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24.隣国の文官

 移動すること数日間、一行はようやく隣国の王都へとたどり着いた。



(なんだかドッと疲れましたわ)



 ロゼッタは隣国の荘厳な城を見上げながら、ホッとため息をつく。

 ターゲットと四六時中一緒ということは、気を抜く暇がまったくないということ。もちろん、アピールする機会が多いのはありがたかったが、一つのミスが一生を左右しかねないので、中々のストレスだった。


 とはいえ、今回の収穫はかなり多い。


 移動をしている数日のうちに、ロゼッタはトゥバルトと数回食事をすることができた。警護の間を縫っての短い時間ではあったが、トゥバルトはロゼッタにいろんなことを話してくれたし、本当に気前がよかった。さすがは今、もっとも潤っている領地の主だとロゼッタが感心するほどに。


 長期休暇になったら領地に招待してくれると約束を取り付けたし、婚活の手応えはかなり上々だ。


 けれど、いい雰囲気になるたびにクローヴィスがちょっかいを出してくるのが厄介だった。



『トゥバルトはそろそろ仕事に戻らなければならないだろう? ここから先のロゼッタ嬢のエスコートは俺に任せてくれ』



 王族と騎士団長なら、圧倒的に王族が強い。クローヴィスに命じられたら、トゥバルトは従わざるを得ないのだ。

 とはいえ、ロゼッタの価値観はお金>身分なので、それだけでトゥバルトの株が落ちることはない。


 それに、クローヴィスはクローヴィスで立ち寄った領地の名産品や宝飾品を買い与えてくれるので、ロゼッタは満足していた。



『言っただろう? 王族だって、ある程度は自由にお金を使えるんだよ』



 ロゼッタの価値観を理解したうえで、効果的な一手を投じてくるのだから、クローヴィスは厄介としか言いようがない。とはいえ、くれるというものを辞退するという選択肢はロゼッタにはなかったし、丁重に扱われているのだから悪い気はしない。セリーナはそんなロゼッタやクローヴィス、トゥバルトを見ながら半ば呆れていたようだったが。



「ようこそいらっしゃいました」



 王城に着くと、文官が一行を出迎えてくれた。ロゼッタと同じ年頃の、若く美しい男性だ。

 落ち着いた雰囲気、きちっとした着こなしなど、どことなくライノアに似ている。けれど、こちらの男性のほうが洒落っ気があるし、目に野心が宿っている。将来大物になるタイプだとロゼッタは感じた。



「担当文官のバルデマーと申します。長旅でお疲れでしょう? 滞在期間中にお過ごしいただくお部屋にご案内させていただきます」



 バルデマーはセリーナやクローヴィスと談笑しながら、城内を案内してくれた。明るく社交的なことに加え、王子様のようなルックス。バルデマーは仕事ができるし、モテるに違いない。ほんの数分のうちに、ロゼッタは自分の直感が正しかったことを確信する。もしも彼が外国人でなければ、その将来性を買って、まっさきにターゲットにしただろう。



(でも、この方は追いかけたところで意味がなさそうね)



 部屋に到着した後、お礼を言うとともに微笑みかけてみたものの、バルデマーはまるで脈がなかった。おそらくは誰か心に決めた人間がいるのだろう。こういうタイプにはなにをしても無駄なので、ロゼッタは最初から手を出さないことに決めている。



「さっきの文官、素敵だったわね……」



 けれど、男性と接する機会の乏しいセリーナにはそうとわからなかったようで、ポッと顔を赤らめていた。



「そうですわね」



 とはいえ、セリーナの好印象を壊すのは忍びない。ロゼッタは笑顔で同意をする。



「……ちなみになんですけど、王太女殿下と婚約したのは先程の男性ではないのですか?」


「いいえ、別の男性よ。ランハート様とおっしゃるんですって。おそらくバルデマー様も婚約者候補に入ってはいたのでしょうけど」


(でしょうね)



 と、ロゼッタは心のなかで返事をした。

 あれほどの野心を抱えているのだから、王配候補に入っていないはずがない。ロゼッタは自分の見る目は正しかったと内心で小さく笑った。



 セリーナに用意された部屋は落ち着いた雰囲気の豪華な一室だった。クローヴィスとは隣の部屋で、行き来がしやすくなっている。



 今回の公務の目的である王太女とは明日対面することになっており、今日はもう食事をして休むだけだ。セリーナにしっかりと体を休めてもらうため、ロゼッタはまずお茶の準備にとりかかった。



(やっぱり色々と勝手がわからないわ。城外で働くなんてはじめての経験だもの)



 どこで、誰に、なにを頼めばいいかなど、事前に手引をもらっていたものの、いざというときに上手く体が動かない。ロゼッタが困っていると、背後からフッと嘲るような笑い声が聞こえてきた。



「これだから顔だけの女性は。本当に使えないのね」



 見れば、クローヴィスの侍女がティーポットを運びながら口角を上げているところだった。



「それは、まあ……申し訳ないです」



 現状、言い返す言葉がないので、ロゼッタは素直に頭を下げる。すると、クローヴィスの侍女はフンと鼻を鳴らした。



「さっさと来なさい。クローヴィス殿下がセリーナ殿下とお茶をご一緒したいそうだから二人分準備してもらったの」


「ありがとうございます。助かりますわ」



 自分の仕事が減るのはいいことだ。ロゼッタが微笑むと、侍女はムッと眉間にシワを寄せた。



「あなた、侍女としての矜持はないの? 頼まれた仕事もろくにこなせないなんて、恥ずかしいと思わない?」


「そりゃあ、まごついて申し訳ないとは思いますが、恥ずかしいとは思いませんわ。頼れる人は存分に頼りますし、セリーナ殿下もきっと『わたくしらしい』と笑ってくださるはずですから」



 侍女は不機嫌なのを隠す様子もなく、セリーナたちの部屋へと進んでいく。だが、扉を開ける瞬間にコロッと態度を翻し、満面の笑みを浮かべた。



「クローヴィス殿下、お茶をお持ちしました」



 上品で落ち着いた雰囲気。なるほど、侍女としての矜持とはこういう態度をいうのだろう。

 侍女は感心しているロゼッタを小脇で小突きながら「早くセリーナ殿下を連れてきて」と言う。言われた通り、ロゼッタはすぐにセリーナを連れてきた。


 他作品のキャラ(バルデマー)をこんな形で登場させる予定はなかったのですが、彼らのその後を描くことができて、個人的に嬉しいです。本作の本編にガッツリ絡みはしないのですが、幸せそうな「実はわたし、お姫様でした!」の面々を見守っていただけますと幸いです。

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