄額の一部を負担しているみたいなんだ」


「――それって」


「解ってるよ。 オーナーが態々してやるようなことじゃない。 決めたのはその親戚なんだから、責任は全部自分達で背負うべきなんだ。 ……そう、なんだけどねぇ」


 助ける必要は無い。子供ではないのだから。

 それでも助けたのは、親戚がオーナーの所で騒いだからか。或いは可哀想にと同情したからか。

 幸い経営は順調だ。廃棄の一部負担であれば即座に破産に行き着きはしない。

 廃棄商品を貰って普段から消費していれば食費分のマイナスを幾らか消すことも出来るが、これからも廃棄が増すのであれば負担についても考えねばならない。


「ま、今一番の問題はオーナー宅に大量の廃棄商品がやって来ることなんだよ。 それを近所の方に配ったりしているんだけど、やっぱり限界があってね……」


 それをどうしたもんかって話をしていたんだよ。

 店長は苦笑し、最後には溜息を吐く。深く濃い疲労の様子は、正に中間管理職としての姿そのものだった。

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