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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百五十話】その男達、魚を取る

「オーライ、オーライ――よーし良いぞ!!」


 場所は通照達が暮らす荒くれ者達の街の近傍。

 土地と土地が裂け、多くの海水が流れ込むことで川となったその場所で十数人の男達が魚を獲っていた。

 遥か下の海水まで伸びる巨大なタモ網は複数の素材を繋げて作り上げた品であり、繋ぎ目部分には金属を使った溶接が用いられている。金属を溶かす高温を用意するにはただ焚火をするだけでは足りず、趣味レベルであっても溶接をしていた人間が偶然居たことで初めてこの網は完成した。

 とはいえ、金属部分は繋ぎ目だけだ。それ以外は既存と変わらず、よって使い過ぎれば網は破れて竿の部分も折れてしまう。

 彼等が用いている網もそれは一緒だ。元は白かった網は汚れに汚れ、竿部分も黒く変色している。

 

 それを左右に揺らしながら川に突き刺し、数秒待った後に一気に持ち上げた。

 網の内部に居る魚は元の川に戻ろうと暴れ、太陽の下で銀の鱗を反射させている。その輝きは一喜の世界とも同じで、しかしサイズは明らかに普通ではなかった。

 地面にまで運ばれた魚はその場で血抜きが行われ、その手際は実に鮮やかだ。元は初心者だったであろう集団は魚の可食部を学び、血抜きが終わった直ぐに部位ごとに解体が行われている。

 刃物も普段使いのナイフではない。解体用の包丁に刃毀れは少なく、これを大事にしていることは明らかだった。


「取り敢えずは十匹もあれば良いか。 通照さんの頼み通り、後はこれを箱に詰めれば良いんだな?」


 現場の監督をしているのは一喜と会話をした体躯の恵まれた男だ。

 彼の指示によって全てが順調に進み、手早く発砲スチロールの箱に解体された魚達が収められていく。

 流石に氷による保管は不可能なのでこの後は一喜の手による高速輸送となり、世良と十黄は彼に背負われる形で帰還をする予定だ。

 今回の接触でいきなり複数名の人間を街まで誘導することはしない。通照も先ずは魚による友好的な繋がりを明確なものにしようと判断して、一喜達に対する攻撃禁止令をより強いものにした。

 

「ああ、それで何の問題も無ければそちらに協力すると約束しよう」


「あいよ。 ……しかし、まぁそう簡単に上手くいくもんかねぇ」


 男は髪の無い頭部を叩きつつ、一喜達に向ける視線の数々に目をやる。

 それだけで大多数の者は視線を逸らすが、中には男に見られていると解った上で一喜を見やるタフな者も居た。

 言うまでもなく、そうしているのは荒くれ者の中でも短気な集団だ。

 元々略奪を完全に否定せず、寧ろ物資を増やす為にと許容していた為にこの街の精神的な治安は悪化の一途を辿っていた。

 奴隷という餌や通照が居たからこそ今はまだ分裂してはいないが、悪人が善人よりも統制が難しいのが世の常。

 それが何の政治的知識の無い通照であれば、悪人が裏で何をしているのかを知ることは出来なかっただろう。


 この街の頂点は通照だ。しかし、通照の尽力だけで全てが纏まっているのではない。

 餌を与え、そして彼に共感した者が治安維持のような仕事を熟していたからこそ決定的な分裂が未だ発生していない。

 此処は通照と彼の同士によって一応の均衡を保っていたのである。それを余所者で、しかも初対面の相手と組んだことが知られれば住民達が不安になるのも必然。

 そして周囲が不穏となれば、悪人達にとっては事を起こす絶好の機会となる。

 視線の数々に込められた感情は実に彼等の今を露にしていた。

 明日に対する期待と、現在の崩壊に対する不信。

 これを信用に変えるには結果を残すしかない。特に短気な者程早くにだ。

 故に男は、一喜が周囲を黙らせる程の結果を出せるのかが不安だった。


「此処の連中はお前さん達が想像しているよりも厄介だぞ。 一週間も待っちゃくれねぇかもな」


「そりゃまた、随分なことで」


「明日の朝日を拝めるかどうかも定かじゃねぇ状態だ。 食があるから他所よりマシと抑えているだけで、万が一その食が消えれば一斉に世紀末の脳筋に逆行だろうよ」


 男の言葉には確信があった。

 頭の良い人間はこの世界では長く生きれない。善良な人間もまた然り。

 本当に生き残れる人間は、他者を欺いて蹴り落とすことを上等と笑える人間だ。そして此処には、そんな人間の方が多く存在している。

 まともな倫理観など期待するだけ無駄。嘗ての法律では最早この荒くれ集団を完全に抑え込むことは不可能だ。

 一度だけではない説明に、一喜は解っているさと首肯する。

 なればこそ、一喜は瀕死の者達を助ける真似をしなかった。通照も助けることを放棄した。


「なら先ずは食い物で結果を示すさ。 それで次は服だとか言ったら服の方を持ってきてやる。 最後に住む場所を与えて仕事もあれば、何かを始める切っ掛けになるだろ?」


「仕事? ……こんな集団に一体何をさせるつもりだ」


「まだ俺の中で考えていただけの内容だよ。 他の連中とも話し合わなきゃならないし、絶対にそれが叶えられる保証も無い。 ま、仕事に関しては運が良ければってことで」


 一喜は努めて自然な態度だ。

 緊張するでもなく、支配者として上から命じるでもない。出来る範囲を伝えて、その上で新しい何かを皆で決めようとする様は通照の行う統治とは別だった。

 けれどもと、男は一喜の傍で魚の様子を見守っている世良と十黄を見る。

 特に命令してはいない筈なのに、彼等は常に一喜の傍に居た。銃があればこの辺を歩いていても荒くれ者に負けることは中々ないし、一喜の仲間だと知っている者はそう簡単に手を出そうとは思わない。

 奴隷との件も含めれば、どんな報復を下されるかも解らないのだ。

 故に二人がこの中を自由に散策しても文句は言えない。情報を取り放題なのである。

 けれど、彼等は情報よりも一喜を常に優先していた。何かを集めるのではなく、誰かを守ることを二人は気にして行動している。

 

 それは利害関係によって出来ているモノではない。もっと純粋な、通照と男の間にある仲間としての関係が伺えた。

 一喜は通照とは異なる支配を作り上げ、そこに住まう者達は彼に不快な感情を抱いていない。

 そしてもし、彼等のベースでもこれがデフォルトであったならば――――それは嘗ての暮らしに酷く近いのではないだろうか。

 最悪を知る男にとって期待と希望は恐怖の対象だ。

 望んで手を伸ばした先にあったのが正反対の結果であれば、ただでさえ今感じている絶望が深くなる。

 通照が居るからこそ耐え忍べてはいるものの、男の脳裏には常に限界の二字が浮かんでは濃くなっていた。


「……いいか、これだけは言っておく」


 一喜の言葉に男は沈黙し、暫くの後に淡々と言葉を紡ぐ。

 

「アンタが最終的にどんな方法で協力するかは知らない。 俺達をどんな風に使うかも二人で決めれば良い。 ――だが」


 絶望は誰だってしたくはない。絶望した先には逃避しかないのだから。

 逃げて逃げて逃げ続けて、最後に死ぬような未来が訪れては一体何の為にこれまで足掻いていたのか。

 化物の腹を満たしていたのだ。なれば、もっと光ある未来があってもいいではないか。

 これは予防線である。同時に、その裏には男なりの期待が存在している。

 光を。明日を。何よりも――希望を。


「裏切るなら殺す。 何を犠牲にしてもだ」


 静かな声に秘める激情。それを一喜は直ぐに察した。

 自分は大きな大きなモノを背負い、その荷物が無くなることは生涯に渡ってないだろうとも再度実感させられた。

 責任なんて一喜は望んではいない。それでも解り切っていたモノを背負ったのは、そうしなければ生きていけないからだ。

 やりたくなくても、それが明日に繋がるならやらなければならない。

 誰しもがしたいことをするだけで生活出来る訳ではないのだ。寧ろそれが出来る人間は圧倒的に少ないだろう。


「怖いな。 期待は裏切らないようにしないと」


 胃に重たいものを感じた。それをおくびにも出さず、彼は自身の不満を全て苦笑で隠した。

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