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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百五話】異世界の女、別世界の女と語り合う

 荷物を運び込む様を瑞葉は眺めていた。

 適当な瓦礫の一部に腰を落とし、一喜が此処に帰って来ることを今か今かと待ち受けている。

 ただ待つというのは、瑞葉にとってあまり苦ではない。日々何かを漁り続ける毎日では空を見上げる暇も無く、疲れ切ってしまえば食事を済ませて直ぐに横になってしまう。

 如何に過酷な世界で過ごしているとはいえ、男女の基礎体力には大きな差がある。

 休憩する時間が有っても、どうしたって最初に息切れを起こすのは女性だ。瑞葉もそこに例外は無く、尻に感じる瓦礫の硬い感触も慣れ親しんだものだ。

 そしてゆっくりする時間が出来たのならば、瑞葉の頭も冷静になる。今日の出来事を思い返す余裕も生まれ、必然的に自己嫌悪も彼女に襲い掛かった。


「……」


 顔を俯かせ、己の選択に迷う。

 彼女の行動は予定に組み込まれていない。己の欲望に従った結果として今がある。

 子供達の今後も、仲間となった立道の未来を彼女は考慮しなかった。考慮していれば今頃は踏み止まり、メンバーの賛成票を集めて堂々と此処に来ていただろう。

 自分勝手極まりない。こんな自己中な行動をする女を仲間はきっと良い目で見はしない筈だ。

 申し訳無さはあった。そうでなければ自己嫌悪は浮かばない。

 けれども、それでも。彼女は穏やかな生活を送りたかった。何も危険を考えず、それが当たり前だと思えるような日々を過ごしたかった。

 その為の代償が信頼であるのならば、彼女は散々に悩んだ末に払うだろう。

 

「喉乾いてる?」


「え?」


 俯かせていた彼女の頭上から声を掛けられた。

 思わずと顔を上げれば、彼女の眼前に果物の写真が印刷された缶を差し出す望愛の姿がある。

 この世界で飲食物が貴重であるのは今更言うまでもないが、それを差し出すとは一体どういうことなのか――そこで初めて、瑞葉は望愛を確りと見た。

 視界に映り込んだ姿は非常に整っている。およそこの世界では見る確率があまりにも低い、清潔で美貌に富んだ様だ。

 ジャケットやズボンは女性らしさをあまり感じさせはしないまでも、よくよく見れば汚れている箇所は少ない。

 いや、元は新品だったのではないだろうか。そうであるならば、彼女の姿が未だ綺麗であることにも納得出来る。


「調子の悪そうなんだもの。 それを無視するのは、大藤さんに怒られるかもしれないからね」


「大藤、さん……」


 大藤さん。

 その言葉を発する、清潔な美人。

 材料としては僅か二つ。されどこの二つは、この世界において大きな意味を持つ。

 瑞葉は缶を受け取った。その缶に印字されている文字は日本語であるが、賞味期限があまりにも未来にまで及んでいる。

 製造が終了したのは何年も前だ。新しい缶がこの辺りで製造されているなんて話を聞いた覚えはない。

 必然、この缶は異世界の物なのだ。蓋を開けて口に運べば、口内には随分と懐かしい甘味が広がった。

 

「甘い……」


「そう? 安物だけど口に合って良かったよ」


 目を見開いて呟く瑞葉に、望愛は差し出した方とは反対の手にもう一本の缶を持って答えた。

 そちらに視線を向ければ、違う果物の写真が印刷されている。デザイン違いなのか味が違うのは定かではないものの、重要なのはそこではない。

 彼女は缶を安物と言った。この世界ではこんな缶でも決して安物ではないのに、なんてことはないように蓋を開けて中身を全て飲み干した。

 

「貴方の御仲間さん以外には言わないでよ? あげたのは大藤さんと関係がある人だったからなんだから」


「――じゃあ、貴方も一喜パイセンと同じ世界の?」


 一喜と瑞葉の関係を知っている。

 それどころか世良との関係についても彼女は把握していた。であれば、少なくとも望愛が一喜とそれなりに深い関係性を有している。

 期待を込めて尋ねれば、望愛は当然のように首を縦に振った。


「同じ職場の後輩。 先輩の仕事に私も今後関わることになったの。 今日はその初日」


 異世界からの来訪者。

 世良がまだ真実であると断定出来ない存在が、新たに瑞葉の前に現れた。

 しかも一喜とは同じ職場で働き、先輩後輩の間柄。彼へと繋がりを作る上で彼女の存在は欠かせず、故に瑞葉は咄嗟に言葉を放った。


「じゃ、じゃあ一喜パイセンに会わせてもらうことって出来ますか!?」


 自分の目標が完全に叶うとは彼女自身も思ってはいない。

 思ってはいないが、さりとて目標の為に足掻くことは悪ではない。望愛もまた、彼女の必死な様子に悪意を感じ取ることはなかった。

 色素の抜けた茶髪の女性は彼に会って守ってほしいのだろう。この街で明確に力を見せ、此処限定とはいえ一定の地位は築かれた。

 本人はそれを理解してはいないものの、一度築かれてしまった地位には責任が伴う。

 助けたのならば最後まで助けてほしい。

 瑞葉の意見は端的に言えばそんなもので、そして助けてしまった側である一喜はそれを外道でもない限り認識しなければならない。


「会わせることは出来るよ。 此処で待ってれば必然的に帰って来るだろうし――でもどうしてあの人に会いたいの?」


「そ、れは……」


 望愛は全てを知り得ている訳ではない。一喜から概要は聞き及んでいるが、所詮はそこまでだ。

 本当に深い部分についてを彼女は知らない。なればこそ、興味が無くとも彼に並ぶ良い女でいる為には本音を隠して優しい人を演じる必要がここで出た。

 やりたくもない演技だが、大企業の重役と世間話をする過程でその辺の技術は身についている。

 加えて同性であれば、心の弱った今の彼女から話を吸い出すことは容易い。

 厳しく突き放すかはそれからでも良いだろう。未だ自分の都合だけを語ろうとする女性に苛立ちを感じつつも、努めて望愛は優しい女性を装った。


「守ってもらいたいのか、それとも何かを倒してほしいのか。 理由を知らないと応援することも出来ないね」


「……平穏に過ごしたいんです」


 後押しをすれば、瑞葉はゆっくりと口を開けた。

 この世界が危険であり、何か一つの切っ掛けで命を失うことになる。日々の生活すらも外部からの供給によって何とか成り立つ状況では、それが断たれてしまえば少し前の極貧生活に戻ってしまうだろう。

 人は良い生活を送るともう以前の暮らしには戻れない。それは瑞葉自身も自覚していることであり、なればこそ平和な世界で当たり前の日常を謳歌したかった。


「貴方の世界なら、きっと食べ物はあるんですよね。 それを安物と言ってしまえるくらい多く」


「そう、だね。 犯罪者が居ない訳じゃないけど」


「それでも地獄のような環境ではない。――――なら、私はそっちで生きたい」


 セーラー服の、望愛から見れば少々派手さのある少女。

 その女性が心から語る願いは、やはり望愛自身が知る普通の女学生と比較すると普通ではない。

 瑞葉は決して軽い気持ちで此処に居る訳ではないのだ。己の望みを果たす為に、恐らくは捨てられるものを捨てて望愛の前に立っている。

 無下にすれば待っているのは身の破滅だ。彼女は自身を崖まで追い込むことで同情や共感を得ようと無意識に画策している。

 生存本能が成せる業かと、望愛は内心で少し感心した。同時に、何処の世界でも女は女らしいのだと改めて理解させられる。

 

 女は狡い。自分を含めて、皆大なり小なり演技派だ。

 男にはない陰湿さを絡め、目標達成に強かになれる。瑞葉の見た目はまだ学生だが、その中身は確りと大人の女性として成長しているのだ。

 ならば、僅かであれど闇を知る側が言わねばならない。――世の中は涙や悲壮で釣ることが出来る人間の方が数は少ないのだと。

 人は本気になった時、何よりも自己を優先する。それはこの世界においても例外ではない。


『――あぁら、開始直前に中々面白い話をしているじゃない』


 そして今、言葉を発しようとする望愛の頭上からその最たる存在が言葉を零した。

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