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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百十三話】怪物女、精神的怪物を見る

『なんだお前は……なんだお前は!!』


 叫ぶ。

 身体は空を舞い、しかして怪物特有の余裕は彼女には無い。

 白と黒の翼をはためかせた飛行は全力で、常に武器が現れては待機の時間すらなく一斉に放ち始めた。

 武器の種類は多彩だ。通常の銃から始まり、ミサイルやレーザーといった多様な攻撃が全て眼下に居る相手に撃ち込まれている。

 着弾と同時に周辺の建物は全て破壊され、大地は割れて捲れ返った。

 大量の煙が辺りに広がり、自身に迫るそれを翼のはためきで払った女は――さりとて一瞬の油断もしていない。

 目は限界まで開かれたまま。怒りと、それと同等の驚愕を持って目前の存在と相対している。

 刹那、女の鼓膜を爆音が叩く。

 一筋の弾が彼女の傍を抜け、空の彼方へと消え去った。


『…………』


 口の端が痙攣した。どうしてそんな真似が出来るのかと、戦慄を覚えずにはいられない。

 弾が駆け抜けた道から土煙は消え、その先に居る相手を露にする。

 鈍色の装甲、マッシブな印象を強く与える姿。目も口も鼻もない頭部には巨大な十字が嵌め込まれ、両腕には一門の砲塔が備え付けられている。

 その内の一つ。右腕は女の方に向けられ、今も尚照準は合わされたままだ。

 遠くでは力無く尻餅をついている瑞葉の姿があり、眼前の人物に女とは違う驚愕の眼差しを送っている。

 瞳は語った、どうして貴方がそれを使えているのかと。

 その視線を感じ――メタルヴァンガードへと着装を果たした望愛は焦りも何も無い感情を殺したような表情をマスク内で浮かべている。


 メタルヴァンガード・タイガーフォーム。

 作中に登場するこの姿は、戦艦の次に分厚い装甲と火力を有する姿だ。自身を守り、一般人を守り、その上で自前の火力で対象を駆逐することを前提とした超攻撃的なフォームである。

 彼女がこれを選択したのは、単純に相手の持つ武器の種類が解らなかったからだ。

 もしも下手に速度を重視するフォームになれば、装甲が薄ければ予想外の一撃で一瞬で致命傷を受け兼ねない。

 相手はまだ遊びで此方を殺そうとしているのだ。切った手札など総じて全て弱いものだと考えるのが妥当だろう。


 であればこそ、耐久と攻撃で相手の手札を更に切らせる姿を取った方が良い。

 事前に彼女はメタルヴァンガードの情報を集め、汎用性に優れるカードを一番前にして取り易くしていた。

 そして初めての戦闘を前に、全ての感情を放棄して効率重視となった彼女は淡々と戦ったのだ。

 

『戦車……。 そのカードは確かに奪われていたが、私の知る姿とお前の姿は違う。 一体何をした』


『説明する必要がありますか』


 瞬間、撃音が轟く。

 素の言葉遣いになってしまった女は相手のむべもない態度に苛立ちを覚えつつ、撃撃ではなく回避を選択して高速で移動する。

 悠々と空を飛ぶ相手の姿を見て、望愛は右腕が装填作業をしている間に左腕を動かした。

 十字のバイザーから送られる弾道調整の結果を見つめ、ここと呼ぶべきタイミングで弾を吐き出す。

 一気に加速した砲弾は空を駆ける彼女の顔面の傍を通り、またしても空の彼方へと消えてしまった。


『またか……!』


『ズレる。 いきなり動く的だと厳しいかな』


 空に五百を超える武器群が姿を現す。

 それらの狙いは全て望愛。瑞葉の存在など意識の欠片にも留めず、迅速にこれを潰さなければならないと火力による制圧に乗り出す。

 流石の望愛もそれを真正面から受けるつもりはない。如何に装甲があるとしても受けないに越したことはないのだ。

 足裏に搭載されているキャタピラを動かし、その場から勢いよく離脱していく。女は追いかける形で武器を呼び出しては撃つも、建物の影に隠れることで狙いがうまく定まることはない。

 

『あの力……一人間が持っていてはならぬ力だ。 あの方が危惧を抱くのも今ならば解る』


 攻撃の最中、自身に語るように呟く。

 主の危惧は正しかった。今はまだ正面から戦える程ではないが、成長を続ければ自然と高みにまで登って来る。

 戦車の力は下位のカードの範疇ではなかった。であるならば、使われているカードは上位者達の物と同じ筈。

 彼女は他の上位者が今何処で何をしているのかを殆ど知らない。個人的な繋がりのある数人や人伝で聞くくらいでしか知ることはなく、その中に戦車のアドバンスカードを保持する者は居なかった。

 故に、彼女は違う答えを導き出す。

 既に戦車の上位者は死に、眼前の相手がそのカードを使用しているのだと。

 女が知らない技術を用いて、人間のまま結果を覆せるだけの力を手にしようとしている。

 ――それは決して許されぬことだと、嚇怒の炎を燃やした。


『隠れるのが随分と得意なようだが、まとめて吹き飛ばされればそんなことも出来なくなるだろう?』


 空中に武器を生成。

 今度は銃ではなく、ミサイルを中心とした大量の爆発物が空を覆い隠す。

 相手が此方の攻撃に対して砲撃以外の対処策が無いのは明らか。防御しようとしても物量の前には耐え切れず、隠れる場所を喪失しない為に空中の兵器を破壊しようとしても手札が足りない。

 広域殲滅において女の力は実に強大だ。制限らしい制限が見えない兵器の生成に、威力も建物を吹き飛ばすには十分。

 纏めて一気に放出されれば大多数の人間を殺して、彼等が住む街すらも跡形も残らない。

 破壊の権化とは正にこのこと。そしてそれが今、一人の存在に対して振るわれようとしている。

 

 この街には数は少ないものの人間が居るし、近くには怪物が支配するキャンプもある。

 それらに甚大なダメージを与えることは人間の最大数を減らすことに通じるが、女はこれを全て解った上で主の意向を優先した。

 

『さぁ、死ね』


 言葉と共に数々の兵器が一目散に大地へと落ちる。

 地獄の再現にも等しい殺意の雨。生を諦めるには十分な光景に、見ていることしか出来ない瑞葉は絶望を強く意識させられた。

 終わる。終わる。もう逃げられない。

 安穏とした日々を送りたかった。異世界で少なくとも、脅威に怯えない日々を生きてみたかった。

 折角の機会を手にしたのだ。諦めたくなどなくて、されどどうしたってここから覆せる方法が解らない。

 一喜が居れば、或いは覆せた可能性はある。しかし彼は今此処には居らず、最早今から何かをしても間に合うことはない。

 

 人生の終わりは誰にも予想出来ないと語られるが、こんな終わりを予想することなど瑞葉は想像していなかった。

 まだ一喜に出会う前であれば絶望的な未来をいくらでも考えることが出来た。どんなに足掻いたところで子供だらけの集団が弱いのは事実であるし、実際に荒くれ者が暴力を振るい始めた際の瑞葉に対抗手段は無いままである。

 変わったのは最近だ。本当に最近、少しは希望的な未来を想像することが出来た。その為にリーダーである世良の意志を無視したし、一喜に無理を言おうともしている。

 対価が必要ならば瑞葉は一喜の手足として動くつもりだった。身体を求められれば直ぐに応えるつもりでもあった。

 

 渡せるモノが自分しかなかったから、彼女は奴隷になる覚悟で一喜に頼み事をしようと思っていたのだ。

 それが今日この瞬間に全て無駄になると、一体誰が想像するというのか。

 怪物の女が笑う。何も出来ぬ少女が瞳から輝きを失う。正反対の二人は――――別次元の怪物を知らなかった。


【Non standard. Full Metal Finish!】


 地獄の炎が誕生する、その刹那。

 響き渡る無機質な声と共に極大の赤光が空に向けて放たれる。落下する兵器群を飲み込むように赤光は動き、女は本能的に回避に動く。

 だが咄嗟の行動だったのだろう。左右の翼の内、黒の翼だけが命中して半分以上を喪失した。


『……!?』


 更なる驚愕が女を襲う。過去に何時受けたかも思い出せない程の遠き激痛が駆け巡り、顔面に脂汗を流して砲撃の根本を見た。

 溶け落ちた三階建ての建物の奥。背中から固定用のアンカーを地面に撃ち込んで砲撃体勢を取る鈍色の戦士が、十字のバイザーを青白く灯して女を見つめていた。

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