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玩具が魅せる異世界特撮  作者: オーメル


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【第百話】異世界の女達、壁を見る

 その日、世良は街の地響きによって起床を促された。

 微弱な地震、鈍い轟音。聞き慣れたくはないが聞き慣れた音に、彼女の身体は跳ね上がった。


「何だ!?」


 ズボンに半袖のシャツを着たままの彼女はジャケットを羽織ることも無く、同じく轟音によって外に飛び出た十黄達と合流する。

 世良の目から見ても十黄達の表情は困惑に彩られていた。何かが起きていることは解っていても、その原因について何も解っていない顔で世良に視線を向ける。

 子供達は特に不安気な顔を隠しもしていなかった。頼れる大人である瑞葉や立道のズボンの一部を掴み、怯えている素振りさえある。

 その顔を見て、世良は即座に己の表情を取り繕った。少なくとも自分だけは子供達の不安を煽るような真似はしてはならないと。


「……何が起きたと思う、世良」


「十中八九だろうさ。 こんな音が聞こえた時は」


 十黄と世良は言葉少なく、視線のみで会話を行う。

 突発的な轟音に地響き。その全てが彼等の所為であるとまでは言えないが、世良達の生活の中では最早この現象がそれであると結び付けている。

 怪物襲来。地獄顕現。

 見たくもない敵が出現して己の気の向くままに暴威を放っていたとするならば、その余波で建物の一つや二つが崩れても不思議はない。

 獲物は深夜まで物資を漁りに来ているテントの人間だろうか。それとも何時か来るとされるオールドベースの人間だろうか。


 どちらにせよ、この街に再度激戦の気配が漂うのは間違いない。

 ならば第一にしなければならないのは、先ずこの音の発生源を確定させることだ。


「犬!」


『――』


 動物の名前を世良は叫ぶ。

 それに合わせてこの倉庫街の中に居る一匹のブレイジングドッグが姿を現し、彼女の前でおすわりの姿勢で静止する。

 彼女は静止する機械の犬の頭を軽く撫でた後、その背を二度静かに叩く。

 叩かれた背の一部が開き、中から一枚のモニターが姿を現した。それが何の役割を持っているのかはブレイジングドッグの使用目的を考えれば明瞭だ。

 

「あの音に近い奴の映像を見せてくれ。 遠かったなら可能な限り近い位置まで接近を頼む」


『――』


 ブレイジングドッグは何も答えないが、真っ黒なモニターに突如として映像が出力された。

 ブレイジングドッグ同士には映像の共有能力がある。これを用いることで遠くからでも調査することが可能だ。

 今繋がっているのはその内の一匹であり、この犬は建物の屋上へと走っている。

 崩壊した入り口に入り、内側にある壊れた階段を危な気なく登り、そして鉄柵の壊れた五階建ての屋上で音の発生源を彼等に映す。


「これって……ッ」


 驚きの声を露にしたのは立道だった。

 映像には建物が無かった。基礎部分が見えはするも、一階から上の部分全てが消失して広々とした空間が辺りに広がっている。

 歪になった広場だ。無くなった建物の数も一つでは済まされず、確認出来る限りでは五つは無くなっていた。

 世良が更に指示を出して犬を走り出させる。

 遠目に見た限りでは人の姿も怪物の姿も無かった。既に目的は果たしたのか、犬が捉えた音は異様に少ない。

 

 元々建物があった場所まで走らせ、世良はその跡を暫く眺める。

 跡地は異常だった。建物があっただろう場所に僅かに残された壁部分は何故か綺麗で、罅も欠けも見当たらない。

 更に言うなら、この建物も含めて全ての建築物は千切って運ばれてはいなかった。

 残された壁には綺麗な切断面が見て取れ、恐らく運んだ者は刃物を用いて事前に上と下の接続を断ったのだろう。

 問題なのは人間が使う刃物では建物丸を綺麗に切断するのは不可能だということだ。

 切断面は綺麗で滑らかそのもの。一発で斬らなければ中々こうはならない。

 

「犬。 他のも動かして周囲一帯を捜索。 こんなデカブツを動かしたなら変に密集した場所を見つけ出せるだろ」


 指示を受けて更に犬が駆け出す。

 建物を五つも運んだ。それを行う犯人の意図は読めないが、人間が使う目的で用意された建物を怪物達が使うとも思えない。

 加え、建物自体はこの街以外にもあちこちに放置されている。秘密裏に何かしたいのであればこの街で建物を奪うような真似はしないだろう。

 とすると、建物はこの街に集まっている。もしくは街の近くに建物が増えている。

 世良が出した予想は街内だった。一喜が用意してくれた犬を使って複数で捜索させると、三十分もしない内に道を遮る巨大な建築物の群れが映像に映り込む。


 サイズはまちまち。五階建て規模から二階建て規模など、頂点部分はまるで揃ってはいない。

 けれども、建物を見た皆が明確な不自然を捉えた。――運ばれた建物達はあまりにも綺麗過ぎるのだ。

 この街がゴーストタウンのようになってから時間は多く経過している。手入れの一つもされない建物には経年劣化が目立つようになり、構造的に脆い建物は時間と共に勝手に崩壊した。

 新たに建物を作るだけの気力も今の人類には無い。であれば、この街に白い壁が残る建物がある筈がないのだ。


「……OK。 全員警戒を解いてくれ」


「パイセン。 これってやっぱり……」


「別の意味で十中八九になった。 間違いなく一喜の仕業だろうね」


 断定の世良の言葉に誰もが溜息を漏らした。

 その直後に映像には建物の屋上からメタルヴァンガードが姿を現し、別の綺麗になっている建物に近付いていく。

 その手には一本の剣が握られていた。鍔の部分に細工の施された機械剣にカードを一枚装填し、メタルヴァンガードは微塵の躊躇いも無しに建物を横に斬る。

 一閃が入った後、メタルヴァンガードは剣を腰に装着して建物に腕を突っ込ませる。

 そして次の瞬間、まるで重力が無くなったの如く建物は易々と中空に持ち上げられた。

 瑞葉と立道はその様子に唖然とし、子供達は無邪気に凄いとはしゃぎ、世良と十黄は何をしているんだと訝しむ。


「建物を集めて何をしてるんだ?」


「見た感じ……壁かなぁ」


 彼等が運び込んだ建物は一ヶ所に密集している。

 窓や入り口を除けば隙間を塞ぐ形で配置され、その内部で何が行われているのかを目視するのは難しい。

 それが目的であるならば既に達成されているだろうが、世良は内心疑問符を抱いている。多数の注目を集めるような真似をしてまで一喜がそんな真似をするだろうか。

 隠れて行動したいのであれば建物を動かすのは悪手だ。人が集まってくれば隠し事が露見する確率も大いに高まる。

 それに、最後に会った際の会話が彼女の疑問を深めていた。

 五月蠅くしても気にするなとはこのことなのか。これから更に五月蠅くなっていき、誰も彼もが無視出来ない状況を作り上げるとでも言うのか。

 ――それを有り得ないと一蹴することは世良には出来なかった。


「世良さん、あの周囲に何か特徴的な建物はありますか?」


 彼がしている行為にただ疑問を感じていると不意に立道が質問を投げ掛ける。

 その内容の真意を直ぐには解らなかったが、あの建物が密集している場所を思い返して何も無いと答えた。

 実際、建物の周りにあるのは自然や住宅地だ。少し離れた地点に廃スーパーがあるが、そちらの物資は遥か前から完全に無くなっている。

 他に目立つような施設も存在せず、一喜が態々そちらに建物を運ぶ理由がまるで理解出来ない。


「……もしかしたら、なんですけど」


「なんだ? 何かあるのか」


 立道の声に迷いが入る。

 言うべきか言わざるべきかを内心で戦わせ、早く意見を聞きたい十黄は少々の苛立ち混じりに先を促す。

 世良もまた十黄の意見に賛成だ。無言で目を立道に向け、二人のトップに促された彼はおずおずと己の予想を口に出す。


「あそこに異世界の道があるんじゃ――」

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