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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百二話】その男達、次の一手に動き出す

「料理?」


「そうだ」


 望愛が決めた範囲に沿う形で建物を設置した後、一喜は彼女にまったく期待もしていない表情で質問を飛ばした。

 既に彼の身体からは鎧は解除され、先程から響いていた轟音も無い。

 いきなり発生した建物の移動と異音によって本日の探索者はほぼほぼ零になったが、彼等にとってはそんなことは気にする理由にならない。

 一喜の質問にアパートの階段に腰掛けていた望愛は首を傾げ――――ああと納得したように首を縦に振る。


「人を集める策?」


「話が早いな。 流石はお嬢様」


 建物の修復作業には時間が掛かる。新たに蜘蛛を増やして加速させることは出来るが、両名にも生活があるので無茶な散財は出来ない。

 なので、一度設置してしまったら追加の壁が完成するまでは他の作業をすることになる。

 中でも人を集める作業は早めに行っておきたいと彼は事前に彼女に話していた。

 要塞化を進めるにせよ、人手は常に必要だ。例え玉石の割合が石ばかりだとしても、二人の作業量よりも百人の作業量の方が圧倒的に物事が進む。

 人は単体では大したことが出来ない。これは歴史が証明することであり、故に人を早い段階で集めて作業を加速させたい。

 とはいえ、ゲームのように何処からともなく人が現れてくれる訳ではないのだ。

 彼等は普通に生きているし、本物の心を有している。絶望に浸り過ぎて感覚が零に成り果てているだろうが、それでもゲームの駒になどなる筈もない。


 彼等を動かしたいと思うなら、動かす為の燃料が必要だ。

 その燃料に料理を使うのは至極当然だろう。暖かい固形物を用意出来れば、この世界の人間は誰だってそれを求めて動き出す。

 望愛としてもそれは手札として強いと解っている。解っているが、それでも彼女は意外な表情を浮かべた。まるで予想していなかったかのように。


「……ですが、食材をどうやって用意するんですか?」


 彼女がこの段階で候補として外していたのは、一重に多くの人間の食を支えるだけの材料が用意出来ないと判断していたからだ。

 やるならば水耕栽培が成功した時。それでさえも肉や米は持ち込まなければならないのだから、今から貯金は絶対に必要だ。

 話に出すにはあまりにも早過ぎる。なのにこの段階で口に出したのであれば、何らかのあてがあると彼女はちょっとの期待を抱いた。

 

「別に今直ぐどうこうって訳じゃない。 何れは材料を自分達で用意する必要があるんだが、その際にお互いに料理の腕があるのか確かめておこうと思っただけだ」


 だが彼女の期待を知らず、彼は将来の話を口にする。

 今直ぐ料理をするのは一喜にだって不可能だ。大量の材料を集めるのであればこの世界で他に放棄された街を探る必要が出て来るし、作物を作る土台も多く準備せねばならない。

 一喜が尋ねたのは前提である。それが出来るか出来ないかで一喜自身の労力が目に見えて変化するのだから、計画に組み込む為にも知っておいた方が良い。

 彼からの説明に望愛は少々残念な思いを抱くも、それをまったく表に出さずに視線を空に向けた。

 瞳には自省の二字。一喜に限界があることは同じ世界であるからこそ彼女は知っておかねばならない。それを忘れてただ期待をするだけでは理想を押し付けるだけだ。


「……友人と生活する際に一通りの家事は覚えました。 料理も家庭の範囲内であれば出来ます」


「なら俺と同じくらいか。 てっきり家事に関しては任せているんじゃないかと睨んでいたが、杞憂で良かったよ」


「ふふ、そういうことを友人は許しませんよ。 平等が好きな人でしたから」


 静かな笑い声には、しかし少々の苦味が混ざっている。

 話を短く終わらせたが、一切を情報としてでしか理解していなかった時点では彼女はまったくと家事が出来ていない。

 親友とも呼べる同棲相手には何度も激怒され、何度も呆れられもしたものだ。顕現した鬼が苛烈に作業を教えたお蔭で、今この段階で彼女は一人暮らしが可能な範囲にぎりぎり到達している。

 それでも依然として親友からは心配されている状態ではあったが、これを払拭するのはまだまだ先の話だろう。確りと一人暮らしを成功させている実績があって、初めて親友は安堵してくれるのだ。


「その友人には感謝しないとな。 ……さて、空いている時間で街に行くか」


 心から一喜は望愛の友人に感謝を送った。

 漫画や小説で出て来るような典型的なお嬢様でないのは解っていたが、ここまで庶民に近い状態になったのは僥倖でしかない。

 きっとその親友は苦労したのだろうと同情しつつ、休憩を終わりにしようと街に行くことを告げた。

 

「今度は別行動でも構いませんよね?」


「ああ、何かあったらベルトを使え。 ついでに俺を探してくれればそれでいい」


「解りました!」


 やはり防衛手段があるのとないのとでは話が変わる。

 彼女は一喜から許可を貰い、我先へと街に進んでいく。目的地は特に決めておらず、半ば観光気分で街中で使える物を探すつもりだ。

 後頭部で揺れる一房の金髪はまるで彼女の内心を表したようで、こんな場所で明るくいれるのは随分な度胸がなければならない。

 その意味では彼女は異世界に適した人材であると言えるが、その明るさが楽観に繋がるのではないかと不安も抱かせた。

 

「他の建物はー、後三日くらいか?」


 不安から目を逸らし、一喜は修復の進む他の建物に視線を向ける。

 蜘蛛が出入りを繰り返す建物は未だ外装が綺麗になっていないが、窓から見える室内はそれなりに綺麗になっている。中身の電線部分までを含めて完全に直るとしたら、現在のペースだと後三日は掛かるだろう。

 次はそれを崩して壁の隙間を徐々に徐々にと塞いでいく。――と、そこまで考えて犬の存在を思い出した。

 

「あんな音立てたから世良達にも見られているよな。 いきなり話を聞かせろと言われたら面倒臭いな……」


 これからも轟音は鳴り続ける。五月蠅くなる事は事前に伝えてあったものの、流石に意味が解らぬ出来事が発生し続ければ疑問が抑えきれなくなる。

 この一回ではまだ彼等は動かないだろう。来るならば二回目か三回目が終えてからだ。

 一つの区画に巨大な建物が過剰な程に集まればキャンプからも偵察の手は伸びる。

 加えて今は静かな怪物達がちょっかいを掛けてこないとも限らない。大きく事を起こすと様々な勢力に目を付けられるのは世の常だが、出来ることなら全員黙っていてほしいと彼は願った。


 しかし、世界は彼の行動を見逃さない。

 歩き出す男は自分を平凡な人物だと定義しているが、そもそも人物の最終的な評価を下すのは多くの赤の他人だ。

 彼が普通だと思っても、世間の誰もが異常だと言えばそれは異常者として定義される。

 異世界からの来訪者。新しき勢力の首魁。鋼の先導者。

 知っている者から見れば、彼を果たしてどのように見るだろうか。


「…………」


 邪魔者として見るか。

 仲間として見るか。

 何でもない人間として見るか。

 遥か上空で、それは陽炎の如く揺らめきながら静かに見下ろす。

 瞳に感情を浮かばせず、表情一つも変えることなく。さながら精微な人形が如くに影は眼下の男を観察して――――その背後で空間が歪んだ。


『旦那様』


 歪んだ場所から言葉が響く。

 女性特有の高い声は愛に満ちていた。相手を嘘偽りなく慈しんでいる感情に、しかし旦那様と呼ばれた影は一切の反応を示さない。

 されど、女はそれで落胆を覚えることはなかった。寧ろそうでなければと、喜色を含んだ声が上空で静かに広がる。


『次の用意は済ませております。 後は合図一つで襲撃は仕掛けられます』


「……見事だ、クイーン」


 影法師が言葉を漏らす。

 男か女かも解らぬ声は不安定で、確かな称賛が込められている。

 

「少々、予想外なことが起きているみたいでね。 君達ですら万が一が起きるかもしれない」


『問題ありません。 何があろうとも、旦那様に勝利を』


「それは駄目だよ、クイーン」


 クイーンの声に即座に影が否を突き付ける。

 

「私は別に私自身が勝利を願っている訳ではない。 貴方達の夢を応援しているだけさ。 勝利など、所詮は私のちょっとした趣味でしかない」


『それでも我々は旦那様に恩があるのです』


 影法師は表情を変えた。

 困った少年のような顔は雰囲気とあまりに外れ過ぎてしまい、存在そのものに異質さを与える。

 年齢不明。性別不明。実在するかどうかも定かではない。

 正しく幽霊の二字が似合うこの影は、クイーンに向けられる確かな忠誠心を受け止めた上で空へと視線を動かした。


「それが貴方達が次に叶えたい夢であるなら、私は止めはしないさ」


『有難うございます。 偉大なる旦那様』

 

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