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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百四十八話】その男、搾取を知る

 人身売買。

 現代に近付く程に規制が厳しくなり、しかし形を変えて今も続く悪しき行為だ。

 性的奉仕の強制、過酷な労働、改善されない低待遇。

 社会人の中にも社畜として奴隷のように使われる人間が居て、借金をせねば生きられない者が悪人に利用される形で犯罪行為の駒にされていた。

 通照が語る人身売買集団とは、即ち子供の売買を行う者達。

 大人を商品とはせずに孤児を集め、そしてその手の興味が尽きない輩へと販売することで欲しい品を手に入れる。

 今の時代では性的な奉仕よりも重労働が何より求められ、なるべく自身が安全な場所で不自由しない生活を送る為にと子供の奴隷は買われていたようだ。

 それを聞き、一喜としても眉間に皺が寄ることを隠せない。

 正義の味方云々は置いておくにせよ、本人の意思を無視して自身の好きなように他人の人生を振り回す行為は外道だ。


 特に一喜本人にとっては地雷も地雷である。社会人だった頃の理不尽を思い出せば、腹の底から湧き上がる憤怒は胸の内から溢れ出た。

 瞳の黒が嚇怒の赤に染まっていき、雰囲気が一変する一喜の様子に奴隷となった男女は急いで土下座の形を取る。

 必死になって彼と視線を合わせない為に頭を下げ続けて、そうすることでしか怒りを収めさせる術を知らない奴隷達に話を聞いた世良も十黄も冷めた目を向けるだけ。

 二人もまた大人とは言い難い年齢だ。奴隷になる前の彼等と遭遇していれば捕まっていたかもしれないと考えると、自然と銃を持つ手も強くなった。


「子供達はどうなった」


「助けられる奴は助けて此処に住まわせている。 他に行く宛ても無かったしな。 だが、間に合わなかった子も多い。 特に一番キツかったのは……身も心もボロボロになっていた女の子に殺してくれと頼まれた時だ」


 通照の脳裏には白濁駅に塗れて手足を血だらけにした少女が過る。

 服はほぼ布を巻き付けただけの状態で、きっと巻き付ける前までは衣服としての機能を有していたのだろう。

 それを破られて性的暴行を受け、傍には破れの目立つ空色の籠があった。

 恐らくではあれど、彼女は食料探しを命じられていたのだろう。手足を傷だらけにしながらも死に物狂いで食べ物を探して、その最中に悪漢に襲われた。

 人として在るべき尊厳の全てを奪われ、このまま何も手に出来ずに帰っても叱責や体罰が待ち受けているだけ。

 既に彼女の人生に先は無く、故に安否を確認した通照に殺してくれることを願った。自分で死ぬことが怖過ぎて。

 

 それは何と哀れなことだろうか。未来に瞳を輝かせる子供が大人よりも悲惨な目に合って、搾取の果てで死んでいく。

 嘗て善良な者は言った。国が続いていく為には、希望を胸に前へと一歩を踏み出せる若人が必要であると。

 今のこの国にそんなものは無い。あるのは搾取に次ぐ搾取だけだ。

 奴隷となった者達の前に一喜は足を動かす。確かな動きに揺らぎは無く、それが無意識の行動ではないのは誰の目にも明らかだ。

 そして頭を垂れ続ける中年の男の前まで着いた時、彼は腰を落してその後頭部に視線を向けた。

 

「頭を上げろ」


 言葉に――全員の総毛が立つ。

 それなりの修羅場を潜り抜けた通照であっても、今この瞬間の彼には何も言えない。 

 怒りだ。全身から溢れ出る嚇怒は憎悪に等しく、黒々とした感情にはマグマが如き熱が孕んでいる。

 自身に向けられた訳でもないのに世良は両腕を擦った。彼は化け物ではないと解っているのに、その脳が一喜を化け物として認識しようとしている。

 これが義憤であると解っていても、桁の違う憤激は容易に不安を煽るものだ。ましてやそれが、全体の全ての支配権を有している者が発しているのであれば。

 何が起こるか解らない。見ていることしか許されない。止めに入った時、彼の目をまともに直視することが出来るかは十黄には疑問だった。


 声を掛けられた中年の男は震えながら頭を上げない。

 命令が聞こえていない訳ではないだろうが、恐怖に支配された肉体は脳が発する命令の全てを拒絶した。

 生存本能が全力で直視を避けようとしている。何としてでもこの土下座によって命だけでも助けてもうおうと懇願の姿勢を崩さず、されど一喜に対する態度として不適切だ。

 瞬間、男の頭が強制的に持ち上げられる。荒れ放題の黒髪が引っ張られ、無理矢理に引き抜かれていく痛みを男は感じた。

 

「――――ぃひぁ」


 持ち上がった顔面が、瞳が、一喜と相対する。

 その目を見て、男は喉から絞り出すように悲鳴を上げた。声量は決して大きくはなかったが、万人に恐怖を刻み付けるには十分な威力が声には宿っている。

 一喜の目は黒かった。希望的明りが一つも無い、陳腐な表現ではあるが底の無い闇のようだ。

 全てを飲み込み、飲み込まれたが最後逃げ出せない。

 何も無い暗黒の世界で無様に蠢きながら死ぬことを強制される自身を男は幻視し、股から汁を零していく。 

 それでも一喜の顔に変化は無い。無表情のまま淡々とただ言葉を紡ぎ、それが更に男の恐怖心を煽った。


「お前、何人売った」


「……ご、ごに、五人」


「年齢は」


「六歳と……ッ八歳と、え、ええと――」


「後悔は無かったのか?」


 男の言葉を遮るように一喜は次の質問を放つ。

 人数など大した問題ではなかった。年齢についても然程重視していない。一喜がこの質問をしたのは、一重に最後の質問で男の反応を伺う為。

 そして男は恐怖の宿る目の中に僅かな困惑を抱いた。それが全ての答えであり、彼等にとっての真実なのだ。

 そうかと、一喜は顎から手を離す。

 男は解放感からか一気に涙と鼻水を流して四つん這いで逃げ、けれど鎖によって遠くにまで行くことは叶わない。

 その姿を一喜は見ることもせず、通照に顔を向けた。


「この奴隷は解放することにしよう」


「……それは、つまり」


「ああ、彼等には自分の足だけで生きてもらおうじゃないか。 サンドバッグにするには少々見苦しい」


 一喜の提案は、話を聞いていた奴隷達の心中に僅かな希望を灯した。

 殴られ、犯され、時には殺され。この集団に住まう者達によって明日を拝めるかどうかすらも定かではなかったが、解放されれば遠くに向かうことは出来る。

 この集団と再度遭遇しない為に遥か彼方まで移動すれば、また人身売買で生活基盤を築くことは十分に可能だ。

 如何に性欲の薄くなった世界でも、何の力も持たない子供には需要がある。

 作業の面においても、ストレスの捌け口の面においても。それらを提供し続ける限り、奴隷達の未来は安穏としたものになるのだ。

 最初は中々客を見つけられないかもしれない。だけど大丈夫、自由に生きられるのならば何も問題は――――


「彼等を解放した先で何が起きたとしても俺達は関与しない。 お前も無視しておけよ」


「ああ、ああ、解ってるって。 俺は何も言わないさ」


 ――そんな希望は、二人の言葉で一気に潰えた。

 不穏の漂う会話は実に奴隷達に都合が良いように感じるが、それを聞いてから不安を抱かずにはいられない。

 自分達は本当に自由なのだろうか。自分達は本当に開放されるのだろうか。

 何故、周りで様子を伺っている者達はニヤついた顔をしているのだろう。

 そんな解り易い反応にすら鈍くなった頭しか持たない彼等は核心に至れず、通照と一喜達が去っていく姿を眺めるしか出来なかった。

 真に彼等がすべきだったのは、真摯な謝罪だったのだ。それが出来れば、まだ一喜は温情を与えていたかもしれない。

 

 外道を悪だと断じ切れない彼等の周りに次々と人が集まっていく。

 その顔が粘着質で不気味なものばかりな事実に奴隷達は恐怖を覚えていくも、それらは全て後の祭り。

 因果応報、搾取には搾取を。鎖を外していくとある男の顔は、珍しく清々しい笑みに彩られていた。

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