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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百七話】その男、努力家に会う

「成果は上々、かぁ?」


 押していく荷物の数は最初の頃よりも少ない。

 望愛が協力してくれるお蔭で一人分の労力が減り、幾らか彼は楽をすることが出来ていた。

 とはいえ、それは比較的にだ。まだまだ何も始まっていない中でどれだけ必要なのかが解らず、先を行く道は常に暗い。

 この荒廃した世界と同様、彼の道は輝いてはいないのである。

 その道が照らされるには成果が必要であり、それがまるで社会人のようで彼は嫌な気持ちを胸に抱いた。

 難しくなるのであれば、選択を間違えずに見捨てられる部分は見捨てるべきだったのだろう。どれだけ彼が行動をしたところで見返りなど無く、ただただ消費を強制され続ける。

 それでも今こうして自分達だけの拠点を築こうとしているのは、一重にもう約束してしまったからだ。


 この世界の人間を裏切るだけならまだいい。逃げて扉を壊せば、もう二度と彼等は一喜を追って来ることは無くなる。

 だが望愛が関りを持ってしまった。男の性として情けない姿をあまり見せたくない彼は、その時点で引き返す道を喪失したのである。

 最早やっていることは会社の設立よりも困難だ。これを軌道に乗せるまでに果たして何年の時間が必要なのかと思考を回し――視界の端に映った人間に思わず瞳を向けてしまった。

 

「お、んなだよな」


 建物と建物の間。

 暗褐色の外套を纏った人物は、確かに影に隠れる形で一喜を見つめていた。

 銀色の髪に翡翠の目の少女と言うべき年齢の人物からは幼さを覚えるも、その姿は明らかに周囲から浮いている。

 外套が汚れていないのもそうであるし、隙間から見える黒と白のチェック柄のロングスカートも破れが見当たらない。

 そこまで相手の外見を眺めて、ああと漸く彼は結論が出た。

 溜息を零しては空を見上げ、やっぱり来てしまったのかと愚痴を吐く。それが少女に届くことは無く、彼女は無表情のまま静かに彼を見据えていた。


 無視をしたら見逃してはもらえないだろうか。

 或いは、相手は何もせずに居てくれないだろうか。

 有り得ないもしもを考え、一喜は荷物を押しながら少女の傍を通り抜けた。警戒度を限界まで引き上げて後方に居る少女に意識を向け、徐々に徐々にと距離を取って拠点へと戻っていく。

 取り敢えずは人の居ない場所を目指すべきだ。そう思った彼は、しかし遠くから聞こえた爆音の数々に意識を引っ張られた。


「爆発!? そんな突然ッ……」


「突然じゃないよ」


 驚愕の声に被さる形で少女の声がした。

 反射的に真横を向くと、何時の間に移動したのか銀の髪を揺らした少女が一喜を見つめている。

 感情はやはり無い。静かに淡々と、先程は高めの声で事実を口にした。


「これは予定されていたこと。 私の方が先に見つけた」


「私の方が……ってことは、あっちは」


「適当に誰かを殺してるんじゃないかな。 まぁ、私にはどうでもいいことだよ。 ――貴方にとっても」


 瞬間、迸る殺意に一喜は距離を取った。

 カードを内ポケットから引き出し、少女は一喜のカードに視線を向ける。


「へぇ、本当に持ってるんだ。 最初に聞いた時は嘘だと思ってたんだけど」


「……」


「本当なら手加減はしちゃ駄目だね。 うん、ちゃんと戦うよ」


 少女は外套を揺らし、腕を前に出す。

 その手にはやはりカード。解り易く表側を見せ、そのカードに色が付いている事に一喜の目は見開かれた。


「あの人が危惧してたみたいだから、もう遊びはお終い。 さっさと終わってくれると私としては嬉しいかな。 動くのなんて面倒だし」


「お前……ッ!」


 スペードの模様が入った、ハンドガンと刀が合体したような武器。

 少女は自身のカードを潰すかのように胸に刺した。肉体に埋まっていくカードは内部に入ったと同時に効果を発揮し、肉体を戦闘用のモノへと変化させていく。

 一喜もまた勢いよくベルトにカードを挿入。レバーを倒して普段使いの戦艦の姿へと変わっていく。

 互いの姿が変わるのに三十秒も掛からなかった。

 一本角のメタルヴァンガードを纏い、彼は全身を銀の鎧で覆われた少女と相対する。

 初めてと言うべきか。少女の見た目は白黒の物とは明らかに違っていた。

 姫騎士が如き可憐さと勇壮さ。顔は兜で覆われず、変わらないまま素肌を晒している。

 まるでメタルヴァンガードのように纏っている様に少女は特に何も思ってはいないようだ。


 何度か銃刀を振るい、その切っ先を真っ直ぐに一喜に突き付けている。

 瞳に勝利の愉悦は無い。あるのは殺意のみで、言ってしまえば闘志そのものの彼女からは欠片も感じ取れはしなかった。

 油断はしないが、勝てはするだろう。そんな雰囲気を持った少女が足を一歩踏み出し、刹那的に加速した。

 

『ふッ……』


『――ッ、こいつ』


 真正面からの縦一文字。

 急加速による接近からの一刀を一喜は経験で回避し、鍔の部分に相当する銃口が此方に向いていることを視認する。

 少女は引き金を押し、弾を一発吐き出した。小型の銃弾は戦艦の装甲などとても突破出来るとは思えないが、念を入れて側面を狙って叩き落す。

 突然の方向転換に銃弾は耐え切れなかった。素直に斜め後方へと飛んで行き――――十階建ての建物が爆砕された。

 は、と一喜は息を吐く。内側で驚愕しつつも、表面上は余裕を持って。

 色付きが化け物の中でもワンステージ高いことは既に知り得ている。だからこその取り繕いは、しかし少女にとって些かも関係が無い。


『ん、良い。 ちゃんと使えてる』


『馬鹿にすんな。 土台は一緒だろ』


 言葉を交わしつつ少女は刀身を振るう。

 姫のような風貌からはとても想像出来ない斬撃は一秒で十を超え、例え着装をしていても確実に認識出来る程ではない。

 自身に追加で接続された経験から来る危険予知と限界まで稼働するセンサー類で致命傷を回避し、それでも命中すると思われる攻撃には腕で防御する。

 白黒のジャックでもなければ傷も付かない装甲は、しかし彼女の一撃一撃の前には完全に耐え切れているとは言い難い。

 明確に付けられていく刀傷にこれまでの敵とは質が違うと歯噛み。いきなり上位者がやってくるなと文句を言いたくなるも、言ったところで少女は命令だからと攻撃を止めてくれないだろう。


 左右上下、フェイントと銃撃も挟み込んだ連撃では砲の準備をすることは出来ない。

 そも、戦艦の主武装を行使するにはこの距離は適性ではないのだ。これまでは腕力や拘束目的で使用した錨で時間を稼ぐことが出来ていただけで、戦艦の戦闘距離は中距離から長距離である。

 斬撃が止んだ一瞬の隙に腰に付けた魚雷を放り、少女はそれを切り捨てた。

 直後魚雷は爆発を引き起こして互いを強制的に引き離す。双方共にまったくと傷は無いものの、それ自体に一喜側は然程気にしてはいない。


 腰を落して両肩合計六連の砲門を前に向ける。

 魚雷によって舞った土埃が視界を遮る中、一喜は熱源センサーを頼りに動く相手に砲撃を開始した。

 深く重い音が鳴り、弾が土埃を吹き飛ばして少女に迫る。

 少女側が相手の砲弾を視界に収め、銃刀を振るってそれを切り捨てた。左右に別れた弾は爆発を引き起こし、衝撃が少女の肉体を揺らす。

 脳天にまで響く揺れに視界が歪むも、少女は一切気にする素振りも見せずに駆け出す。

 少女の主武装は銃刀だけだ。元々のカードの能力上、彼女の武器では距離を開けられた途端に殺傷性を大きく落としてしまう。


 その代わり肉体性能は少女が上だ。相手が追加の砲弾を放ちながら腰のレバーを操作しているところを見て、直ぐに左右に動き始める。

 少女の動きは極めてスムーズだった。何年も何回も同じ動きをしていなければ完成しない動作に、これまでの敵との違いを感じさせる。

 あれは努力しなければ手に出来ない技術だ。他の負け犬と異なり、カードの力に振り回されている訳ではない。


 明瞭なまでに動きが変わった彼女を見て、ここからが本気だと一喜は確信した。

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