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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百三十九話】その男達、蛮族を知る

「そろそろ交代だが……どうかしたのか?」


 八時間の時が流れ、下の階で身体を休んでいた十黄が屋上に出る。

 腹這いの姿勢を変えて最早胡坐を掻いている一喜の後ろ姿を見て声を掛けるが、振り返った一喜の表情に困惑した。

 眉を顰め、心底に不快を感じていますと言わんばかりの顔は最初に来た際と比較してあまりにも異なっている。

 二人が休んでいる間に何かとんでもないものを見たのか。

 気になった十黄は純粋に疑問の声を上げ、問われた本人は片手で黒い双眼鏡を振った。

 これを見ろと言われているのは明らか。十黄は彼のそんな姿に嫌な予感すら覚え始め、恐る恐る双眼鏡を受け取って覗き込んだ。


「少し前からだ」


 一喜の声が耳に入る。拡大された遠くの景色には男女合わせて三十人を超える人間が集まり、円の形になっていた。

 中心には首輪を付けられた奴隷が五人。十黄が見ている時点で彼等は各々倒れ伏し、とてもではないが寝ているようには見えない。

 奴隷達の周りには血が飛び散り、一人の奴隷は右足と左腕が不自然な方向に折れてしまっている。

 そんな奴隷の背中に円の中から進み出た一人の男が何の躊躇いも無しに踏み付けた。

 男の顔は喜悦に歪んでいる。片手には鮮血に塗れたバットが握られ、その男が直接暴力に関与したのは明らかだ。

 

 そして、バットを握った男は上へと振り上げ――一気に振り落とす。

 狙いは踏み付けた者の頭蓋。弱っている奴隷に逃げる術は無く、また逃げろと別の誰かが言い切る時間も無かった。

 遠くからは聞こえずともバットは頭蓋に叩き付けられる。

 頭蓋はバットの形に変形し、骨を砕いて脳に致命的なダメージを与えた。頭部の穴という穴からは夥しい血が新たに流れ出て、暫く身体を痙攣させて力尽きた。

 男が喜びの声を上げる。見ていた者達もまた、腕を上げて男のように歓喜していた。

 人が死ぬ瞬間を娯楽のように楽しんでいる。嘗て娯楽に飢えた者が剣闘士同士の戦いに楽しみを覚えたように。

 悍ましく、怖ろしく、狂気的な様がそこには存在していた。


「……」


 彼等が喜ぶ様を見ていた十黄はゆっくりと双眼鏡を降ろし、一喜に返す。

 その表情は一喜同様に不快感に歪み、あるいは死に逝く者達の理不尽に対して明確な怒りを露にしていた。

 あれはなんだ。あれは本当に、己と同じ人間なのか。

 キャンプの人間にも荒くれ集団は居た。彼等も他者の嘆きに悦を覚える外道で、実際に不幸に陥れた回数も数えきれない。

 けれども、それはまだ人間の範疇だったのだ。十黄達が見て来た出来事の数々は外道の言葉で締め括ることが出来て、だからこそ遠くの者達が信じられない。

 

「一喜、なぁ一喜」


「……言わんとしていることは解る」


 十黄が何を言いたいのか。そんなことは一喜には解り切っている。

 これを見てなお、お前は話したいと思うのか。話し合いに連中が参加してくれると思っているのか。

 彼等にまともな理性は無い。あったとしても、その理性を残虐に染め上げることを良しとしている。

 一喜達とは真逆の立ち位置に居るのだから意見が合う筈も無し。監視を始めてまだたったの八時間であれど、もう殲滅に舵を切った方が理性的だろう。

 

「俺は反対だ。 最初から反対ではあったが、余計にあいつらと関わり合うのはごめんだよ。 奴隷達は気の毒だとは思うが」


「尤もな話だ。 俺も今揺れてる」


 十黄が正論であるのは百も承知。

 一喜とてそうするのが一番手っ取り早く済ませることが出来て、上手く立ち回れば奴隷達がこっちの面子に加わってくれる可能性も高い。

 この監視の目的が何なのかを考えれば、ああも暴力的に過ぎる連中は邪魔だ。今後の組織作りの為にも不穏な要素を周囲に残したくはない。

 けれども、まだ始まって八時間だ。予定の二十四時間は経過していない。せめてそれくらいは見ても良い。

 どだい、奴隷達の運命は既に決定付けられている。死に体になっている身体では明日を拝むことも出来ないだろう。

 

「十黄、せめてこの監視だけはしてくれないか。 一日の中で更に何か変わる要素が無ければ、話し合いをせずに占領を目指す」


「……解った」


 一喜の判断は遅い。遅いが慎重ではある。

 十黄としても今は痛手となる要素が無い。奴隷の被害を無視すれば、彼が首を横に振る理由は存在しなかった。

 大事なのはあの街に居る皆だ。誰も彼もを救えない現在において、取捨選択はシビアに行っていかねばならない。

 言うべき事を全て言い切って、一喜は屋上から下へと降りていった。

 その後ろ姿を十黄は静かに見つめ、はぁと息を吐く。

 一喜達が集めた物資の山から入手した双眼鏡を手にして監視を始め、奴隷が無慈悲に殺されていく様子を歯噛みしながら思考を回す。

 

 自分がメタルヴァンガードを使えたのならば。

 真っ先に浮かぶのは最速の解決手段だ。あの怪物を倒す兵器を用いれば、如何なる巨悪も倒すことが出来る。

 一喜はあれを最強とは考えてはいなかったが、十黄には核を超えた救世の力であると確信していた。

 理不尽を破壊し、理を無視し、人々に笑顔を齎せる最善の力。

 使用者が限定されている部分も意図的に悪人を排除しているように見え、実際の運用方法も極めて善性のものだった。

 

「俺にあれが使えれば……」


 十黄があれを使えるのかは依然として試していない。

 試して失敗した際の保険が無い現状では迂闊にベルトは使えず、かといって一喜は容易に戦力を増やすような真似はしなかった。

 元の世界に帰れるのであれば保険を準備することも出来るだろうに、彼は意図的にこの世界の人間にベルトを使わせないようにしている。

 それが打算的な理由かそうでないかは定かではないが、十黄本人としては保険を用意してくれないのであれば無いままやってくれないかと今も心の底から抱いている。

 例え失敗したとしても彼は一喜の責任にするつもりは無く、他が責めれば逆にそっちに対して十黄は責めるだろう。

 戦いたいから選んだのだ。ただ生きていきたかったら選ばずに離れれば良いだけである。


 静かに時間は流れていく。

 無慈悲な虐殺が終わった後に死体は彼等の居住地の外へと投げ捨てられ、石同士を擦り合わせて起こした火で焼かれる。

 数人の男達は手で風を起こして火の勢いを上げていき、そう遠くない内に死体は全て炭となって地面に残されるのだろう。

 燃やしている際の男達の表情は先程とは打って変わって静かなものだ。鎮魂とは無縁な所業をしていたにも関わらず、全てが終わった後に祈るような仕草をする者も居る。


「何やってんだアイツ等……」


 一連の流れには違和感が多い。

 部族的な生活をする者達の中でも死者を送る独自の作法はあるが、そもそもからして連中は最初から部族の人間ではない。

 元はただの一般人で、単に素行がよろしくないだけだ。作法などという行儀の良い真似など覚えている筈も無いが故に、祈るなんてことも本来なら頭に浮かぶ訳もなかった。

 けれど、一部とはいえ祈る者が居る。自分達がやったクセに。

 チグハグな印象を覚えるのは当然だろう。最早そこに住まう全員がサイコパスなのではないかと疑いたくなって、しかしそれでは思考停止だと監視の目を鋭くさせていく。

 

 彼等の食事。

 彼等の娯楽。

 彼等の悲劇。

 魚を焼いて塩や胡椒を塗して食い、土で汚れたボールでバスケやサッカーをして、外から新たに現れた者達が怪我をしている様子に悲鳴を上げる。

 十黄は最後の部分に意識を向けた。

 互いに肩を組んで歩く男や、足を引き摺る女、そして何か縦に長いモノが入ったズタ袋を引き摺って運ぶ者達。

 彼等が外から現れて、警戒されずに中に入れたことから顔見知りであるのは間違いない。そして悲鳴を上げられることから、サイコパスめいた者の中にもまともな感性を未だ有している人間が居ることを理解させられる。

 焚火が多く設置されていた広場のような空間にズタ袋が三つ並び、近くで怪我人が腰を落して疲れ切った表情をしていた。


 彼等が怪我をしていた原因は不明だが、襲われるに足る理由はいくらでも想像出来る。

 怨恨による報復か、或いは略奪に赴いて逆撃を食らったか。

 素行が悪いだけで技術があるような集団ではないのだ。確りと対策されれば考え無しの者達は途端に不利に陥る。

 ズタ袋の周りには多くの人間が集まっていた。場が一気に緊迫に包まれ、騒ぎが拡大していく予感を十黄は覚える。

 ――その時、一人の男がゆっくりと十黄から見て奥から姿を現した。

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