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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百九話】その男、少女の言葉を聞く

 三枚を同時に運用することは今の一喜にとっては多大な負担を与えることになる。

 僅かな時間であっても体力を容赦無く削り、一時間も維持すれば生命活動に必要な分すらも搾り取られていただろう。

 メタルヴァンガードのトライワンダー。中間第一フォームとされるその姿で彼は少女を見やり、ブースターを点火する。

 一枚だけの頃よりも強化されたセンサーは音速域での戦闘も問題無く可能とし、少女の下へと一気に接近した。

 少女も柄を強く握って彼を目で追い、怪物の両手が動いた瞬間に駆け出す。

 刹那、彼女の居た場所には数発の弾丸が撃ち込まれた。深く地面に沈んだ弾丸の威力は侮って良いレベルではなく、どれか一発でも受ければ今度は凹むだけでは済まされない。

 

『……なんで』


 建物の壁を踏み付けて反対の建物の壁に着地し、それを同速域の中で幾度となく繰り返しては彼の隙を伺う。

 見る限りにおいては今の彼は格闘戦が行えるようには見受けられない。先程出現した赤い武器達から推測するに、今の彼は中距離から遠距離を主体とした戦法しか取れないだろう。

 一般的に近距離の武器しか持たない人間が遠距離の武器を持つ人間と戦うのは不利だ。

 純粋な距離延長の差に、決定を下すまでの思考時間の差。この二つが近距離武装を持つ者にとっては特に不利に繋がり、迂闊な接近は即死へと通じてしまう。

 これで速度の上であれば上回っていればまだ勝機は大きかった。純粋な速度でもって詰め寄り、そのまま切り捨ててしまえば良いのだから。

 

 勿論、相手もそれを見越した上での高速移動化だ。少女は知り得てはいないが、三枚同時運用による筋力強化の影響で今の彼はライフルを片手で使用することが出来る。狙撃精度も維持した上でだ。

 現在使用している武装はアサルトライフルであるが、それでさえも反動を完全に抑え込んで正確な一点狙いが出来てしまう。これでもしもライフルの一点狙いで複数回命中してしまえば、鎧を抜いて肉体に甚大なダメージを与えることが出来る。

 故に、少女はこれまでとは異なる戦いを強いられることになった。

 己の感情による行動でもあるが、少女は移動しながら口を動かして彼へと問う。


『君、強い。 なのになんで……』


『――此方側ではないのか、か?』


 一喜は戦闘の素人ではあるが、その事実をまるで無視出来る度胸がある。

 少女の言葉を先に口にし、一喜は何でもないように理由を放った。それが少女にとってどれだけの衝撃を与えるのかも解らず。


『負け組と一緒に居たい奴なんて居ないだろ、普通』


『は……?』


 負け組。

 その単語は少女の胸の内を確かに揺さぶった。内側に存在する自身を構成する芯に嫌な音が鳴る幻聴を捉え、翡翠の瞳に焔が灯って熱量が増していく。

 この世界において少女は間違いなく勝ち組だ。己の担当する県の中であれば自由であり、何をしたところで人類を絶滅させなければ許される。

 特に上位者である少女は白黒のカードまでしか使えない同類すらも下僕として扱うことが可能だ。

 必然、適当な奴に運営を任せて少女は寝転がって日々を生きていた。

 過去の出来事の全てを無駄だったと切り捨て、己は新世界における選ばれし強者としての特権を手にしたのだと無意識の内に優越感も抱いていた。


 それが、彼にとっては負け組であるという。弱者であり、敗北者であり、取るに足らない者だと一喜は語るのだ。

 極自然と刃が躍る。剣閃は反射的な運動によって少女すらも予測出来なかったが、突然に現れたような攻撃は一喜の回避を僅かに遅らせた。

 メタルヴァンガードの胸部装甲には横に長い傷が付き、後少しでも深く入っていれば胴体を切り裂かれていただろう。それは確信であり、同時に少女が依然として負け組であることの証左だ。


『俺は何も言うつもりはない。 言ったところでお前達は納得しないだろうしな。 ……精々、強い自分に酔ってろよ』


 何故己に負け組と告げたのか。

 嚇怒と疑問の混じる瞳に一喜は答えない。そも、これは一喜が答えたところで解決する話ではない。

 少女は疑問を深め、怒りを加速させて身体を駆動させる。

 動きは依然として精細なまま。イメージ通りに銃刀は動き、しかしそのどれもがあの無意識の斬撃以外に命中しない。

 回避され、武器を盾に防御し、姿を隠して背後を取られる。

 上位者らしさのない後手後手の動きは見える者には滑稽に見え、同じ上位者達からの失笑を買うことになる。


『訂正、して。 私は、強いッ』


『いいや、いいや、アンタは別に強くもなんともない。 信用も信頼も置けないような奴に従っている時点で、アンタは自分を強いとは思っちゃいないだろ』


『――あの方の悪口を言うな! あの方は、あの方はッ』


 激情の勢いが増していく。怒りの炎は視覚することすら出来るのではないかと感じさせ、それでも一喜の胸に焦りはなかった。

 メタルヴァンガード本編において、アドバンスカードを使う者は中間フォーム以上でなければ倒せない強敵として描かれている。

 基本フォームや一枚や二枚のカードだけでは力負けをすることが多々発生し、解決への難易度を大いに高めた。

 だがその中でも、スペックそのものによるごり押しめいた純粋な暴威は結構あっさりと止められていたのを一喜は覚えている。

 本当に苦戦を強いられたのは、カードの持つ毒を跳ね除けられる程の信念を持った相手だけだ。

 

 そして銃刀を使うカードの持ち主は、本編では家族思いの主人公チームの一人だった。

 両親が死に、唯一残された妹の為に全身全霊を掛けて己を貫く。一喜には到底真似の出来ない愛によってベルトからの汚染すらも跳ね除けたその人物は、妹を守る為に磨いた全てを確りと胸に刻み込んでいる。

 忘れることは許さないし、負けてしまうことも許さない。正真正銘の鉄の精神は過度な負担を与えるフォームを難なく使い熟し――――最終的には右腕と左足を犠牲に本編を生き残った。

 これは所詮、物語の中での話だ。実際に起きたことではない以上、リアリティに乏しいのは仕方がない。


 されど、どうしても一喜は比較してしまう。

 その人物と眼前の相手を。戦闘時間が長引けば長引く程に眼前の相手に対する違和感は増えていき、その正体を朧気ながら掴むことが出来た。

 彼女に明確な信念と呼べるものはない。技術を有してはいるものの、怪物となって以降はまともに己の腕を磨いてはいないように見受けられた。

 それが正しいのであれば、彼女は過去を否定していることになる。自身の人格形成には間違いなく過去があったのにも関わらず、それを全て放り捨てているのだ。

 一喜とて忘れてしまいたい過去はある。会社員時代の裏切りは今でもトラウマだ。

 それでも忘れることを選択しないのは、あの裏切りを教訓にもしているからだ。

 

 互いに壁を駆け、宙で交差し、武器を向け合っては命を狙う。

 殺し合いの場で迷いは禁物。少女の太刀筋は依然として鋭さはあるも、彼は刃の恐怖を飲み込むことで一撃一撃を紙一重で回避している。

 それは一回ではなく。十回、百回でも繰り返して少女の焦燥と怒りをますます増大させた。

 お前など所詮はこんなものだと煽る様に彼女は負け組という言葉を更に意識させられ、最初の頃の余裕を根こそぎ削ぎ落される。

 後に残るは剥き出しの自分だ。隠しておきたかった本性が顔を出し、彼女の真なる願いが表出する。

 己は負けていない。勝って勝って勝ち続け、これからも勝ち続ける。そうだとも――――過去のようになりはしない。


『ツィィィィィィィ!!』


『……ッゥ!』


 鋭く息を吐き出し、彼女は弾けんばかりに総身に力を入れる。

 更なる激突が起きる刹那、少女の脳裏には見たくもない記憶が溢れ出した。

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