48.いつまでも
ライノアと話をした後、ロゼッタは急いでセリーナのもとに戻り、隣国へ行くことを伝えた。
ライノアに付いていくからには、セリーナの侍女は辞めなければならない。急な退職で迷惑をかけることになるとわかっていたが、ロゼッタは揺るがなかった。
「まったく、ロゼッタらしい決断よね」
セリーナはそう言って困ったように笑う。
「いいわ。隣国に行くことを許してあげる」
「セリーナ殿下……!」
「だけど、退職を許可したわけじゃないから」
「え?」
きょとんと目を丸くするロゼッタの肩を、セリーナはポンと叩いた。
「あなたの籍は残しておくから、いつでも戻ってきてよね」
「セリーナ殿下……」
「それに、お兄様からも頼まれていたのよ」
「クローヴィス殿下から?」
ロゼッタが尋ねると、セリーナは「ええ」とうなずく。
「もしもロゼッタがそういう決断をしたら、意思を尊重するようにって」
「そんな……」
まさかクローヴィスがそんなことを言うとは思っておらず、ロゼッタは絶句してしまう。セリーナはしばらく逡巡してから、ロゼッタの方に向き直った。
「ロゼッタ、お兄様に会いに行ってあげてくれる? あなたの口から直接聞きたいと思うの。きっと悲しむだろうけど、それでも」
ロゼッタはすぐにクローヴィスのもとへと向かった。
道すがら、ロゼッタは自分からクローヴィスに会いに行ったことがほとんどなかったことに気づく。
(クローヴィス殿下はいつも、わたくしに会いに来てくださっていたんだわ)
文官に取り次いでもらい、ロゼッタはクローヴィスの執務室へと入った。人払いをしているらしく、中にはクローヴィスしかいなかった。
「ようやく俺に会いに来てくれたね」
クローヴィスはそう言って悲しそうに笑う。どうやら、ロゼッタの決断に気づいているらしい。ロゼッタは深々と頭を下げた。
「クローヴィス殿下には本当に申し訳ないと思っています。けれど……」
「俺じゃダメなの?」
クローヴィスはそう言ってロゼッタの側へとやってくる。それからロゼッタを強く抱きしめた。
「ずっと――ずっと好きだった」
「クローヴィス殿下」
ロゼッタは静かに息を呑み「ごめんなさい」と伝える。
「わかっていたんだ」
クローヴィスは言いながらロゼッタを解放すると、ロゼッタに背を向けた。
「きっと、こうなるだろうって。俺を選んではもらえないと思っていた」
「――それでも、殿下はわたくしの意思を尊重してくださいました」
本当は、国王に頼んで結婚に応じるよう命令することだってできた。ロゼッタの婚活相手を排除することも、ロゼッタの行動を制御することも、クローヴィスには可能だったはずだ。
けれど、彼はそうはしなかった。
クローヴィスは最後までロゼッタの意思を尊重し、選ばせてくれた。
すべてはクローヴィスがロゼッタを愛しているから――幸せになってほしいからに他ならない。
「クローヴィス殿下、こんなどうしようもないわたくしを愛してくださって、ありがとうございました」
ロゼッタがそう言うと、クローヴィスが小さく鼻を啜る音が聞こえた。
「――言っておくけど、俺はまだ諦めたわけじゃないよ」
クローヴィスの言葉に、ロゼッタは「え?」と目を丸くする。
「ライノアと一緒に隣国に行くだけで、すぐに結婚をするわけではないだろう? だったら、俺にもチャンスはあるわけだ」
「殿下……」
クローヴィスはロゼッタの方を向くと、真っ赤な瞳を細めて笑った。
「いや、たとえ結婚しても関係ない。……待つよ、いつまでも。『俺がいい』と思ったら、いつでも帰ってきてほしい。俺はこの場所でずっと、何年でも、君のことを――ロゼッタ嬢の幸せを想ってる」
「クローヴィス殿下」
ロゼッタはクローヴィスの手を握り、満面の笑みを浮かべる。
「ありがとうございます」
クローヴィスは力強くうなずくと、静かに目をつぶるのだった。




