49.婚活令嬢ロゼッタは、なによりお金を愛している!
ロゼッタはカーテンを開け放った。
柔らかな太陽の光が部屋に差し込み、ロゼッタは大きく深呼吸をする。
ドレスや宝石で溢れかえっていたロゼッタのクローゼットやドレッサーは、この数日の間に綺麗に片付けられ、部屋には大きなトランクが一つしか置いていない。
宝飾品の殆どは、祖父母の家へ送ることにした。隣国に持ち込んだところで使う機会が少ないし、身軽でいたいと思ったからだ。
今日は化粧は薄めで、髪も緩く結んだだけ。ドレスはコルセットの締め付けがない、シンプルで軽い布のものを選んだ。
これまでのロゼッタとはまるで違う。
――けれど、これでいい。
(よし)
苦楽をともにしたこの部屋とも今日でお別れだ。ロゼッタは「行ってきます」と口にして、いつものように部屋を出た。
「荷物はこれだけですか? あのロゼッタ様が?」
「ええ、そうよ! すごいでしょう? ものすごく厳選したんだから」
城門の外、ロゼッタを迎えにやってきたライノアはロゼッタからトランクを受け取ると、クスリと小さく笑いを漏らす。彼は従者にトランクを渡すと、馬車に積むよう伝えた。
「後悔して、取り寄せることになるんじゃありませんか?」
「そうかもしれないけど! いいじゃない! 今のわたくしはこういう気分なの! まっさらな気持ちで新生活をはじめたいというわたくしの気持ちに水をささないでちょうだい!」
ロゼッタが頬をふくらませる。ライノアはそっと目を細めた。
「あーあ、まさかロゼッタのほうが先に城からいなくなるとはね」
見送りにやってきたクロエがロゼッタを小突く。
「結婚式に来てくれるっていう約束、忘れないでよ?」
「ええ、もちろん! なにがあっても参りますわ」
ロゼッタはクロエと手を取り笑いあった。
「ロゼッタ!」
とそのとき、セリーナとクローヴィス、トゥバルトが一緒になってやってくる。ロゼッタは三人に向かって頭を下げた。
「わざわざ見送りに来てくださったのですか?」
「当たり前じゃない! もう! そんな水臭いこと言って……寂しくなるなぁ」
セリーナは言いながら、段々涙ぐんでいく。王族ゆえに大人びて見えるが、ロゼッタよりも年下のまだ十五歳の少女なのだ。ロゼッタはポンポンとセリーナの肩を叩いた。
「またすぐにお会いできますわ。わたくしの籍は残しておいてくださるのでしょう?」
「ええ」とうなずくセリーナに目を細めていると、クローヴィスがじっとライノアを見つめていることに気づいた。彼はしばらくそうしたあと、徐ろに口を開く。
「泣かせるなよ」
「――はい」
ライノアが返事をすると、クローヴィスはムッと唇を尖らせる。
「常に美味しいものが食べられて、好きなドレスが着られて、夜会やお茶会は思うがままに出席できる環境を作るように。それから――」
「お兄様、小姑じゃないのですから……」
なおも続けようとするクローヴィスをセリーナが止める。クローヴィスは小さくため息をついてから「俺が控えていることを忘れないように」と付け加えた。
「殿下ったら……」
ロゼッタが苦笑を漏らしているとライノアがスッと前に出る。
「今すぐには無理かもしれませんが」
彼はロゼッタの手を握ると、真剣な表情でクローヴィスを見つめた。
「ロゼッタ様が望む生活を送れるよう励みます。必ず――そうお約束します」
「――ああ」
クローヴィスはそう返事をすると、ようやく表情を和らげた。
ホッと息をつくロゼッタへ、トゥバルトが静かに歩み寄る。
「体に気をつけて。なにかあれば必ず力になるから、頼ってほしい」
「トゥバルト様、ありがとうございます」
「それから、これは俺からの餞別として持っていってほしい」
トゥバルトはそう言って、小さなビロードの小箱をロゼッタに手渡す。促されて開けてみると、中には小さいながら眩い光を放つ宝石が収まっていた。
「こ、これは……!」
つい最近、オークションで高値がついたと話題になっていた宝石と同じものだ。売れば大きな屋敷が数件建つほどの代物で、ロゼッタの目玉がキラキラしてしまう。
「観賞用にしてもいいし、装身具として身につけるのもいい。それから、お金に困ったら換金してくれても構わない。ロゼッタ嬢の自由に使ってくれたら俺は嬉しい」
「トゥバルト様、これほどの価値がある宝石を餞別とするのはさすがに……」
そう口にしたのはライノアだった。実家が宝石を取り扱っているため、彼にもすぐに換価価値がわかったらしい。
「ライノア様ったら、なにを言っていらっしゃるのです!? いただけるものはありがたく頂戴する! これは人生の鉄則ですわ! ということで、トゥバルト様のご厚意、ありがたく頂戴いたします! 本当に、ありがとうございます!」
ロゼッタはライノアから宝石を遠ざけると、キラキラした瞳で太陽に掲げ崇めた。
「……まあ、ロゼッタ様ならそう言うと思ってましたが、さっきは持参するものを厳選したとか、身軽でいたい気分だと言っていたのに」
「それはそれ、これはこれです! だって、わたくしはなにより、お金を心の底から愛しておりますのよ?」
ロゼッタの言葉に、その場にいた全員が噴き出す。
「それでこそ、ロゼッタよね!」
クロエの言葉に、ロゼッタは満面の笑みを浮かべるのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました! 不定期連載の時期が長い中、一緒にお付き合いいただいた読者様のおかげで、今回も無事に作品を完結をさせることができました。心から感謝申し上げます。
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