【第百四十二話】その男達、遂に接触する
世良を休ませ、後の流れを世良抜きで二人は決めた。
そして起きた際には三人でリュック内の三分一の食料を消費し、それらを背負いながら一喜が世良に流れを説明していく。
話をしながら一喜は腰にベルトを装着。二人も腰にある銃を手に持ち、最後にリュックを背負って頷き合う。
三人は特に設定を用意することはしなかった。
したところで露見の際に信用度を落すであろうし、誠意の無い者達に彼等がまともに取り合う可能性は低い。
戦闘をしない確率は限りなく零ではある。その際に戦うのは世良と十黄であり、彼等が銃で脅してなお大集団で戦闘を望むのであれば一喜がリュック内から取り出した武器を使うつもりである。
「例の武器、威力はどのくらいなんだ」
「ただ振るだけならやたら切れ味の良い剣ってだけだ。 カードを使ったら……まぁ、最小枚数で連中の住む場所が地図から消えるだろうな」
「最早兵器じゃないか……」
世良の呆れ混じりの声に一喜は苦笑する。
リュック横には物を吊り下げられるカラビナが追加で取り付けられ、そこに一本の明らかに周囲とは異なる雰囲気の剣がぶら下がって揺れている。
剥き出しの刀身は鈍色を放ち、両刃の間には黒い一本の棒のようなパーツが挟まっていた。
柄の部分も黒い。飾り気の無い無骨一辺倒な柄の根本には銃のトリガーと思わしき引き金が付けられ、これが剣としてだけの物ではないことを明瞭にしていた。
そして、最も特徴的なのは鍔の部分から上下に伸びた長方形の箱だ。側面から見るとスリットが一本存在しているのが世良と十黄の目にも見える。
「当たり前のようにポンと持ってきているけど、普通に考えたら決戦兵器を人間同士の争いで使おうとしているからな。 個人的にもっとマシなのはなかったのかと思っているんだが」
「残念ながらこれが一番弱い。何せ着装しなくても剣は振るえるからな」
「てことはなにかい、後は全部これより酷いのかい?」
「一番酷いのは一撃で地図の書き換えが必要になる」
「……」
二人が絶句した気配に、まぁそうだろうなと内心で一喜も首肯した。
件の剣――ガン・ヴァルブレイブは物語初期の武装だ。序盤から終盤までこの武器は使われはしたが、劇中の台詞曰く一般兵装の範囲に収まっている。
カードの読み込みは三枚まで。全力で放ったら周辺被害はとんでもないことになり、実際にメタルヴァンガードが始まった際に最初に視聴者が見るのは超高速で建物が直っていく光景だ。
あの世界の人間が慣れているから一般兵装と言われるだけで、此方では決戦に使われる武器だと判断されても仕方がない。
いや、一喜の世界でも危険過ぎる武器だ。こんなものが十本もニ十本も存在したら生活のライフラインどころか首都も含めた重大な土地を纏めて吹き飛ばせてしまう。
そうなれば、生活が元通りになるまでに何年の時間が掛かるか。少し想像するに、十年程度では直らないと彼は確信していた。
「なんというか……」
「言うな、世良。 気持ちは一緒だ」
二人からすれば一撃で地形が変わる武器など想像が出来ない。
如何に怪物が居たとしても彼等が齎した被害は一瞬で出来上がった訳ではなく、長く戦った果てに出来上がったモノだ。
それを極短時間で成し遂げてしまえるのであれば、それはもう歴史の教科書に登場する核爆弾に相当しかねない。
純粋な火力では核に軍配は上がるだろうが、さりとて被害という単語は威力だけで語れる話でもないのは様々な兵器が証明している。
長く大きく人類の生活を脅かすのならば極論として一緒だろう。
二人は半歩一喜から距離を取った。そんな程度で安全圏に脱することなど出来ないのに、間近にある剣があまりに恐ろしく見えたからだ。
世良からすればそんな物を当たり前のように吊り下げておくなと言いたい。万が一抜き身の刃が肌に接触すれば四肢の何処かが斬り落とされてしまいそうだ。
その危惧は当然ながら十黄も持っていて、一喜は二人の対応に困ったような顔をするだけだった。
「さぁ、そろそろ行くか」
若干空気がおかしな方向に行きかけたが、一喜は言葉で修正した。
三人は揃って建物から出て、物陰に隠れることも無しに堂々と道を進む。
異世界の街の外を歩く経験は一喜には無い。今回の移動が初めてであり、故に外の荒廃具合もここで初めて知ることになった。
だが、まだ街の近くにあったお蔭か荒廃度もあまり変わらず、精々店が見当たらないくらいの違いしかない。
窓ガラスが殆ど割れている光景も見慣れたもので、歩いていても特に緊張を覚えることもなかった。
普段通りの道を歩いている。一喜としては正にそのような気持ちで、実際この付近にもキャンプに住まう人間が来ていたのは世良達の話から明らかだ。
耳には川の流れる音が聞こえる。
激しさの無い穏やかな音は精神を落ち着かせてくれ、環境汚染を意図的に行わなければ魚達にとっては通り易いだろう。
そうであるからこそ態々網を展開させているのだ。魚を効率的に集めることが出来れば、それだけで生活する上で圧倒的な優位を取れる。
他の誰しもが涎を流しながら求めた食い物を安定的に手に入れられる土地など、飢餓に襲われている者には天国にも見えていた筈だ。
負の集積地として、あの地点は酷く都合が良かった。大小様々な悪感情を集めることが出来れば、それだけで怪物達が御目溢しする理由になる。
「見えてきたぞ」
音を立てずに歩き、数分の後に十黄が静かに告げる。
建物と建物に隠れる形で人の姿が見えた。今度は上からではないので彼等の姿が大きく見えているも、やはり基本的に優し気な表情はしていない。
壁が無いことで表面的な生活風景も確認することが出来て、それは必然的に相手が此方を視認することも可能になったということになる。
普段からあまり動く者を見ないが故に、僅かでも動く何かを捉えれば――彼等は一斉にそちらに顔を向けた。
多数の視線が一喜達三人に注がれる。
自身の顔面が強張っていく感覚を掴みつつ、それでも三人は止まるのではなく前へと進んだ。
「そこで止まれ」
木片が一喜達の眼前に投げ込まれる。
軽い音と共に木片は地面を転がり、投げた張本人である体格の逞しい男は鋭い眼差しで睨む。
腰に差していたナイフが抜かれ、それを淀みの無い仕草で向けた。
男の姿を見てか、更に複数の男女が集まって来る。駆け寄る真似はせず、彼等は各々武器を手にして余裕の表情を浮かべた。
「へい、小僧共。 こんな場所に何の用だ?」
「難民かい? ――いいや、それっぽい身形じゃないね」
「兄貴! 銃を持ってますぜ!!」
背の低い男はナイフを向ける男に喜びに満ち溢れた声を出す。
彼等の中に遠距離武器に相当する得物は無かった。刃物の類もナイフ系ばかりで、純粋な剣と呼べる物はない。
身の回りの品や略奪品で揃えたであろう武器は碌に手入れもされておらず、背の低い男が持っている包丁も刃毀れが目立った。
兄貴と呼ばれた男は、そんな小男の言葉を受けても表情を変えない。
油断無く、隙無く、彼は一人の人物に意識を集中させている。――――ただ一喜だけを見やる目には、他とは異なる感情が籠っていた。
「もう一度言うぜ。 こんな場所に何の用だ?」
「……話をしたい」
「話? 何のだ」
「お前達が占領している網についてだ」
一喜の力強い言葉を聞いて小男は口笛を吹く。
女の一人はにやにやと今にも吹き出しそうな顔を必死に押し留め、他の者達もこの二人と似たり寄ったりの言葉を胸に抱く。
――即ち、馬鹿がのこのこ歩いて来やがった。
「なんだ、魚が欲しいのか?」
「そうだ。 なるべくなら穏便な形で、な」
「そうか、そいつぁ……無理な話だ」
瞬間、集まった一部の者達が走り始めた。




