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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百五十九話】その女、理想を見る

「……う、く」


 荒い息が整い、意識も次第に明瞭になっていく。

 呻き声には力は無い。自身の首を掴んでからの記憶が曖昧な中、回転する脳が自然と行動を促す。

 目を動かせば、己は机に突っ伏す形になっていた。

 照明の無い部屋は薄暗くなり始め、それは夜の到来を思わせる。このままただ突っ伏したままであれば、何れ室内は完全な暗闇に支配されることだろう。

 そこまで思考して、望愛は呆けていた目を見開く。跳び起きる形で上半身を持ち上げた彼女は周りを見渡し、誰も居ないことを確認した。


「み、んな……?」


 椅子から立ち上がった望愛は声を発するも、誰も彼女の言葉に応えてはくれない。

 けれど外では何かが燃える音が聞こえ、そちらへゆっくりと歩を進める。

 音はビルの入り口付近。目前と言える距離で発し、そして彼女は正面入り口で煌々と燃える焚火を視界に捉えた。

 

「焚火?」


「……起きましたか、お嬢様」


「ッ、沢田……」


 真横から聞こえた声に望愛は驚きながら首を曲げる。

 そこには壁に寄り掛かる沢田の姿が居り、よくよく目を凝らせば他のメイド達も入り口を守る形で壁伝いに集まっていた。

 

「どう、なったの? 途中から記憶が無くて」


「一先ずお嬢様の帰還は無しとなりました。 お嬢様の決死の証明によって害は無いと判断され、私達の駐留も許可されています」


「そう」


 良かった、と望愛は口からそれを吐き出すことはしなかった。

 沢田の顔は笑みを湛えていない。寧ろ怒りを孕んだ表情をしていて、それが望愛に向けられたものであることを彼女は理解していた。

 当然だろう。あんな真似をするなど自殺志願者のようなものだ。今この瞬間に彼女が生きていたのは、一喜が早い段階で諦めたからである。

 故に、望愛は沢田に向かって腰を折った。深く頭を下げ、謝意を示す。頭を上げてくれと言われるまで上げるつもりのない彼女の態度に、沢田は慌てることなく大きな溜息を吐いた。


「頭を上げてください。 二度とあのような真似をしないとお約束してくださるのであれば、私共からは特に咎めるつもりもありません。 心配したのは事実ですが」


「うん、ごめん」


 二人は長い付き合いだ。姉妹と呼ぶには固いが、二人の間にある絆は決して脆くはない。

 丁寧語の抜けた素の謝罪こそ望愛の本音だ。沢田もそれは承知しているから、心配したとだけしか告げる真似はしない。

 そうして二人が話していると焚火の周りに人が集まり出す。

 一番背の高い一喜がこの世界で手に入れた発砲スチロールの箱を持ち、大小様々な子供が拍手を鳴らしながら火を囲む。

 地面に置いた箱の蓋を開けると、辛うじて傷んでいない魚の姿があった。少なくとも店には並べられない品ではあるが、この世界で用意出来る物の中では相当の高級品である。

 

「今日はこいつと焼き鳥の缶詰だ」


「いよ! 日本一!!」


 子供達を率いる内の一人である烈の甲高い声が辺りに響く。

 釣られて他の子供達も騒ぎ始め、瑞葉を含めた大人組が笑いながら集めた皿を配って魚を焚火の上に組んだ網で焼いていく。

 缶詰は一人につき二個。魚のサイズも決して大きい訳ではなく、されど何も手に入れることが出来ない現状を思えば豪勢だ。

 魚に付ける調味料は塩のみ。その塩も決して多くはないものの、あるのとないのとでは大きく味は異なるだろう。

 徐々に辺りに広がる香ばしい匂いに子供達は目を輝かせ、腹を鳴らしながら完成する時を今か今かと待ち続けた。

 

 その姿を望愛達は遠くから静かに眺める。

 子供達の姿は正に欠食児童そのもの。望愛の周りでは一度も見ることはなく、見たとしてもそれはテレビの中だけ。

 あれだけではきっと足りないだろうに、子供達はそれでも一喜に不満を漏らさなかった。

 それは現状を恵まれたものだと理解しているから――――これで十分と子供らしくなく納得してしまっているからだ。

 これがこの世界の日常である。何もかもが不足する中で、元の世界では当たり前の品々を後生大事に抱えなければならない日常だ。


「……凄い人でしょ、先輩は」


「――はい」


 ぽつりと零す望愛の台詞に沢田は即答した。

 少なくとも前の沢田であれば助ける真似はしていない。心苦しさを感じつつも、それでも目を逸らして異世界についてを調べていた筈だ。

 望愛はそもそも積極的に関わり合いになることを避けて悲観するだけだったろう。何かを始めようとまで考えていたかは怪しい。

 メイド達とて一緒だ。彼女達は戦闘能力だけはあるので最悪暴力で奪えるが、かといってそれが長持ちするとは考え難い。

 そもそもの品物が枯渇状態なのだ。生産する手立ちを早い段階から用意出来ねば、自然と餓死に近付くのは確定である。


「決断力があって、途中で折れることを良しとしない。 子供には優しいし、どうやって乗り切ろうかを提案してくれる」


 リーダーの資質として何が求められるか。

 厳しい環境の中において、それはきっと迷わず進んでいける強い意志だろう。

 失敗するか否かで二の足を踏むのではなく、そして失敗した場合の次善策も用意することが出来る。

 仮に全てが失敗に終わったとしても笑って死ねるのなら、きっと先導者としては完璧だ。納得を持っての死なら人は安らかになれるのだから。

 なればこそ、望愛は一喜を推すのだ。何としでも役に立ちたいと願うのだ。それが一喜の迷惑になったとしても。


「……私のことは許してくれたけど、例の契約はまだだよね?」


「ッはい。 既に契約書には目を通していただきましたが、一部変更を望むとのことです」


「多分、兄さんの利益についてかな」


 唐突な話題変換に一瞬沢田は反応に遅れたが、直ぐに答えを返す。

 望愛が意識を朦朧としている最中、話すべき内容の全てを語り切った一喜は沢田から契約書を読ませてもらった。

 内容としては動画の中で語られている通り、食料や戦力の提供。これはたった一回だけに終わらず、綱吉側が提供出来る限りは渡すことになっている。

 勿論、これだけでは綱吉の損になるので代価も提示されていた。

 この世界で綱吉占有の資源場を作る。これは物品から始まり、単純な採掘及び採取資源が対象だ。

 集めた商品を元の世界で隠蔽しながら売り捌き、得た益で懐を回復させつつ支援の拡充を狙う。

 

 元の世界で生まれた物ではない以上、それをそのまま売ることは出来ない。

 市場に出すことは出来ず、やるならば海外の闇市のように密かに消費せねばならない。

 なので一度偽装を挟む。パッケージを元の世界の物に変え、名称を弄ってB級品扱いで安価に売れば少なくとも一般の間では購入されていくだろう。

 その所為で自社の製品が売れない可能性が生まれるので、販売層も変えていく必要がある筈だ。海外輸出も手段の一つに必ず入っていると望愛は見ている。

 審査は厳しいだろうが、ノウハウ自体は会社が持っているので問題は無い。強いてあるとすれば、やはり親である社長と夫人だ。

 この二人に異世界の情報が知れ渡れば何を言われるか解ったものではない。何よりも成果を求める性質上、世界そのものを独占しようと画策することも無いとは言い切れないのだ。


「支援の存続の為に資本が必要であることは大藤様も解っております。 ですので、資源場から此方に運ばれて利益が発生した場合に支払われる大藤様本人への報酬を調整してほしいと」


「具体的には?」


「五割。 完全な折半を求めています」


 親に対する説得については綱吉に考えがあると望愛は思っている。

 なのでそちらはあまり考えず、一喜からの要望についてを彼女は考えた。

 最初の段階では一喜側の取り分は四割とし、六割分を綱吉が受け取った上で損にならない範囲で支援の拡充を約束していた。

 しかし一喜としては綱吉を信用出来ない。彼の支援がいつ打ち切りになるかも解らぬ状況で取り分が多くなることは不安だ。

 かといって一喜の方を多くすれば綱吉は納得しない。よって半分にすることで両者にとって損にも得にもならないようにする。


 そこから得にするには個人の工夫が求められるが、一喜としては得た資金を再建に使うことで元の貨幣システムを復活させたい。

 物々交換では不公平が発生しかねず、なるべく公平な形で物のやり取りをすることで人間同士の争いの芽を摘みたいのだ。勿論それ以外の狙いもあるが、それは今後になれば形となる。

 

「うん、なら説得は任せて。 こっちも良くならなきゃ立ち直れないしね。 此処が豊かになればなる程兄さんも楽になるでしょ」


 望愛は一喜の思考をある程度までしか推測出来ない。その内容はやはり打算的な側面が強く、であればこそ現実社会に合わせることが可能だ。

 なら、それをもって一喜に貢献しよう。この後の話し合いを考えつつ、望愛は笑顔で食事を進める子供達の姿を瞳に焼き付けるのだった。

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