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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百五十三話】その男、二度の再会を果たす

 説明の為にと案内された部屋は修理の終わった綺麗なビルの一室だった。

 巨大な一室には大量の段ボールが運び込まれ、数多くのメイド達が荷物を取り出しては何処かに設置している。

 その殆どが生活雑貨の類であり、更に言えば業務用と呼ぶには少々の華やかさを感じざるを得ない。

 それを指摘したい気持ちを一喜は今は抑え、取り敢えずの形で用意された白い簡易テーブルを囲んだ。

 椅子は全員が座れれる程。糸口は誰よりも先に椅子に座り、一喜と世良・十黄と別れる形で長方形のテーブル前の席につく。

 

「それでは説明を……といきたいところですが、先ずは自己紹介をさせてください」


 一人のメイドが四人分の紅茶を机に並べる。

 その対応に糸口は自然な所作で礼を述べ、最初にと自身の紹介を何も知らない二人に始めた。


「私の名前は糸口・望愛。 現在はオールドベースで一喜先輩の後輩として共に活動しています」


 美貌に溢れる顔が緩やかに笑みを形作り、流れる金の髪が艶やかな印象を与える。

 女の極致。女神の相貌。そう表現するに足る顔は、成程この世界ではおよそ目にする機会が皆無だと言って良い。

 その証拠に二人は彼女の表情に魅了されていた。これほどの美人と出くわすことになるなど予想外も予想外であったし、人として完成され過ぎた顔は同性相手でも胸をときめかせるには十分な威力だ。

 スタイルとてまったく悪くない。ジャケットにジーンズの恰好は本来女性らしさを感じさせ難いが、彼女の前ではそんな服も女性らしさに溢れているように感じてしまう。

 総じて言えば、十黄の妄想していた通りの姫だ。それも一国の支配者が溺愛するような物語の中の姫である。


「――それで、御二方の名前を教えてくれますか?」


「あ……と、すいません。 世良・瑞希です」


「と、十黄です。 村田・十黄って言います」


 普段はタメ口がデフォルトの彼等だが、女神のような顔の所為で緊張と共に丁寧語を口にしている。

 糸口は二人の硬い雰囲気に小さく笑い声を漏らすが、それすら二人には小鳥の囀りの如く愛らしさを覚えるものだった。

 流石にこれでは話が進まない、と一喜はわざとらしく咳を吐く。

 魅了されていた二人は魅了されていた表情からはっと元に戻し、半目で睨む一喜に乾いた笑い声を発した。

 十黄に至っては後頭部を掻いて明後日の方向に顔を向ける始末。美形が少なく、かつ怪物ばかりが整った顔をしている所為で耐性が低いのは仕方がない話ではあるが、それでもこんなに入れ込むものかと一喜は溜息を吐く。

 そして半目をそのままに、彼は視線を緩やかに糸口に向ける。込められた感情は、先程の二人に向けられたのと同じだ。


「余計な真似をするな。 ただでさえお前は立っているだけで人を寄せ付けるってのに……」


「あはは、すみません」


 実際、糸口は老若男女問わずに人を集めやすい。

 それが集客に繋がるのでコンビニ側からすれば嬉しいことだが、同時に問題も起きやすくなってしまう。

 一番厄介なのはナンパだろうか。一喜側の世界でのコンビニ一帯はまだ温和な者の方が多いが、それでも若者が居ない訳ではない。

 彼女の姿に惚れて仕事中に飲みの誘いをかける人間が出ないとは限らないのだ。そうなった場合は彼女個人で断るか、或いは一喜のように強く出れる人間が業務の邪魔として対処するしかない。

 彼女の美貌は表裏に渡って効果を発揮する。それが異世界である此処では余計に作用するのだから、愛想を振り撒く行為はなるべく避けてほしいのが一喜の本音だ。

 

 そんな一喜の願いが届いたかは定かではないが、綺麗な笑みを崩して彼女は子供のような笑みを形作る。

 彼女としても長くは保っていたくなかった。一喜の前で偽物の自分を見せるのは彼女としては絶対に回避したいことだったのだ。

 一喜が取り繕わなければならない場であれば同様に自身を隠すが、こういったプライベートと呼んで差し支えない場所では寧ろ素を出す方が動き易い。

 メイド達も外向けの顔よりも内向けの顔を望んでいるのか、子供っぽさの残る声に注意の眼差しは向けられなかった。


「で?」


「ええ、はい。 では早速説明をしますね」


 彼の催促に彼女は頷き、近くに置いてあった登山用のリュックサックの下へと向かう。

 中を開けて取り出したのは10インチサイズのタブレットだ。黒色の液晶のみを机の上においた彼女は、側面のボタンを押して液晶に光を灯す。

 一喜達にとっては見慣れた会社のロゴが現れ、直ぐに最初のトップ画面に変わる。

 幾つか表示されているアイコンには標準的なシステムしか用意されていないようで、その中から彼女は指でファイルを開いた。

 中には幾つかの別ファイルに、一本の動画。ご丁寧に動画名は大藤・一喜へと書かれているようで、彼女の目的はその動画だった。


「今から動画を流します。 そこにこうなった経緯の三分二くらいがありますので、先ずは何も言わずに動画を全部見てください」


「解った」


「世良さんや村田さんも見て構いません。 此処に関する動画ですから、寧ろ見てください」


「わ、解りました」


 十黄は硬い声で、世良は頷きで返してタブレットに目を向ける。

 正直に言えば、二人はタブレットと呼ばれる存在を見ることは初だった。それがパソコンのような機能を持っているとまでは解ったが、彼等からすればそこまで小型化出来た事実に内心驚愕している。

 指で触るだけで画面が動くことは勿論、反応速度自体も悪くない。ゲームまでは流石に解らないまでも、もしもゲームしている姿を見せれば更に驚愕が加速しただろう。

 この世界が技術的な停滞を迎えてから、新しい技術の確立は消えた。何処かの小さい集まりの中で密かに作られることはあるかもしれないが、それが世界中に広がることは有り得ない。

 

 そんな驚きに気付く素振りを見せず、望愛は動画ファイルを開示した。

 プレーヤーが見せる最初の映像は一人の男が高級なソファに座っている姿だ。それを視界に収めた直後、一喜の目は鋭くなった。

 

『――どうもこんにちは、大藤君。 私のことを忘れてはいないだろうね?』


「綱吉……ッ」


 漏れ出る彼の声は低い。怒りの含まれた圧は周囲に伝わり、誰しもが意識を彼に向けざるを得ない。

 されど彼は気付かず、視線は画面に固定されていた。世良と十黄の困惑混じりの目も意図的ではないにせよ無視していて、望愛の顔から笑みも消える。


『これが録画であることが残念でならないが、まぁ私も君も忙しい身だ。 余計な話は止めて本題だけを語るとしよう』


 糸口・綱吉はグレーのスーツを手で整えつつ、足を組んで得意気に笑う。

 勿論それが表向きの顔であるのは一喜の目にも明らかだが、言いたいことは全て最後に言えば良いと再生を続けた。


『君の事情は望愛から聞いているし、独自に調査もしていた。 本業を疎かにせずに人助けに奔走するのは良いことだが、何事にも個人では限界があることを君は知っているだろう? ――君が彼等に施した全てに、オールドベースはまったくと関わってはいない筈だ』


 綱吉の発言に一喜は内心で首を傾げた。

 個人の限界。オールドベースの未関与。その言葉は本来、設定として用意したモノがなければ使えない内容だ。

 一喜は目で望愛を見ると、それが解っているのか望愛は真剣な表情で頷いた。

 つまり、これは嘘の設定ありきの動画だ。それを聞いた上で現実としての話に変換しろと彼女は語っている。


『私はオールドベースの理念に共感してはいない。 なるべく不幸を取り除こうと動く様は確かに英雄的だが、助けるべき対象があまりにも多いようでは人手は不足してばかり。 各国も人助けをしている暇は無い以上、どうしたとて掌から零れ落ちる少数が生まれる。 大を助ける為に小を切り捨てることが、やはり人間が出来る最大の救済だと私は言えよう』


 綱吉の言葉はオールドベースの理念の否定であると同時に、その存在そのものに対する否定でもある。

 オールドベースは確かに物語の中で多くの人間を救ったが、同時に多くの死傷者を出したのも事実。誰かを助ける行為自体は良くても、失った者に目を向けずに前にだけ進む姿勢は――言ってしまえば零した小を無視する行為に等しい。

 であれば、オールドベースの理念はそもそも間違っている。綺麗なフレーズで協力者を集めることは企業でもよく目にするが、世界を救う組織であればやってはならないことだ。

 

 生ある限り、希望を灯せ。

 そう言って死に向かう者達を集めるのは、綱吉からすれば醜悪極まりない。

 勿論これが創作の話であると理解している。故に、これは創作ではなかった場合の話だ。

 世界を救うのなら、真実をありのまま伝える努力を諦めてはならない。

 隠したいのなら本当に誰も知らないままにして、その上で少数で隠し事を抱えて生きていくしかないだろう。

 

『君とて多くを救うのが不可能であることは理解している筈だ。 ――何せ、世界を実際に救った当人なのだからね』


 そのような下らない話に一体どれほどの価値があるのか。

 一喜が疑問を浮かべ、世良と十黄が綱吉の胡散臭さの残る笑みに訝しみ、そして爆弾は投下される。

 望愛は真剣な顔を再度変えていく。

 しかしそれは狙っての変化ではなく、つい漏れてしまうような。悪戯が見つかった子供のような笑顔だった。

 

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