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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百三十一話】その男達、原動力の深さを知る

「却下だ」


 沢田の用件に一喜は即座に否を突き返した。

 望愛は無言で首肯し、言った側の沢田もそれはそうでしょうと内心で頷く。

 綱吉と一喜の関係は良好どころか最悪だ。特に沢田と一喜は一瞬とはいえ戦闘もしている。

 肉体的な性能は沢田の方が上であるが、こと異世界での戦いとなると現状では彼女は逆立ちしたとて倒せない。

 そして先の一瞬で、一喜の感知能力が飛躍的に向上しているのを沢田は知った。

 何年もの鍛錬過程を全て省略して身に付けている姿は異世界での経験の濃さを物語り、何れ追い越されるだろうと考えずにはいられない。

 勿論、そのような態度はおくびにも出さないつもりであるが、他者の機微に聡い望愛が勘付かないとも限らない。

 不安な感情を察知されては相手に利用されるだけだ。故に沢田は早々に本題を告げ、彼等の意識をそこに繋げた。


「俺達はあの夜にもう会わないと決めた筈だが?」


「はい。 それは今も我々の共通認識でございます」


 異世界で一喜達は決まりを作った。

 望愛に干渉しない。此方に干渉しない。もしも手を出して来るのであれば、あの会社から糸口一家を追放させる。

 大きな会社には敵が多い。内部も一枚岩とは言えず、大小様々な派閥が損益計算をしながら日々生活している。

 小さな不祥事ですらも利用次第では大きな手札となるのだから、現状頂点に君臨している望愛の身内は僅かな隙すら見せたくないだろう。

 その上で接触するとなれば、何か理由があると考えるのが自然。接触者が沢田一人であることを考慮すると、望愛と綱吉の両親の線は薄い。


「……あの男に何か起きたか」


「正確には我慢の限界に達したと表現するのが正しいかと」


「我慢?」


 彼の疑問の声に沢田は解り易く疲れた息を吐いた。

 

「綱吉様は、なんと言いますか。 常に全力を出せるような御方ではありません」


「? それは、まぁ誰だってそうだろ」


 対面に座る女の当たり前の言葉に一喜は首を傾げる。

 人が全力を出せる時間は長くない。後々の疲労を無視すればいくらか稼働時間は伸びるとはいえ、基本的には一日は有り得ない。

 だが、そんなことは沢田としても解っている。解っている上でそういった常識的な話をしている訳ではないと告げた。

 

「あの方が全力を出すには条件があります。 ――それは家族の、お嬢様の為です」


「私の為?」


 今度は望愛が首を傾げた。

 記憶を思い返す限り、兄が積極的に会う家族は妹である自分だけだ。父親と母親が家に居る間は帰らずにホテルを使うし、時間があれば両親が居る家から望愛を連れ出して一緒に食事や買い物をすることもあった。

 昔日の兄は少なくとも、望愛を最も重視していたのは間違いない。或いは今も彼は望愛を重視していると沢田の発言から思うべきだろう。

 しかし、それが彼の本気を引き出すことに繋がると考えることは望愛には出来なかった。

 多少は団欒によって癒しを与えることは出来たとしても、望愛の知る綱吉とは優秀な人間だ。

 

 でなければ両親の傀儡になっていて、親達が経営の座から退いた後も影響され続けていた。

 彼は彼の考えで間違っていることに合理的に否を突き付け、結果でもって今もきっと両親達に能力を証明しているだろう。

 間違ってもそこに余裕があるとは思わない。綱吉は仕事に対して油断ならぬ姿勢で挑んでいた筈だ。――――故に、そこまで自分が深く影響を及ぼしているとは望愛には解っていなかった。

 

「あの方にとっての家族とはお嬢様だけです。 社長でも、夫人でもありません。 ……お嬢様は綱吉様があの御二方を嫌悪なされていることは知っている筈でしょう?」


「……まぁ、そうね。 愚痴とかは時々聞いてたから」


 食事の時、部屋で共に過ごしていた時。

 合間合間に漏れる兄の両親に対する嫌悪感は知っていた。知っていて同調もして、だから仲が深まったというのは有る。

 

「今、あの方は見るからに力を落しています。 未だ体裁を整えることは出来ていますが、何れは限界を迎えるでしょう」


 綱吉の行動原理とは、即ち妹の為。

 その妹から拒絶されれば彼には何も無い。家族も、友も、恋人すらも作らなかった生粋のシスコンであるのだから。

 拒絶されても仕方ないことをした自覚は彼にはある。しかし、その根底にあったのは妹に対する心配の念だけだ。例えそれが過干渉の域に入っているとしても、大切な宝物のような妹を守りたいと考えるのは彼にとって自然の道理だった。

 

「異世界の危うい状況もあります。 あのような荒廃した世界ではお嬢様のような存在を傷付ける相手は多く、その全てを大藤様が守れる保証はありません。 その心配もまたあの方の心労に繋がっています」


「…………」


 心配をしてくれている。例えそれが彼女には納得出来ないことでも。

 沢田の言葉に嘘は無かった。迷い無く断言する素振りは本心からのもので、沢田自身も望愛を心配しているのは本人に伝わっている。

 望愛は口を閉ざした。もう会う気が無いとはいえ、それでも少し前までは敬愛すべき唯一の兄だったのだ。

 その兄がそこまで弱っているとなれば、心揺れるのも自然なことではある。

 一喜は冷静に二人のやり取りを眺め、内心で溜息を吐いた。

 ここで彼が強引に話を切り捨てることは出来る。約束した話なのだから、脅迫材料をちらつかせれば望愛の意見を捻じ曲げることも可能だ。

 とはいえそれは、今後の二人の関係に溝を作ることにもなってしまう。

 異世界を知る人間との仲が険悪極まることを一喜は望んでいない。そうなれば情報を何処かに漏らされてしまうと危惧しているが故に。

 

 であれば、望愛が迷いを抱いた時点で沢田の説得は成功だ。同時に、一喜側の敗北である。

 店に入ってから注文していたアイスティーを口に含む。寒々しい季節に冷たい飲み物が喉を通ると殊更にその温度を感じてしまうが、意識をさっぱりさせるのには十分な効果がある。

 ガラスのコップをわざと大袈裟に置くと、二人の意識が一喜に向けられた。

 望愛からは迷いを、沢田からは真剣を。双方揃って一喜の意見を最重要視する姿勢に、彼は誰が見ても解る形で呆れた顔を浮かべた。


「沢田さん。 此方が脅しの材料を持っているのは解っているよな?」


「はい」


「これを材料にして非接触にすることを約束にもした。 所詮は第三者の無い約束だから無視することは出来るが、それが双方の信用問題に発展することは解っている筈だ。 違うか?」


「いいえ、間違っていません。 現時点の状態では我々側が意図して約束を破っていると理解しています」


 指で彼は机を何度も小さく叩く。

 その音は決して大きくはないが、まるで苛立ちを露にしているように沢田には見えただろう。

 望愛は解り易く顔色を青くしていた。これが彼以外であればまだ素面を貫けただろうが、最も大事な彼に失望されるのは耐えられない。

 迷う姿すらもそもそも駄目だったのだと即座に沢田の否定の声を放とうとして、しかしそれより早く一喜が先に口を開けた。


「全て解った上で、それでも会わせたいと。 それは彼への愛情か?」


「恩です。 大藤様が聞けば一笑に付す程度のものでしょうが、私は元々社会的弱者であった頃にあの方に拾われました」


 社会的弱者。その言葉を聞くと、もう一喜にはこれ以上詰められない。

 それは何時だって誰もがなってしまうものだ。能力の良し悪しに関係無く、ただの巡り合わせや運による事故で容易くなる立場だ。

 そんな相手を一喜を必要以上に責められない。負け組という意味では、依然として一喜もそうなのだから。

 ただ静かに、彼はそうかと零す。数秒の時間を置き、一喜の目は望愛に向いた。


「会ってやりな、糸口」

 

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