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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百三話】異世界の女達、見る

「今週もか……」


 溜息を一つ。

 世良は外で聞こえる轟音に犬を走らせた。周りに居るのは瑞葉のみであり、彼女は横になっている犬が見せるモニターに視線を固定している。

 コンテナ内の彼女の私室は非常に質素だ。あるのは小物を入れる小さな箪笥と赤い寝袋、何故か天井まで何段も重ねた同じ型の金庫。

 扉は閉ざされ、外では子供達が遊んでいる声が聞こえている。

 先程までは物を漁りに外に出ていた子供達だったが、建物が動く轟音が聞こえたことで十黄主導で戻ってきていた。

 モニター内では今も建物を運ぶ鎧の姿が見える。

 軽々と持ち上げては他に運ばれた建物の隣に置き、また綺麗な建物へと飛んで行く。

 その動きに迷いは無い。種類を無視して件の存在は忙しなく行動し、彼女達が見ている三十分後に建物の移動は終わった。


 同時に外からの轟音も止む。

 辺りは静けさに満ち、近くで起こる浮浪者同士の怒声すらも耳に入って来ない。

 

「あいつ、何やってんだ?」


 世良の疑問の声に瑞葉は首を動かして賛同する。

 何をしているのか。映像を見ている限りではただ建物を一ヶ所に集めただけで、それ以外に大きな事をしている様子は無い。

 念のために複数の犬を用いて他に大きな変化がないかを探ってもみたが、結果としてはまったく皆無だった。

 彼が此処に来てやっているのは現時点では建物の移動とコンビニへの飯置きだ。

 今週も早朝時の探索で食料は用意され、子供達は焼き鳥だとかカレーだとかで散々に騒ぎ続けていた。ちなみに誰がどれを食べるかはじゃんけんである。

 

「やっぱり立みっちーが言ってたことなんじゃないですか?」


「……」


 立道が推測したのは、あの建物達が置かれた中心に異世界への道があるとするものだ。

 建物が壁として扱われているのも大切な物を守りたいからであり、同時に彼等なりの線引き。

 この中に入ったのであれば死んでも文句は言えないぞ。

 言外の脅しが建物には刻まれ、それを察することが出来る者は皆距離を取る。そもそもメタルヴァンガードは先のキャンプでの一戦で十分以上に恐ろしさを知らしめた。

 キャンプに住まう人間からすればあの鎧は恐怖の権化だ。化け物達と同列になる程の脅威ともなれば、無警戒に接近する人間は皆無だとも言えるだろう。

 

 逆に言えば、危険であるからこそそこにある物資は豊富だ。

 虎穴に入らずんば虎子を得ず。危険を顧みずに挑戦することで大きな益を手にすることが出来る。

 世良はまだ確信していないが、瑞葉にとってはそれが異世界への道だった。

 態々食料を漁るよりも、敵の脅威に怯えるよりも、別の世界に逃げてしまった方がまだ死から遠ざかることが出来る。

 生活はまったくと楽にはならず、ともすれば此処よりも苦しくなる可能性は十分に有り得た。

 ――――それでも、死にたくない瑞葉は異世界に救いを求めた。


「……どうなるにせよ、私達は接触出来ない。 仮に立道の推測が正しかったとして、それが何になる。 一喜が異世界に連れて行ってくれないのは前に言っていただろ」


「それは……そうですけど!」


 瑞葉の望みを一喜は叶えるつもりがない。

 それは以前より説明を受けていたが、では諦めるかと問われれば否だ。安心を求める限り、異世界への進出を諦めることは出来ない。

 瑞葉の真剣な顔を世良は冷めた目で見ていた。

 出来ぬことを何時までも語ったところで意味は無い。語るべきは現状から発生する損益についてであり、今回の場合は人が居ないことがそのまま益になる。

 流石に夜の音の無い状況では探索者が出て来るも、朝や昼の人通りはめっきりと落ち込んだ。

 このお蔭で警戒度は格段に低下し、予想外に多くの日用品を回収出来た。目下最優先目標である食料だけは零のままだが、そちらについては然程期待してはいない。

 

「先ずは自分の事だ。 食料の安定供給が望めれば、それだけ私達にも余裕が生まれる。 出来上がるのが野菜ばかりとはいえ、何も無いよりかは遥かに天国だ」


 世良は話を打ち切り、モニターに意識を集中させた。

 瑞葉は彼女の横顔を恨めし気に見つめ、そして倉庫の外へと静かに歩み出す。彼女の僅かな足音を世良は意識の片隅で聞きつつ、されど追うような真似はしなかった。

 

「安定、安定、安定って。 そんなの最初から無いでしょ」


 誰も居ない道の中で瑞葉は本音を零す。

 空気に溶けて消えていく言葉の中身は恨みや怒りに染められ、少なくとも彼女自身は世良の方針にまったく賛成ではなかった。

 異世界についてを知ろうとも、世良が取ったのはあくまでも現状における無難な一手。

 積極的な行動を慎み、安全圏を確保しながら外界との接触をなるべく断つ。

 変化としては一喜の齎した植物の生育。それを無事に育て上げ、より数を増やす為の種とする。

 遅い成長にはギャンブル性が無く、成程安定感があるだろう。

 だが、突発的な状況に対する備えは皆無だ。瑞葉が思うまでもなく、此処に大量の人間が殺到すれば容易く飲み込まれる。


 そうなれば今度こそ自分達は助からない。

 肉奴隷で最良、玩具として甚振られれば精神的な損傷は計り知れないのだ。

 そうなる前に事前に武器が必要となる。ドラゴンフライによる銃撃以外の、自分が手に出来る強い武器が。

 彼女の脳裏に浮かぶのは、先程モニターで見たメタルヴァンガード。

 あれを自分の物に出来たのなら、きっと化け物に襲われても何とかなる。逃げる一辺倒になろうとも、ただの人間としてよりは可能性は高い。


「――やっぱり、行かなきゃ駄目だよ」


 様々な最悪を予想していた。

 寝る前で、夢の中で、ふと暇な時間が出来た中で。

 何も知覚せずに殺される。身体中の肉を削ぎ落されながら断末魔と共に殺される。

 彼等の遊びの駒にされて殺されて、無数の男に犯された後に性病に掛かって苦しんで死ぬ。

 女としての絶望を脳裏に過らせ、瑞葉は気付かぬ内に身体を震わせていた。

 セーラー服の下の豊かな肢体には鳥肌が生まれ、背には冷えた汗が流れ落ちる。

 生理的嫌悪どころではない。最早これは忌避であり、断固として許す訳にはいかない恥辱だ。

 

 今更乙女のような思考はしていない。けれども、捨てることになるのならば多少は選り好みしたって良いではないか。

 時代がそれを許さぬとはいえ、そもそも人には選択肢が無数にある。

 組織としての選択を個人が違えることなどよくある話。ならば瑞葉がバットを持って外へと出て行くのも当然だ。

 このままでは駄目だと瑞葉は確信している。停滞を許さずに前に進んでいかなければ、何れ全てを喪失するだろう。


「皆……ごめん」


 子供達の、立道と十黄と烈の顔が頭に浮かぶ。

 謝罪を聞く者は居らず、彼女も返って来るとは思わずに倉庫街を後にした。

 目的地はただ一つ。密集する建築物がある場所へと足を動かして、未だ轟音鳴り止まぬ新たな道を進んだ。

 神など居ないと瑞葉は確信している。そんな超常的な存在が本当に居たならば、きっと世界はここまで酷くなってはいない。

 人を救うのは常に人だ。そして祈りを捧げるべき対象も人である。

 捧げるべき相手が一喜であったのなら、瑞葉は全力で彼を信仰するだろう。

 救世主は此処に在り。只人共よ、ただ跪き手足が如くに働くが良い。――それこそが我々の役目なのだから。


 歩く足に迷いは無く。背後を振り返る真似もしない。

 そんな彼女の背中を一匹の犬と蜻蛉が静かに見ている。彼女の動きに合わせて建物の影に隠れ、ただ静かに向かう先を捕捉し続けた。

 

「…………」


 世良は無言のまま、倉庫でモニターと睨めっこを続けていた。

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