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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百二十二話】博士、異世界との共通点を見つける

「はむッ……はふはふ……!」


「急がないでください。 別に盗ろうだなんて思いませんから」


 夜闇の公園にライトの光が一筋伸びる。

 下向きに伸びた光は地面を照らし、街灯の一つもない空間で二人の姿を朧気に浮かび上がらせていた。

 深夜になった時刻では建物の明りも無い。個人個人が防犯用のライトを設置していない限り、公園内で何が起きたとしても認識するのは難しいだろう。

 そうであるからか、博士は自身が横になっていたベンチの傍から聞こえた声を完全に無視しておにぎりを胃に流し込んでいた。

 喉が詰まる苦しみすらも博士は無視し、五つあったおにぎりは僅か五分もしない内に呆気なくも姿が消える。腹の虫は随分前から飢えを訴えることはなかったが、それとは別の理由で今の彼の腹は落ち着きを齎していた。

 

「……ふぅ」


「落ち着きましたか?」


「あ……すいません」


 新たに優し気な声を持つ男からペットボトルを差し出され、博士はそこで漸く先程までの自分を思い出して謝罪した。

 その言葉を聞いた男はいえいえと言いつつ、伸ばした博士の手にペットボトルを握らせて自身もレジ袋の中から飲み物を取り出す。

 

「しかし、いや驚きました。 まさかこんな場所で今にも死にそうな人に出会うなんて。 この辺はホームレスも数える程しかいないんですよ」


 優し気な声の男は、博士の目から見ても善性の塊のような顔をしていた。

 ブラウンの髪を伸ばし、それを後ろで一つに纏めている。瞳も同様に茶色を持ち、顔立ちは西洋人風の美形だ。

 博士自身の顔と比較すれば月とスッポンであり、更には身長も高く見えた。

 ベージュのジャケットにジーンズの出で立ちも様になっている。少なくとも女性に困ることはないような姿形をしている男は、人好きのする笑みを浮かべながら博士に対して買ったばかりのコンビニのおにぎりを差し出していた。

 

「……いやぁ、突然仕事をクビになってしまいまして。 身内もおらず、家賃を払う余裕も無く、貯金も底を付いてしまったので宛所なく彷徨っていました」


「……なんといいますか、ご愁傷様です」


「いえ、自業自得です。 こうなる前に打てる手はあった筈なのに何もしなかったのですから。 でもまさか、貴方のような御仁が助けていただけるとは思いませんでした」


 博士自身は異世界云々についてを語らず、職無し金無しの無能男として力の無い笑みを浮かべてみせた。

 カバーストーリーとしては即興も即興だが、彼の現在の状況はそれとあまり変わらない。技術はあっても身分を証明する術が無いのだから働けず、この世界の金など当然持っている訳もない。

 このまま死ぬと覚悟を決め、しかしまさかの善意ある者に助けられた。

 感謝するのは当たり前だ。博士の世界にも善意ある人間は多くいたが、やはり人間の感性とは世界が変わっても大きくは変わらないのだろう。

 見ず知らずの人間を助けるような真似をするのは流石に珍しいものの、嘗ての世界でも別に無かった話ではない。

 本当に優しい人間かまでは定かではないが、博士としては目前の相手の優しさを信じたかった。


「――それにしても、どうして私を助けてくれたのですか? 今の私には何のお礼も出来ませんが……」


「とんでもない。 ただ貴方の姿を偶然見つけて、最初は死体かと思って近付いただけですよ。 生きていると解って安堵しましたが、このまま放置はあまりにも無情だと思いまして」


 眼前の男は首を左右に振って安堵の息を吐いた。

 そこに嘘が含まれている気配は無い。精度が高いとは断言出来ないが、博士には怪物との戦いの記憶がある。悪感情の類には敏感にならざるをえず、お蔭で人間関係でも役に立つことは多かった。

 気配察知とでも言うべきか。兎にも角にも博士にはその手の能力があり、そして眼前の相手が嘘を吐いていないと判断した。

 衰えた筋肉を動かし、おにぎりを食べる際に座っていた体勢のまま深く頭を下げる。

 今の彼に出来る謝礼は言葉を募るだけだ。少なくとも、枕として使っていたアタッシュケースの中身をくれてやることは出来ない。

 捨てられる場所を探しては結局捨てることは出来なかった。どうしても小さな可能性を捨てきれず、結局は枕にして余計に可能性を高めただけである。

 判断を間違えた。それ即ち失敗だ。故に、男の施しは頭を下げる程度では足りないほどの最良の結果である。

 

「本当に、ありがとうございました。 どうお返しをすべきかはまだ解りませんが、この御恩は忘れません」


「ちょ、ちょっと待ってください! 大袈裟ですよ!?」


 頭を下げた博士の頭上から慌てた男の声が静かに響く。

 大声を出す訳にはいかない。何とか潜めつつ、どうすれば事態が落ち着くのかと男は焦りながらも考えている雰囲気を垂れ流す。

 それを察知して博士は頭を上げた。感謝の意を伝えたいのは本当だが、それで相手に過度な迷惑を与えたくはない。

 顔を上げた博士に男は違う理由で安堵の息を吐き、少し眉を吊り上げて怒ったような顔を作った。


「取り敢えず、おにぎりについては気にしないでください。 後、こんな場所で寝るのではなくて――」


 男としては折角助けたのだから助かってもらいたいと思っている。

 だが、博士のカバーストーリーの所為で金が無いことを知ってしまった。住める場所も無く、つまりはホテルのような宿泊施設を使うことも出来ない。

 食事も一緒だ。今回はおにぎりのお蔭で繋げたが、所詮は一時凌ぎ。安全圏に入ったとは到底言えない。

 ならば、おにぎりを渡した行為に何の意味もなかったのか。

 ただ自身の自己満足を満たし、少しでも優越感に浸っていただけだったのか。

 男は言葉を途中で切り、暫し思考を重ねた。それは赤の他人に対してすることではなく、所謂お人好しのする考え方だ。

 

 やがて博士が見ている前で溜息を吐き、後頭部を何度か掻く。

 見捨ててしまえばそれで良いのに、男は罪悪感の所為で見捨てることを良しとはしなかった。

 

「あの、もしよければなんですけど……ウチ来ません?」


「……はい?」


 博士は思わず疑問の声を返す。

 目の前の男が優しい人物なのは先の対応で解った。少なくとも、見ず知らずの相手にも手を差し伸べてくれる聖人君子のような人物だ。

 とはいえ、それで家に招くのは危機意識が低過ぎる。流石に断固拒否すべきだとやんわりと断ろうとして――ブラウンの瞳に力強い光を見た。

 

「私に家族は居ません。 最近父が病気で亡くなりまして、母は私達を捨てて別の人の下に行きました。 ですから、丁度部屋が余ってるんですよ」


 力強い輝きは一般人が持つものではない。

 彼等は危機的状況に陥った訳ではなく、人生の選択についても常識の範囲内に収まっている。

 覚悟を決めて困難な道を選ぶ程には追い詰められておらず、かといって追い詰められた人間が意志を確りと持って未来を歩み出すことは稀だ。

 大多数の者が逃げを頭に浮かべるからこそ、命の輝きには価値が生まれる。

 若い男には輝きがあった。この世界には不釣り合いとも言える、元の世界の隊員達と変わらぬ強き日輪を。

 

「……どうして、そこまで貴方は助けようとするのですか?」


「……」


「助けようとするのは有難い話です。 此方は何時死ぬとも知らぬ身ですから、助けてくれる事実そのものは土下座をして感謝すべきことでしょう。 ですが、それをして貴方に何のメリットがあるというのですか。 少なくとも、私の頭では貴方には何のメリットも無いように見えます」


 この輝きを持つ者はニパターンに別れる。 

 己の意志でもって前へ進むか、ただ純粋に悪を許せぬのか。

 前者であれば決して安心は出来ない。前へ進むとは、つまりその過程で他者を排除する可能性があるからだ。

 博士の確認の意味も込めた言葉に、若い男は数舜だけ思考して――微笑を浮かべた。


「そうですね。 決してこれは善意からだけで出ることはありません。 私は、私自身の手で証明したいことがあるのです」


「証明?」


「ええ。 ……自分が決して、畜生ではないことを」

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